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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第百六話 火種(4/9)

「3回の表、ウッドペッカーズの攻撃。8番センター、(いぬい)。背番号8」


両刃(もろは)くん!頑張ってー!」

「一発で同点よ!」


 スイッチだからおれ相手には右打席に立つ乾さん。今となってはあんまり左右の違いは気にならないけど、一応一発のある人。OPSとか総合的に見たら去年より若干成績が上がってる程度にしか見えないけど、『ホームランの頻度が増えてる』ってだけで投げてる方にとっては厄介。その分他の数字が若干悪くなってるとしてもね。


(まぁ所詮、コイツは外野のくせに打率は俺以下のフリースインガーや。俺が捕っとる限り、コイツには打たさへんわ)

「ボール!」

「ストライーク!」

「ファール!」

「バックネットに当たりました!これでワンボールツーストライクと追い込みました!」


「3939」

「ええぞ恵人(けいと)きゅん!」

「"守備の人"なんぞ恐るるに足らんわ!」


 最近のおれの投げる球は基本的にまっすぐかスライダーの二択。そこにたまにカーブとかの緩い球を混ぜる。プロ入り以来、特にスライダーとカーブを重点的に磨いてきたけど、本来の決め球はこれ……!?


「低めの球拾って……抜けましたセンター前!」


「「「「「きゃあああああ!!!!!」」」」」


(くそっ、狙ってやがったな……!?)

(たまには読みの一つくらい当ててみせるわ。俺やって幸貴にリードされてた側なんやからな)


 読まれてたし、少し浮いちゃった。『あわよくば見逃し三振』っていう欲が出ちゃったかな……?


「9番キャッチャー、仁田(にた)。背番号2」


「ここは送るようですね」


 1点ビハインドでも、9番打者ならセオリーっちゃセオリー。正直仁田さんは典型的な守備型捕手だしね。

 投手からしたら、『ワンナウトをタダでもらえてラッキー』とも言えるけど、1点で逃げ切る覚悟をしてる今の状況だとちょっと嫌な感じもある。


「ピッチャーの前、二塁には……投げません一塁へ!」

「アウト!」

「送りバント成功!ワンナウト二塁!」


 決まったもんはしょうがない。あとアウト2つ貰えばいい。


「1番ライト、高橋(たかはし)。背番号51」


 この人ならさっきの要領で……


「ストライク!バッターアウト!」

「三振ッ!最後はスライダー!」


「毎回奪三振良いゾ〜これ」

「(緩急が)食い込んで気持ちいい!!」


 良い感じの外スラ。次も左だし、この感覚をキープしたい。


「2番ショート、古谷(ふるや)。背番号0」

「ツーアウト二塁で打席には古谷。ルーキーながら現在打率.282、ショートを守りつつ二桁盗塁と、走攻守全面でチームを支えております!」

「開幕はベンチスタートでしたが、ドラ1の面目躍如と言ったところですね」


 身長はおれよりほんの少し高いくらいの、小柄な女の人。ルーキーと言っても大卒の社会人出身だから歳はおれよりもだいぶ上。

 おれ自身がチビだから、小さかろうが油断なんてしないけどね。


「……!レフト線……」


 やば……!


「フェア!」

「切れません!フェア!長打コース!」

「セーフ!」

「二塁ランナーホームイン!打った古谷も二塁へ!タイムリーツーベース!1-1同点!!!」


「「「「「おおおおお!!!!!」」」」」

「芸術的な流し打ち……これって、勲章ですよ?」

「誰や?『こんなチビ地雷に決まっとる』とか言ってたの?(テノヒラクルー」


 スライダーを狙われた……!


「3番セカンド、琴張(ことはり)。背番号3」

「さぁ、なおもツーアウト二塁。打席には琴張。今年はオリンピック帝国代表に選ばれ、シーズンでも現在リーグトップの32本塁打。今年もチームの最強打者として打線を牽引しております」


 ……全体的に球が上ずってるな。もう少し低く集まるように修正して……


「ボール!」

「ボール!」


「これも低め!見送りました!」


 低すぎた……!


(アウトロー。ましてやこんなローボール、手を出すなんてお断りだぜ?)


 琴張さんは球界を代表する本物の強打者。3年連続30本塁打の長打力だけじゃなく、打率も3割近くあるし、こういう球もきちんと見極めてくるから四球も多い。アウトロー以外ならどこでも打てるし、引っ張りより逆方向の方がむしろ高打率でホームランも同じくらい稼いでるという広角打法のスラッガー。


(歩かせたいところやけど、次は4番の鳴海(なるみ)さんやからなぁ……左でぶっちゃけ琴張さんよりは格が落ちるとはいえそれでも巧打者。序盤から大量失点のリスクなんて背負いたくないわ)


 ツーボールでストライクなし……逃げるのはおれも嫌だけど、ここの入りは難しい。

 それでも……!


「ストライーク!」

「チェンジアップ!決まってストライク!」

(なかなか度胸あるじゃねぇか。この場面でど真ん中にチェンジアップとはな)


 こういうところで博打を打てなきゃ、緩い球を武器にする投手なんてやってられないよ。


(これで少しは選択肢が広がったはず。次はこれで……)

(その球は断らねぇぜ!)


 !!?


「インコース打ってセカンド……抜けました!」


「「「「「ぎゃあああああ!!!!!」」」」」


「セーフ!」

「二塁ランナーホームイン!2-1、勝ち越し!!」


 インコースのストレート、詰まらせたと思ったのに……!


(『広角打法』ってのはアウトコースを逆方向の長打にするイメージが強いが、実際はそれだけじゃねぇんだぜ?インコースの球でもギリギリまで引きつけつつも強い打球にして返せるのこそが真の『広角打法』だぜ)

(すみません、恵人ちゃん……!)


 セカンドの有川(ありかわ)さんが申し訳なさそうにこっちを見てるけど、有川さんで捕れないのならおれの責任。


「4番レフト、鳴海(なるみ)。背番号35」


 せめてこれ以上は傷口を広げない……!


「ストライク!バッターアウト!」

「緩いカーブ、見逃し三振ッ!」

(いやぁん、ここでぇ……?)


「ッしゃっ!」

「スリーアウトチェンジ!しかしこの回、古谷と琴張の連続タイムリーでウッドペッカーズ、逆転に成功しております!」


 思わず声が出ちゃったけど、いいようにやられてしまった。逃げ切るつもりだったのに情けない。


「ドンマイドンマイ!」

「すぐ取り返しますよ、先輩!」


 宇井と天野(あまの)さん、やけに身体の大きい女の人が両隣で並走しながら一緒にベンチに戻る。何か捕まった宇宙人みたいな構図。そういう意味でも情けなさを覚えたり……


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