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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百九話 信念(3/8)

氷室(ひむろ)くん、次もいけるかい?」

「はい、投げさせてください」


 ベンチに戻ると、伊達(だて)さんがあっくんに確認。球数的にも完投はない。あっくんを勝たせるための攻撃のチャンスはイニングにしてあと2回と考えた方が良さそうだね……


「5回の表、バニーズの攻撃。9番ショート、宇井(うい)。背番号24」


 この回はアタシに回る。けど3人目。点差的にも出てもらわないといけないけど……


「あけみん!そろそろ1本頼むで!」


(そうしたいのは山々っすけど……)

「ストライク!バッターアウト!」

「チェンジアップ!空振り三振!」

(やっぱりこういうのはまだ……)


「うーん、全然タイミング合わんなぁ……」

「二軍でも微妙やったし、まだまだこれからやろ」

「高卒ルーキーが"守備の人"やれてるだけでも十分すぎるわ」


 朱美(あけみ)ちゃんにはまだ荷が重いか。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号24」

「5回の裏、4-1、ビリオンズリード。ワンナウトランナーなしで打順は三巡目に入ります。今日も1番でスタメンの月出里(すだち)。今日はここまで1打数無安打1四球。十握(とつか)との首位打者争いには一歩リードを許してる状況。3年連続シーズン最終戦勝利のためにも、ここは何とか1本が欲しいところ……」

「ストライーク!」


 うーん、何か今日の(あい)ちゃんは妙に大振り。首位打者がかかってるのに……


「ちょうちょ!いつも通りでええんやぞ!」

「たまにちょうちょこうなるよなぁ」

「点差的にも普通に塁出たらええのに……」


(ッせぇな……)

「!!!痛烈!しかしサード止めた!」


「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」


「ちょうちょ!こぼしとるで!!」

「ダッシュやダッシュ!」


「アウトォォォ!!!」

「間に合いました!これでツーアウト!!」


 多分アウトだけど、ちょっと微妙なとこ……


(うーん、1回失敗して後がないけど、リクエストするべきか……十握くんとの兼ね合いもあるし、3点ビハインドでこの出塁1つに使うのは……)


 一塁を駆け抜けた後、ベンチの方を見て手をかざす逢ちゃん。リクエストする必要がないってことかな……?


(良いのかい?)

(別に)


 まぁリクエストは残り1回。下手すると逢ちゃんだけ贔屓したようにも見えるし、しょうがないのかな?


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


 ツーアウトランナーなし……後続は三四郎(さんしろう)くんにリリィちゃん。信頼できないわけじゃないけど、一般的には得点が難しい場面。


「ボール!」


 アタシの役回り的に、ここでも塁に出られれば十分仕事はしたと思ってもらえると思う。あっくんにも、他の人達にも。


「ファール!」


 けど、結局のところ野球は点取りゲーム。最近は『弱小チームの過剰なバントの指示は監督の責任逃れ』みたいな風潮があるように、塁に出てチャンスを作るだけじゃ何も得られるものはない。

 ……今日のバッティング練習。珍しく柵越えがポンポン打てた。一軍に戻ってから空振りもしてない。仮にスタンドまで届かなくても、ツーアウト一塁と二塁、三塁とじゃ点の取りやすさも全然違う。

 ここはあえて欲張って……


「!!!引っ張った!」






「アウト!」

「ああっ、またしてもファースト真っ正面……」


 フルスイングの後、慢心せず全力疾走しようとしたけど、すぐに脚を止めて、思わず天を仰ぐ。


「エアゲッツー乙」

「3打席連続ホームランならたまに聞くけど、3打席連続ファーストライナーとか初めて聞いたわ……」

「かおりん、何を力んどるんや?(その目は優しかった)」

「非力なくせに何イキってるのよあのブス?」

「頑張ってますアピールキモ」


 ……くっそおおおッッッ!!!何でだよ、何でだよ……!

 表情には出てるかもしれないけど、思わず叫んでしまいそうな悔しさを噛み締めて、ベンチへ戻る。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「ストライク!バッターアウト!」

「最後は落としました!これでスリーアウトチェンジ!6回の表、この回は三者凡退に終わりました!」


 1回以来の三凡。三振も()れたし内容も悪くない。けど……


「うーん、でも粘られたなぁ……」

「球数的にこの回までか……?」

「せっかく氷室くん、エンジンかかってきたのに……」


「氷室くん、お疲れ様。次の回からは早乙女(さおとめ)くんに任せるからね」

「はい……」

(せめて同点までは粘りたかったが……)


 100球超えた以上、しょうがないよね。


「3番レフト、十握(とつか)。背番号34」


 でも、まだ勝たせるチャンスはある。点差的にこの回アタシまで回ってくれば、ちょうど逆転か勝ち越しくらいのタイミングになるはず。そこで今度こそ……!


「ストライク!バッターアウト!!」

「見逃し三振!低めいっぱい!!」


(入ったか……!)

(うーん、『審判によっては』ってとこですねぇ。まさか私が十握さんから三振を()れるとは……西科(にしな)さんのキャッチングに感謝ですね)


 まさかまさかの三四郎くんが……こりゃちょっとヤバいかな……?


「ピッチャーの足下……抜けました!」


「「「おおっ!!!」」」


「センター前ヒット!オクスプリング、今日初ヒット!」

(ここは欲張るとこやないしな)


 よしよし、リリィちゃんナイス……!


「打ち上げて、ライト浅いとこ……」

「アウト!」

「これでツーアウト!」


「「「あああ……」」」


(くそっ、ミスショットか……!)

(打ち損じてくれたけど、ちょっとタイミングが合い始めてるな……)


 ……まだツーアウト。まだツーアウト。


「レフトの前、落ちましたヒット!」


「ナイバッチ松村(まつむら)!」


 初球から思い切っていったね。アタシ以外の人達も球筋に慣れてきたのかな?なら好都合。流石に(しずか)さんに一発は期待できないけど、繋いでいけばまだ何とか……


「ビリオンズ、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、三矢(みつや)に代わりまして……」


 ……って交代!?


(今日の三矢は何だかんだでよくやってくれた。先発再転向だが、CS以降でも計算できそうだ。ここは温存だな)

「バニーズ、選手の交代をお知らせします。7番、赤猫(あかねこ)に代わりまして、秋崎(あきざき)。7番代打、秋崎。背番号45」


「おおっ!おっぱいやんけ!」

「まぁ左やしな」

「おっぱいミサイルで同点や!」


「閑さん……」

「この場面じゃしょうがないわよ。あたしも今日守備で微妙に下手こいたし。頑張ってきなさい」

「……はい!」


 佳子(よしこ)ちゃんがネクストにいた閑さんに一声かけてから、打席に向かう。

 正直期待値的にはあんまり差はないと思うけど、あっくんを勝たせてくれるなら何でも良い。

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