第百五話 明けない夜(1/5)
******視点:風刃鋭利******
8月26日。今週はビジターオンリーで、しかも東北と北海道。
いつも通り、おれはリリーフで登板中。
「ストライク!バッターアウト!」
「三振ッ!最後はカットボール!!」
「「「風刃くぅぅぅん!!!」」」
「今日は良い感じやな」
「流石に今から防御率0点代に戻すのは難しいか?」
昨日のウッドペッカーズとの1戦目。氷室さんが投げたけど前と同じく調子がイマイチで、今チームはまた4連敗中。
まぁ氷室さんのことばっかり言える立場でもないけどな。おれもシーズン中断前までは防御率0点代でやれてたけど、前のアルバトロス戦やヴァルチャーズ戦で結構打ち込まれちまった。
「ボール!」
「ボール!」
「ツーボールノーストライク!少し首を傾げます!」
それもそのはず。シーズン中断を挟んだのに、疲れが溜まってるのか、ちょっと感覚が狂ってる。
「!!打ってこれは……」
「ファール!」
「切れました!」
しかも、中断中に研究したのか、中断前の頃と比べて結構良い当たりを喰らうことが多い。球威自体は落ちてないはずなんだけどなぁ……その辺はさすがプロってところか。
(確かに高卒2年目のチビにしちゃ相当良い球を放ってるが、球種が少ないし、緩い球でタイミングを狂わされる心配もあまりない。フォームも独特だが、タイミングは割と取りやすい)
……もうちょっと出力出せるようにならなきゃかなぁ?
「ファール!」
「まっすぐ!今日最速の153km/h!!これで追い込みました!!!」
あとはこれで……ッッッ!!?
「ストライク!バッターアウト!!」
「三振ッ!二者連続!!最後はフォークボール!!!」
「「「ナイピッチえいりーん!」」」
「十握くんに惹かれて来てみたけどあの風刃って子もええなぁ……」
「ほんまちょうちょとか若い選手はようやっとるのに中堅とベテランは……」
「スリーアウトチェンジ!」
「お疲れさん……どないしたんや?」
冬島さんとベンチに戻ってる時、左脇腹をさすってるのを見られてしまう。
「ハハハ……何でもないっすよ。そんなことより冬島さん、この回打てば猛打賞っすよ!」
「おうよ!任せとけや!」
ほんと、ウッドペッカーズ相手だとよく打つよなぁ、冬島さん。
……ま、それは置いといて。
「ん……」
ベンチで水分補給してから、座ったまま身体を動かす。
「ッ……!」
やっぱり。じっとしてたら何ともないけど、左脇腹が動かすと軽い痛みが走る。
今のフォームは右肘への負担を極力減らすために作ったものだけど、その辺を意識するあまりに身体の左へ左へ負担を集中させすぎてたみたいだな。なるべく全身に分散してるつもりだったのに……
どうする?監督やコーチと相談するか?長いスパンで見たら無理しない方が正解っぽく思えるけど、監督やコーチもそう思ってくれるか……短縮シーズンでそこまで酷使されてるわけじゃないのに、リリーフで1年乗り越えられないようじゃ、先発再転向を希望する上で不利にならないか……しかもまだCSの可能性が残ってる中で……
旋頭コーチなら割と安心して相談できるんだけど、キャッチャー出身の伊達さんがどう見るか……うーん……
「…………」
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