第百九話 信念(2/8)
「ライト下がって……」
「アウト!」
「捕りました!これでスリーアウト!4回の表の攻撃終了、3-0!ビリオンズのリードが続きます!」
「オッケーイ!」
「パンダ、落ち着いてきたな」
「そろそろ逆転頼むで!」
この回もあっくんは四凡。あっくんの本来の力ならこのくらい当然。
「4回の裏、バニーズの攻撃。3番レフト、十握。背番号34」
「4回の先頭打者は十握。第一打席でヒットを放ち、現在打率は.351。月出里との首位打者争いでわずかにリード。ここで突き放して優位を築けるか……」
アタシの打順の前後で行われてる熱い戦い。逢ちゃんと三四郎くんには悪いけど、正直どっちが勝ってもいいから出まくってあっくんも勝たせて欲しい。
「……ボール!フォアボール!」
「選びました!これで今シーズン72個目!十握も月出里も、打率のみならず出塁でもリーグトップクラス!」
「なおバニの得点力」
「やめーや(迫真)」
「なんもかんもヒョロガリなんが悪い……」
「4番指名打者、オクスプリング。背番号54」
よし!リリィちゃんも続いて……
「おふっ!!?」
「ああっと!当たってしまいました!」
……リアクションに困る。望み通り続いてくれたけど、こういうのはね……
「5番ファースト、金剛。背番号55」
「ノーアウト一二塁、一発同点の場面で打席には金剛。3年ぶりに規定到達となった今シーズン、現在チームトップの15本塁打。頼れるベテランとして、随所でチームを助けてきました!」
同点、同点……
「ああっ、セカンド正面……」
「アウト!」
「二塁へトス!」
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!二塁ランナー十握は三塁へ!」
Oh……
「おいィ!?何でこんな時にゴロレボやねん!!?」
「いつも通りカチ上げろや!」
「やっぱ金剛は波がなぁ……」
「6番ライト、松村。背番号4」
ま、アタシもやらかしたし、他人のこと言えないか……
「ライトの前……落ちました!」
「「「「「よっしゃあああああ!!!!!」」」」」
「セーフ!」
「三塁ランナーホームイン!3-1、バニーズ、1点返しました!松村、スタメン起用に見事に応えてみせました!」
(プロ4年目だと言うのに、1年後輩の月出里さんと比べてこの体たらく。来年こそは……!)
……『金剛さんが送ってたら2点』、とか考えちゃいけないよね。
でも、あと2点……いや、勝つなら3点。アタシでも状況次第で取れなくもない。今度こそ……!
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「!!!センター下がって……」
「「「「「いやあああああああ!!!!!」」」」」
「行くな!行くな!!越えるな!!!」
「あっ(絶望)」
「入りましたホームラン!」
そんなこと考えてた矢先に……
「赤藤、第8号!これで4-1、すぐさま点差を3に戻しました!!」
あと4点……
(くそッ……!)
「ボール!フォアボール!!」
(OPSご馳走さん♪)
「ライト線……落ちましたヒット!一塁ランナー一気に三塁へ!!」
「セーフ!」
「三塁セーフ!ノーアウト一塁三塁!!」
あと4点どころじゃないかも。
「タイム!」
(!!火織……?)
今のアタシにできることは……
「ここでセカンドの徳田がマウンドへ向かいます!」
「あっくん」
「……面目ねぇ」
「セットポジションになってから、ちょっと身体の開きが早いかもよ?」
「……!よくわかるな、そんなこと……」
「いつも同じとこで見てるからね」
「…………」
「だから大丈夫。あっくんなら乗り切れるよ」
「ありがとな」
こわばってたあっくんの表情が少し緩む。
そうだよ。あっくんはそうでなきゃね。
「プレイ!」
「6番サード、■■。背番号■■」
「疲れてきてるぞ客寄せパンダ!」
「トドメ刺してやれ!」
「"姫子様の後継者"になれや!」
「ストライク!バッターアウト!」
「外いっぱい!見逃し三振ッ!!」
「「「「「ファッ!?」」」」」
やっぱり、そうでなきゃね。
「ショート捕って、二塁へトス!」
「アウト!」
良いトスだよ、朱美ちゃん。次に繋げやすい……!
「アウト!」
「一塁もアウト!ゲッツー!!」
「「「「「っしゃあああああ!!!!!」」」」」
「これでスリーアウトチェンジ!氷室、この回も1点を失いましたが、粘りのピッチングでピンチを凌ぎました!!」
「サンキュー火織!」
「えへへ……」
あっくんと上機嫌でベンチに戻る。逢ちゃんには悪いけど、この役回りはアタシのもの。
「うわ、あのブスまた氷室くんと……」
「大して役に立ってないくせに……」
「さっきの声かけだって別にロクなこと話してないんでしょ?」
他の誰かに褒められなくったって良い。あっくんにさえ褒めてもらえたら。
……あ、でもみっくんのミルク代も稼がなきゃだから、球団の人にもほどほどに認められたいかな?




