第十二話 失敗を学んで何が悪い(4/6)
6回表 紅2-3白
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 山口恵人[左左]
[控え]
雨田司記[右右]
氷室篤斗[右右](残り投球回:0)
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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「4番レフト金剛。背番号55」
今日の金剛さんはかなり調子が良いっぽい。ランナーなしで勝負できるのはありがたいけど、当然一発がある。さっきの森本さんの時は配球の関係でフィニッシュまで敢えて球威を抑えるつもりだったけど……
「ストラーイク!」
「147km/h!?」
「すげぇ、また速くなったのか……」
「まだ高2にもなってないトシだってのに……」
初球からギア全開。運が絡んでも良い。とにかく全力で抑える。
「やっぱすげぇよなぁ、山口さん……あっしと違ってホントは右利きなのに……」
(これ見よがしのワインドアップからのスリークォーター……小さい身体でも球威を捻り出そうっていう気概は買うけどね)
ふん、見てろよルーキー達。
「ファール!」
「ボール!」
「ん!?何だ今の球……」
こんな見え見えの外スラ、そう簡単には引っかかってくれないか……
(130中盤、ストレートと球速差が小さめのスライダー……高速スライダーと呼ばれる部類のものか。事前情報がなければ危うかったな)
「伊達さん、山口さんの球種ってまっすぐとあのスライダーとアレだけなんすよね?」
「うん。何せ中学で左で140投げてたような子だから、元々変化球はアレ1つだけでね。スライダーは去年からずっと練習してて最近身に付けたものだよ」
「ボール!」
「ファール!」
(スライダーを続けなかったか……まだ制球に難ありというところか)
(……しゃーないな)
できればまっすぐとスライダーで力押しする投球がどれくらい通用するか試したかったんだけど、仕方ないね。これで……!
(むっ……!!?)
かかった……!
(間に合うか……!?)
「ファール!」
くそ……!身体を落としてスイングの軌道を無理やり変えたか……!
(危なかった……今日のコンディションでなければおそらく三振してただろうな)
「今の球何や?」
「サークルチェンジやで。恵人くんの決め球や」
「しかし今のよく食らいついたな……」
ご解説の通り。これがお父さんから教えられた唯一の変化球。長いこと使ってる分、スライダーよりも制球しやすいけど、これでも食らいつかれるとちょっとキツイな……
「ファール!」
「ボール!」
「ファール!」
「ファール!」
「ボール!フォアボール!」
(……歩かせはしゃーない。これ以上今日の金剛さんと勝負するのは危険や)
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(……!!これはまずい!)
「抜けたァ!!」
「ライト!」
「セーフ!」
5番のグレッグに甘く入ったストレートを打たれてツーベース。6番のイースターはショートフライで割と簡単に打ち取れたけど、7番にタイムリーを許してしまった。けど、それでも助かった。
(松村(ライトの子)、目立たないけどファインプレーだね。打ち気を悟って咄嗟にチャージしたおかげで二塁ランナーの生還は阻止した)
(ドラフト同期の山口さんを出来るだけ助けたいのですが、やはり守備だけだとなかなかままならないものですね……)
とはいえ、同点……つまり、ここから白組(おれ達)は1点でも取れない限り負けという状況なのは事実。しかも依然としてツーアウト一三塁。
「まぁ菫子たそへの嫌がらせのために指名されたようなお坊ちゃんやし、こんなもんやろ」
「常識的に考えて、先週のメンバーでもボロ負けだったのにそこから人数減らしただけの白組がたかがあれだけのハンデで勝てるわけないわな」
「あの見た目やし、恵人くんは氷室の"客寄せパンダ"のポジションを引き継げれば十分やろ」
ほんと、言ってくれるよね。まだ試合中盤だってのに。
「いやぁ、やっぱ結局はこうなるよなぁwww」
「月出里が一時凌ぎしただけで、こんな展開になるのは時間の問題だったってことっすよねwww」
「氷室はまぁ確かにある程度は通用してたけど、他の連中がこの程度じゃねぇwww」
「ウフフ……さぁて、こんな状況になってあの子達は今どんな顔をしてるのかしらねぇ?」
あの財前早乙女桜井相模(サぼり魔カルテット)も、どうせそんなこと言ってるんだろうね。
ま、残念だけど……
「山口さん、ツーアウトツーアウト!」
「次の回こそはワタクシメも打ってみせますよー!」
「……あん?」
(ほぉ、この状況でも全く折れておらんな。外野からもよく声が届いてくる。フォッフォッフォッフォッ……それでこそじゃ)
そう、これで良いんだよ。
今の1点はさっき氷室さんが取られそうになった1点とは重みが違う。エースである氷室さんがもしさっき打たれてたのなら『致命傷に至ってた』けど、おれが打たれたのなら『致命傷で済んだ』程度。こういう状況くらい、おれも含めてみんな昨日までに想定済み。
当然おれのプライドには障るけど、だからと言って腐ってなんてられない。おれだってこのメンバーの1人なんだから、プロとしておれは自分の役割を最後まで全うしてみせる。