第百六話 火種(1/9)
******視点:山口恵人******
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2020ペナントレース バニーズvsウッドペッカーズ
○天王寺三条バニーズ
監督:伊達郁雄
1三 月出里逢[右右]
2中 赤猫閑[右左]
3左 十握三四郎[右左]
4指 リリィ・オクスプリング[右両]
5捕 冬島幸貴[右右]
6右 アリア・アゴナス[右左]
7一 天野千尋[右右]
8遊 宇井朱美[右左]
9二 有川理世[右左]
投 山口恵人[左左]
●仙台オプティウッドペッカーズ
監督:柿崎銀一
1右 高橋苺[右左]
2遊 古谷霰[右左]
3二 琴張英吉[右右]
4左 鳴海珊瑚[右左]
5一 本田大洋[右左]
6指 ■■■■[右右]
7三 ■■■■[右左]
8中 乾両刃[右両]
9捕 仁田正[右右]
投 赤坂晶[右左]
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ならしたてホヤホヤのマウンドに立てるのはホームゲームの先発投手の特権。
最近のメジャーはオープナーだか何だかって戦法もたまに見かけるみたいだけど、やっぱり最初にマウンドを踏む権利があるのは先発争いに勝った者であってほしい。『上位の強打者との対戦をなるべく安全に抑える』っていうのも合理的だとは思うけど、ピッチャーからしたらどうしても逃げ腰の印象が拭えない。
「1回の表、ウッドペッカーズの攻撃。1番ライト、高橋。背番号51」
樹神さんの活躍ですっかり定番の背番号になった『51』。しかも右投げ左打ちのライト。さらに俊足が売りの1番打者。ペナント再開以来好調を保ってて、何気に今年4本塁打。ウチの打者の大部分よりパンチ力もある。
「ファール!」
「ストレート143km/h!初球から振っていきました!」
「ビビるなや、恵人きゅん!」
「今日こそプロ初勝利や!」
「空気読まずにみそボンかましたれ!」
調子が良いだけあっていきなり振れてるね……
「ボール!」
ウッドペッカーズは今アルバトロスとビリオンズとで三つ巴になってCS枠を争ってる状態。ヴァルチャーズがとっくに優勝を決めたから残り2枠。ウチを散々カモにしたアルバトロスが若干リードしてるけど、ゲーム差はほぼない。どこも残り10試合もないくらいだけど、どう転んでも不思議じゃない状況。向こうからしたら、ここから先は1敗さえ惜しい状況。
まぁ最下位確定のウチにとっちゃ、どこが勝とうが同じと言えば同じだけど……
「ストライーク!」
「「「「「おおっ……」」」」」
「緩いカーブ!決まってストライク!102km/hを計測しました!」
「まっすぐとの球速差40km/hですか……今時珍しいですねぇ、こういう球を持ち味にするのは……」
今日のおれは今年三度目の登板で、プロに入って初めて、中6日……つまり、一般的な先発ローテと同じ登板間隔。
おれみたいな立場のピッチャーだと、一度先発登板したら大抵一度登録抹消して、10日以上間隔を空けるのが普通。一度目と二度目が実際にそうだった。でも、今回は登録抹消を挟まない形で2週間続けての登板。
(期待してるよ、恵人くん)
腕を組んでベンチからグラウンドを見つめる伊達さん。おれをこういうふうに使ったのは、きっと来年に向けての試練。プロの先発投手として当たり前の条件で投げられるようになって、その上で結果を出せるようにしてくれたんだと思う。
「!!?」
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振ッ!148km/h速球!!」
(んぎぎ……まっすぐとカーブ、フォームで見かけがつかないっちゃ……!)
「「「「「恵人くぅぅぅん!!!」」」」」
「うーんこのエース候補」
「誰や?『中卒なんて地雷』とか言ってたんは?(テノヒラクルー」
梨木さんと有川さんのおかげで、フォームの修正もほぼほぼ上手くいった。スピードもコントロールも変化球の再現性も、良い感じに水準を超えられるようになった。ただ投げるだけなら、多分問題はない。あとはこれを本番でどれだけ維持できるか。
そういう意味でも、今日の登板はおれにとっても絶好のチャンス。初勝利とかそういうのは気にしちゃいない。おれはいつだって伊達さんを勝たせるつもりで投げてるから、初とかそんなのは関係ない。
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