第百八話 応報(6/9)
******視点:氷室篤斗******
「プレイボール!」
「1回の表、ビリオンズの攻撃。1番センター、招福。背番号7」
「2020年シーズン最終戦、本日のバニーズの先発はプロ6年目の氷室。調整のため今月頭に登録抹消となりましたが、このシーズン最終戦で一軍復帰、今シーズン19試合目の登板となります」
「「「「「氷室くーん!」」」」」
ペナントレースが再開してからは不甲斐ない投球続きで、今年はもう投げれねぇものだと思ったりもしたが、最後の最後に泣きの1回。そんな立場でもこの声援。同時にこの声色で火織のことも責めまくったのかと考えると複雑な気分だが……
「ファースト!」
「アウト!」
「捕りました!ファースト、ファールゾーンへのフライでまずはワンナウト!」
やることは同じ。『来年こそは勝つ』ってのを結果と姿勢で示すだけ。
「2番ショート、六車。背番号6」
「打席には今年も不動のショートレギュラー、六車。オリンピックでも月出里・十握と共に日本の金メダルに貢献し、シーズンでも攻守の要としてチームを牽引。ビリオンズ三連覇はなりませんでしたが、プロ入りから4年間、非常に安定した活躍を続けております」
説明不要の守備の名手だが、打席でも走らせても面倒な相手。今年のビリオンズ打線は去年までと比べると一発が少なめで大人しいが、その分、こういう打者を出すのが命取りになる。
「!!!カーブ打った!」
しまった……!言ってる側から浮いて……
「セカンド飛びついた!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!!!」」」」」
「アウトオオオオオ!!!」
「捕りましたセカンドライナー!セカンド徳田、ファインプレー!」
「ええでかおりん!」
「やっぱり必要戦力じゃないか(確信)」
「ワイらからしたら、やきうさえ真面目にしてくれるんならええわ」
良い反応してるな、火織。流石だ。
(そりゃもう。今日は勝たせる気満々だもん)
「3番セカンド、赤藤。背番号5」
さて、ツーアウトでランナーはなし。赤藤さんも本来なら走攻守揃った万能野手だが、今年は打撃に関してはOPSが.200近く落ちてるくらい不調……
「「……!!!」」
「!!レフト大きい!」
やべ……!
「……アウト!」
「フェンスの手前、捕りました!」
「あっぶねぇ……」
「ほんのちょっと上がりすぎたか?」
「狭い球場やったら入ってたな……」
「これでスリーアウトチェンジ!1回の表、ビリオンズの攻撃は三者凡退!一軍復帰の氷室、まずは上々の立ち上がりです!」
……結果だけならな。
そこまで甘い球を投げたつもりはねぇんだが、迷いなく振り抜かれたな……
「あっくん、ナイピー!」
「おう!火織もさっきはありがとな!」
火織との言葉は選手同士として違和感がない程度に最小限。『復縁するにしても、シーズンが終わるまでは野球に集中』はお互いの合意の上。せっかく最終戦に駆けつけてくれたファンを刺激しないためにも。
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
「さぁ大歓声の中、最終戦の第一打席に立ちます、プロ3年目、20歳の若きスター、月出里逢。昨シーズンから一軍に定着し、今年はオリンピックMVPと42年ぶりの70盗塁、そしてリプ歴代1位タイの16三塁打と素晴らしい活躍。打率も現在リーグ1位で、キャリア初の首位打者がかかっております」
大したもんだな、アイツは。入団した頃から俺のフォークでもなかなか空振りしないわでただもんじゃねぇとは思ってたが、まさかここまでになっちまうとはな。
「ボール!」
「初球まっすぐは外れましたが、いきなり149km/h!今日のビリオンズの先発はプロ4年目、2016年夏の嚆矢園優勝投手の三矢!シーズン中盤には一度中継へ配置転換されましたが、終盤になって先発へ再転向となりました」
キャリア的には俺とよく似た三矢。俺よりも球のパワーはあるが、防御率ベースでは今年6点台の不調。それでも最終戦を任されたのは、多分そこも俺と同じ理由。やっぱり期待されてるんだろうな。
(最後の最後に逢ちゃんと勝負できるなんて本望……!もちろん、私にも立場がありますし、接待なんてするつもりは毛頭ありませんよ……!!)
「ストライーク!」
「2球目空振り!」
「……ん?」
月出里の空振り。それ自体は別に珍しいもんじゃねぇ。
アイツは追い込まれてからは磁石でも付いてるんじゃねぇかってくらい当てまくるが、追い込まれる前までは意外とあっさり空振ってくれる。もちろん、それは読みの外れた球を無理に当てて凡打になる確率を無くすためだってことはわかってる。ホームランこそ打てねぇが打球のスピードが凄まじいだけあって振りが強いのも周知の事実。
けど、何か振りの質がいつもと少し違う気がする……
「ライト、足が止まって……」
「アウト!」
「捕りました!ライトフライでワンナウト!」
「うーん、いきなりはなかったか……」
「ヒット1本差が付いたら十握がまくるかもしれんねやんな?」
「まぁまぁ、外野まで飛ばしたんやし内容は悪ないやろ」
……やっぱそうだな。何かこう、打ち方が強引な気がする。
(火織さんにまで見せつけられた以上、今日こそは一発打ちたいのに……!)
「2番セカンド、徳田。背番号36」
「「「「「Booooooooo!!!!!」」」」」
やっぱり今日もブーイング。それも、ビリオンズの観客席からも。
確かに球界全体の規模とかで見りゃ、火織のやらかしは自分達のイメージダウンにも繋がるから筋が通ってないわけじゃねぇが、何ともやるせねぇな。俺も火織の側に立った以上、文句を言う筋合いはねぇんだが……
(よし、いける……!)
「!!!引っ張って……」
「「「「「おおおおおおおっっっ!!!」」」」」
「アウト!」
「ああっ、ファースト真っ正面……ファーストへのライナーでツーアウト」
「糞定期」
「何で今日も正面ばっか行くねん……」
「ノーヒット続けるなら有川ァで良いのに……」
……やっぱ内容は良いんだけどな。
150も超えるまっすぐでも、力負けずに得意の引っ張りに持ち込める。それだけ振れてる証拠。いくら順位には関係ないって言っても、このままズルズル続いて終戦はモヤモヤするよな……




