第百八話 応報(4/9)
******視点:伊達郁雄******
「2番セカンド、徳田。背番号36」
「ワンナウト二塁のチャンスで、打席には徳田」
徳田くんはここまでセカンドへのゲッツーとショートライナーで、ノーヒットではあるけど当たってる。
「ライト大きい!!!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
行ったか……!?
「アウト!」
「フェンスの手前、捕りました!この間に二塁ランナーは三塁へ!」
「セーフ!」
「三塁はセーフ!」
「まぁ最低限」
「いや、ここいつも通りアヘ単決めるべき場面じゃん」
「ホームランなんて普段もほとんど打たへんのになぁ」
「出来もしないことを欲張って……そんなに汚名返上したいのかしらね?」
「ほんと狡い女だわ。いくらリードしてるからって……」
今日の徳田くんは本当によくバットが振れてる。しかもここまで三振どころか空振りすら1つもない。多分コンディションだけで見れば今年一番と言っても良いくらい調子が良いように思う。
それでも野球は確率の競技。ヒット1つ打つまでにも、『ちゃんとしたスイングができるか』、『ちゃんとボールを捉えられるか』、『ちゃんと守備範囲外に飛ぶか』など様々な条件分岐を経てようやく成立する。自分の力でどうにかできるのは『確率を上げること』だけ。だから、どんなに最善を尽くしても結果に結びつかないことなんてザラにある。逆に調子が悪くても良い結果が出まくることもあるし、その辺は本当に統計上の揺らぎでしかない。
……そして、こんな感じで明らかにヒット性の強い当たりが真っ正面を突いてアウトになった場合、解釈は人によって二分する。『当たりは良かったが方向的に不運だった』、もしくは『結局アウトになる方向に打った時点で打ち損じと同じ』。
野球は結果で競うスポーツ。その過程の芸術点なんてものは存在しないから、アウトである以上は打者側の負けであることに変わりない。でも統計的な視点だと、不運という解釈も間違ってない。結局はどちらも正解。
ただ1つ言えるのは、見てる側がどっちに解釈するかは、野球に関係ないところも含めた過程がものを言う、ということ。努力家だったり普段から結果を出してる人間なら前向きに捉えられることが多いけど、日頃から怠惰だったり素行が悪かったりすると後ろ向きに捉えられがち。『そうではなかろうか』という推測より、『そうあれかし』という願望に近い。
人間はどうしたって『因果応報』ってやつを信じたがる生き物だからね……
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******視点:徳田火織******
今日の試合を終えて、寮の自室へ。
先週あっくんと仲直りして、あっくんの方はあれからホテルで下宿しながら二軍球場で調整を続けてるけど、今はまだ別々。『シーズン終わるまでは野球に集中』っていうケジメのためにね。みっくんの最近の写真もアレ1枚きり。あっくんとも最低限しか連絡を取ってない。諸々のことは明日の試合が終わってから。
「はぁ……」
あっくんと仲直りして気持ち的に前向きになれて、身体のキレも取り戻せたのに、結果は散々。守備はともかく、打つ方は4タコ。全部ちゃんと捉えたのに……
『ついてない』、ただそれだけだって頭ではわかってるけど、アタシも因果応報みたいなものを信じずにはいられない。あっくんやみっくんと一生一緒にいれないのと比べたら屁でもない報いではあるけどね。
……そうだよね。こんなこと、屁でもない。明日こんなことにならなければそれで良い。悪い運を今日で消化したんだと考えれば……
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「次、徳田!」
「はい!」
9月22日。いよいよシーズン最終戦。試合前練習で、フリーバッティングの順番がアタシに巡ってくる。
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
アタシもびっくり。柵越えなんて試合どころか練習でもあんまり出ないのに……
「ナイバッチ!」
2連発。ほんと、体調だけはすこぶる良い。
「次、月出里!」
「お疲れ様でした!」
「ありがとうございます!……逢ちゃん、どうぞ」
「……どうも」
……?何か逢ちゃん、機嫌が悪い?
(火織さんまであんな飛ばしまくって……)
昨日ついにシーズン70盗塁。アタシが生まれるより遥か昔以来の大記録を達成したってのにね。
「ん?」
近くで素振りしてた三四郎くんがわざわざ手を止めて、逢ちゃんのフリーバッティングをじっと見つめてる。
(打つのだけでも、月出里さんに勝たなきゃね……)
あ、そうか。そういえば首位打者争い。
確か今のところギリギリ逢ちゃんが勝ってたはずだけど、今日の試合の結果次第で三四郎くんの大逆転も全然あり得る。だから逢ちゃんもピリピリしてたのかな?
「オッケーイ!」
ブルペンの方ではあっくんが投球練習。マスクは幸貴くん。
アタシは今日もスタメンなのは伊達さんから聞いてる。そして先発は予告通りあっくん。『ここ数年のバニーズはシーズン最終戦だけは強い』みたいなジンクスとか関係なく、今日は何としてでもあっくんを勝たせなきゃいけない。
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