表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
663/1152

第百五話 明けない夜(3/5)

 今日は全く打てなかったけど、チームは勝てた。今週は2の1の1で、明日の試合が終わったら2日間の休み。ペナントが再開してから毎週負け越してきたけど、今週は勝ち越せるかもしれない。

 ……と言うか、今週はむしろもっと勝っとかなきゃいけなかったんだけどね。来週アルバトロスとヴァルチャーズが相手だし……

 ローテ的にも間違いなく鹿籠(こごもり)さんがまた投げるだろうし、今の調子だとベンチスタートでも文句は言えないね……


「失礼します」


 試合の後の呼び出しに応じて監督室へ。もちろんそこには伊達(だて)さんの姿。


「遅い時間に悪いね、疲れてないかい?」

「いえ、全然役に立てなかったので」

謙遜(けんそん)しなくてもいいよ。バットは湿り気味かもしれないけど、守備で十分助かってるよ。最近は送球も安定してきて安心して見てられる」

「ありがとうございます」


 『やれ』と言われればどこでも守るつもりではあるけど、最近はほとんどショートで固定だからか、何と言うか送球の距離感が掴めた気がする。オリンピックでも上手い人いっぱい見てきて色々参考になったし、今更になってちょっとした成長を実感。

 『自分が今日守ってるのはショートかサードか』っていう判断のプロセスがない分もあると思うけど。


「それで、今日は一体……?」

「ああ。月出里くん、今年開幕前に『盗塁を去年の倍目指してほしい』って僕言ったよね?」

「え?はい……ちょっと届くか微妙なとこですけど……」

「それなんだけど、撤回してもいいかな?」

「え……?」

「もう今の時点でもタイトルはほぼ確実だしね。数を増やすためにこっちからも盗塁の指示を結構出してたけど、明日からは指示も出さない。エンドランとかそういうのは別として、単独で塁に進む分には全て月出里くんの判断に任せるよ」

「良いんですか?『得点力アップのため』って言ってましたけど……」

「月出里くん1人が走ったところで1点だからね……今の投手陣だと正直1点2点で逃げ切るのは厳しいし。それにもう1つの目的として、『月出里くんの成長を促すため』でもあったけど、それも十分叶ってるように見えるしね」

「あたしの成長……」

「月出里くん、君はそもそも無理には走らない派だろう?」

「そうですね。アウトになるのが嫌なんで」

「それは大変結構なんだけど、それだとどうしても機会が減るからね。今年は失敗しても良いから、その無理のない範囲を広げてほしかったんだよ。今年の最初の方は成功率7割ちょっとだったけど、今は8割前後。去年より数を増やしつつ、率もどんどん上がってる。僕が本来求めてたのは倍の数字よりそういう成長」


 そう言えばあんまり意識してなかったけど、確かに『どうしても無理』ってことは減ったかもしれない。


「もちろん、当初の目標のためにペースを維持しても良いし、セーブするのも自由。状況やコンディションに合わせてくれて構わないよ」

「ありがとうございます」


 でも正直助かる。今はバッティングに集中したいし。


「ところで、3つほど聞きたいことがあるんだけど良いかな?」

「何です?」

「来年以降の話になっちゃうんだけど、月出里くんはポジションについて要望はあるかな?今みたいにショート固定が良いとか、バッティングに集中するためにサード固定が良いとか」

「うーん……別に完全に固定じゃなくても良いですよ?時々サードとかショートでも気分転換になりますし」


 確かに最近はショート固定のおかげでやりやすいとこはあるけど、やっぱり"4番サード"とか憧れてるしね。ショートはショートで良い守備をした後に打席に入ると気分が乗りやすいし、食いっぱぐれないようにする意味でもできるだけどっちもやれるようにしておきたい。


「なるほど……それと、打順についての要望はあるかな?上位打線の中で」

「あえて言うなら2番以外ですかね?ゲッツーが嫌なんで」


 バントも苦手じゃないけどやりたくないし。


「うん、確かにそこは考慮すべきだね。最後に、逆に月出里くんの方からこういうふうに使ってほしいって要望はあるかな?」

「盗塁って来年以降どうするつもりですか?」

「月出里くんに関してはずっとグリーンライトで良いかなって思ってるよ」

「それなら特にないですね……あ、でも」

「ん?」

「あたし個人の話とはちょっと違いますけど、来年は優勝したいです」

「……うん、もちろん僕もそのつもりだよ」


 最近やたらテレビの人とかに絡まれるようになって、今までチームが弱くて目立たない分、練習に集中できて恵まれてたんだなぁって改めて実感したけど、それで上手くなっても勝てないんじゃ意味がない。それもオリンピックでメダルを獲って改めて実感した。


 ……それにしても、こういうことを聞かれるってのは、『来年もレギュラーが前提』ってことだよね?

 あたしとしてはいまだにホームランが1本も打ててなくてまるで達成感がないけど、何だかんだで上り詰めるところまでは上り詰められたんだなーって。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


 次の日。今週最後の試合。


「フェンス直撃!」


「「「「「おおおおおおおおおおっっっ!!!!!」」」」」


「セーフ!」

「打った月出里は二塁へ!久々の長打となりました!」

「今日はよく振れてますね。懐に入った変化球を迷わず引っ張り抜いて、彼女らしいバッティングができてると思います」


 『打つ』のと『ショートを守る』のと。やることが限られてると気楽なもの。これでもまだまだ身体のキレが本調子じゃないけど、ポイントのズレとかそういう感覚的な部分はだいぶマシになった。残りの20試合くらいは基本的に変化球狙いでいけば何とかなりそう。

 ……短縮シーズンではあるけど、オリンピックの分を含めれば多分普通のシーズンを完走してるのと同じくらいのペースで試合に出てると思う。今までは二軍にいたりで一軍にずっといたことがなかったけど、全力で勝負し続けるのは想像以上に疲労が溜まる。ぶっちゃけ盗塁の数を増やしたり、他の人が色々やらかした分の負担がこっちに向いてる部分もあると思うけど、これはこれで一つの気付きのきっかけ。それだけ頼られるくらい上手くなれたって証明でもあるんだし、悪いことではきっとない。

 それに、もし望み通りチームが優勝するようになったら、プレーオフにも出なきゃいけない。もしメジャーに行くことになったらもっと多くの試合に出なきゃいけない。手を抜くってわけにはいかないけど、もうちょっとペース配分とか、シーズン中に疲労を和らげる方法とかを考えなきゃいけないかもね。『ホームランを打てるようになる』だけじゃなく、それもきっと今の課題。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ