第百八話 応報(2/9)
******視点:伊達郁雄******
「レフトの前……落ちましたヒット!」
「「「「「おおおおおっっっ!!!」」」」」
「二塁ランナーは三塁でストップ!相模、今日2本目!」
相模くんの得意技、外の球を流しての内野安打もしくはレフト前。やっぱりこういう右の変則的なタイプのピッチャーに強いね。
「1番ショート、月出里。背番号25」
(相模さんのおかげで、良い形で待望の『もう1打席』が巡ってきた……!)
「6回の表2-2、ワンナウト一三塁、一打勝ち越しのチャンス!打席には今日4打席目の月出里!今日先発の鹿籠相手には通算打率.000ですが、先ほど惜しい当たりがありました!」
「代打で松村出そうや(ゲス顔)」
「いやぁ、でもさっき当たり良かったし……」
「ショートも枚数足りてへんしなぁ。あけみん出すにしてもこの球場慣れてへんと守るのムズイし……」
6回で、打順が4巡目。それだけ出塁を許してるわけだから、当然球数もこの回100球に達してる。でも球威はまだ落ちてる感じはしないし、何より相性の良い月出里くんが相手。おそらく勝負……
「アルバトロス、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、鹿籠に代わりまして……」
「ウェヒッ!?」
「え……?」
交代……!?
(な、何で!?確かにわたし、ちょっと疲れてきたけど、月出里さんなら多分……)
月出里くんだけじゃなく、向こうの鹿籠くんも困惑してる……
「おいィ!?ちょうちょ相手だろ!!?」
「さっきのなんてラッキーパンチだろどうせ!」
「村上、無能」
(ウチが今年バニーズをカモにできたのは、WAR両リーグ1位の月出里に対して、スタメン出場することのデメリットを設けられていたという点が大きい。今年優勝を逃した以上、このアドバンテージは来年以降にも持ち越したい。ここで経験値どころか成功体験まで与えてしまったら元も子もない。さっきの打席での当たりを考えても、これ以上勝負させても損しかない)
……なるほど。考えてみればそうか。
どんな相性の良さも、『慣れ』でいくらでも覆りうる。向こうからしても今日の試合は消化試合。来年もウチから勝ち星を稼ぐために、鹿籠くんというアドバンテージをアドバンテージのままにしておきたいということか。
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【バニキ・バネキの集い】天王寺三条バニーズ総合スレ38【2020】
52 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
んほーっ!んほおぅううっす!んほーっ!んほうーっす!
生かさず殺さずの勝ち越しタイムリー
投稿者:ショート月出里
53 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
んほーっ!んほおぅううっす!んほーっ!んほうーっす!
ズコズコズルズル負けまくって
アルバトロス戦11連敗!
54 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
んほーっ!んほおぅううっす!んほーっ!んほうーっす!
パンダ?今12連敗が目の前に迫っています。
すぐ一軍に来れますか?
55 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
んほーっ!んほおぅううっす!んほーっ!んほうーっす!
>>54
あ、あん、はっ、はい、
来シーズンには、いっ、行けまっす!
56 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
んほーっ!んほおぅううっす!んほーっ!んほうーっす!
くそー、こんな相性でちょうちょの
首位打者がもつのかよ!
57 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
>>56
首位打者争ってるのは346だからセーフ
58 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
今年の楽しみもはやちょうちょか346の
首位打者争いくらいやなぁ
流石にもう恵人きゅんは投げんやろうし
59 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
>>58
あけみん(半ギレ)
60 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
>>54
>>58
パンダどうなるんやろうな?
一応復帰はあるやろうけど
61 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
かおりん結局クビやろうか?
せめて最後くらい顔見せてほしい
62 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
>>58
ちょうちょはあと70盗塁と17三塁打やな
令和の時代にこの辺達成したらガチですごい
63 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
>>62
しかも短縮シーズンで率やなくて
数字積み重ねる方の記録やからな
ホームラン0でWAR1位の女はやはり違う
64 : 風吹けばちょうちょ [] :2020/09/18 (金)
アホウドリにはもう勝てんでもええから
せめてシーズン最終戦だけは
いつも通り勝ってくれ
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******視点:卯花優輝******
9月19日の夜。今日はバニーズの今年最後のビジターゲーム。明後日から残り2試合のホームゲームを終えてペナントレースは終わる。
今日と明日は土日。逢は今日ナイターだから一晩向こうで泊まってから、朝一でこっちにまっすぐ来る予定。明日は早くに起きて新大阪まで迎えに行くつもりだから、今のうちに朝食の準備。
「うん、良い感じ」
母さんから習った出汁の取り方。これには逢も太鼓判を押してくれた。
……でも、喜んでくれるのは良いんだけど、おれはもっと……
「……!!!」
スマホの着信。逢からかと思ったけど、名前を見て一気に気が滅入る。
ずっと忘れていられたのに……
「……何?」
「おいおい、いきなり随分じゃねぇの?」
「颯喜兄さんほどの人が今更おれなんかに何の用?」
もちろん、敬意もなく目一杯の皮肉を込めて。本当はこんな奴のことを"兄さん"だなんて呼びたくないし、思いたくもない。
「お前、今世間で噂の"ちょうちょ"ちゃんに雇われてるんだってな?」
「……何の話?」
「とぼけんなよ。ちゃんと調べはついてるんだ。えらい上等な女じゃねぇか。俺によこせよ」
「ふざけるな……!」
「おいおい、ウチに帰りたくないのか?素直に俺様に従っとけよ。俺が家督継いだら家に戻れるようにしてやるし、ちょっとくらい分け前をくれてやっても良い」
「そもそももうそっちに帰るつもりはないよ」
「……あのなぁ?テメェにも一応親父の血が流れてるんだからよぉ?無関係でいられると思うなよ?」
「光樹兄さんが継いだら何の問題もない」
「あ?俺があんな無能に劣るとでも言いてぇのか?端女の股から出てきた"雑種"のくせに、俺を値踏みするつもりかよ?」
「そういうところが相応しくないって言ってるんだよ。そんな"雑種"のために時間を割くなんてよっぽど暇なんだね。有能ぶってるくせに」
「……覚えてろよ?クソ兄貴もあの無能も、テメェら味噌ッカスのスペアどもも、俺が全部まとめてぶっ潰してやる。卯花の家も金も会社も全部俺様のモンだ」
「勝手に言ってなよ。どうせおれには関係のないことだから」
断りも入れずに電話を切る。ほんと腐った奴。一希兄さんはウチを出てから何の音沙汰もないけど、多分性根は変わってない。
……こんなこと言うと逢みたいだけど、ほんとめんどくさい家に生まれちゃったよ。
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次の日の朝。新大阪駅。
「逢!」
新幹線の改札を抜けてすぐの逢に駆け寄って、荷物を預かる。
「ありがと」
「どこか寄ってく?」
「ううん、朝ごはん用意してくれてるんでしょ?」
「……うん」
朝食から連想して、つい昨日のことを思い出してしまう。
「……?どうしたの?」
「昨日、兄さんから電話があって……」
「ああ、例の……」
「うん……」
逢には付き合う前からちゃんと家庭の事情は説明してる。その上でこんなめんどくさいおれなんかを選んでくれた。逢が極度の面食いなのは知ってるけど、めんどくさがりなことも知ってる。ほんと物好きと言うか何と言うか。
「……ねぇ、優輝」
「ん?」
「オフにあたしの実家来てくれる?」
「……!いいけど……」
……そうだよね。逢の家族にも知らせとかなきゃだよね。おれの生まれながらの応報を被せてしまう前に。
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