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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百六話 火種(7/9)

恵人(けいと)くん、よくやってくれた。初めての中6日でこの球数だ。今日はここまでにしよう」

「はい……」


 案の定、ベンチに戻ると伊達(だて)さんからの看板の指示。内容が不満だからじゃないのは分かってるけどね……


「5回の裏、バニーズの攻撃。2番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

(今日の恵人くんを負けさせるのはあまりに忍びないわね……)


 こっちも一応上位から。たかが1点ビハインド。まだ全然可能性はある。


「ボール!」

「ナイセンナイセン!」


 肩を冷やしながら、ベンチの前の方で声出し。もうこれくらいしかやれることはない。


「ストライク!バッターアウト!!」

「三振ッ!最後はフォークボール!!」

「今日の赤坂(あかさか)はスライダーよりもフォークが上手く決まってる印象ですね」


「「「「「あああああ……」」」」」


「3番レフト、十握(とつか)。背番号34」

(フォークさえ気をつければ何とかなるはずだけど……)

(十握か……コイツなかなか空振ってくれねぇし、甘いのは簡単にスタンドまで持っていくからな……内側投げるなら厳しくいかねぇとな)


 十握さんは月出里(すだち)さんと同じで、やけに三振が少ない。前に飛ばすか選ぶかはできるはず……


(やべっ!?)

(!!?)

「ああっと!デッドボール!!」

「太ももの辺りですかね?スライダーが内に入りすぎましたね。あの辺りなら大丈夫だと思いますが……」


「おい赤坂どん!」

「おはん寝ぼけちょるんか!?」

「まぁでもここは出られるメリットデカいやろ」


「4番指名打者、リリィ。背番号54」


 形はどうあれ出塁か……

 マウンドの上に立ってたら『わざとぶつけるつもりなんてないし、一塁進めるんだから許してよ』くらいの気持ちだけど、味方が喰らうとデッドボールのペナルティの軽さがどうしても気になるのが人間の理不尽な部分。せめて後続が続いてくれなきゃ報われないよね。


(チェンジアップ……!)

「三塁線……サード捕った!」


「「「「「おおおおおっ!!!」」」」」


 やば……!


「二塁送球!」

「アウト!」

「一塁は……」

「セーフ!」

「一塁はセーフ!ランナーが入れ替わりました!!」

(あっぶな……左やなかったら間に合ってへんかったな……)


「5番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」

「打席には今日5番に入っております、冬島。ウッドペッカーズ戦での相性に定評がありますが、今日はまだヒットがありません」


 真芯で喰った分、打球がかなり速かったけど、リリィさんは脚も速い。ランナーの入れ替わりだけでも多少は効果があったけど、ツーアウトで一塁だと……


(逆球!)

「三遊間……抜けましたレフト前!」


「ええぞ正捕手!」

「"キツツキキラー"発動や!」

「せっかくならさっきがよかったなぁ……」


(あのクソワカメに負けっぱなしでおれんわ……!)


 揺り戻し……いや、実力だよね。追い込まれる前の迷いのないスイング。何にしてもこれで得点圏。


「6番ライト、アゴナス。背番号44」


「ツーアウト一二塁で打席にはアゴナス。ペナント再開後から好調を維持し、スタメン出場を続けていますが、今日はバットが振るいません」


「……!」


 ベンチで打席を眺めてると、アゴナスがこっちを見て笑ってみせた。


(やまぐちサン、ないすぴっちデス。ココまでとんだデクノ・ヴォーですが、ココはなんとしても……)

「ファール!」

「チェンジアップ!粘ります、アゴナス!」

(完全にボールゾーンに逃したのに……!)


 アゴナスは2m超えの長身。その分、リーチも長いから外の球にもよく手が届く。でも中南米の選手らしく普段は積極打法だから、この辺の長所は悪球打ちに生かされがちだけど、この打席ではえらく粘り強い。


(なら内側で……)

「ボール!」

「膝下!外れました!」

(これだけ長身だと、膝の高さも他の打者よりも高い。いつも通りの感覚で投げるとどうしても低く投げすぎちまうな……)

(ならインハイで……)

(!!!これデス!)


 !!!


「引っ張って右中間……抜けました長打コース!!!」


「「「「「おおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

「セーフ!」

「二塁ランナーホームイン!一塁ランナーは三塁でストップ、打ったアゴナスは二塁へ!タイムリーツーベース!!3-3、追いつきました!!!」

「少し高さが甘かったですねぇ。普通の打者ならインハイいっぱいだったかもしれませんでしたが……」


「やるやんけアゴナス!」

「ナイス帳尻合わせ!」

「冬島に代走送ってりゃなぁ……」


(代走送りたかったけど、まだ中盤かつ僅差で冬島くんの打棒が必要かもしれなかったし、有川(ありかわ)くんをセカンドで使ってる関係でキャッチャーの枚数にちょっと不安があるからね……)

(……コレでユルしてくれマスカ?)


 許すも何も、怒ってもいないよ。

 それに、この状況なら帳尻合わせどころか逆転まであり得る。


「7番ファースト、天野(あまの)。背番号32」

「あっと、ここで柿崎(かきざき)監督が出てきて……申告敬遠です!」

(『敬遠は強打者の勲章』って振旗(ふりはた)コーチも言ってたけど、ここは打ちたかったなぁ……)


「残当」

「くっそぉ……」

「おい!ビリッケツのチームに何チキっとるんじゃ!?」


(何とでも言え。こっちはCS入りがかかってるんだ。ビリッケツ相手だからこそ取りこぼしはできん)


 期待したけど……まぁ当然だよね。ツーアウト二三塁で、今日2の2で明らかに絶好調の天野さん。


「8番ショート、宇井(うい)。背番号24」


 おまけに後続は今日ノーヒットどころかバットに当たってすらいない高卒ルーキー。たとえ代打策があったとしても、歩かせるのは当然。

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