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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
648/1136

第百二話 敷居(6/7)

******視点:徳田火織(とくだかおり)******


 試合後、千葉のホテル。

 今週はずっとビジターだから、あっくんはみっくんの面倒を見るため、試合が終わったその足ですぐに大阪へ戻っていった。今は新幹線の中。

 フリック入力で長文は億劫だから、折りたたみのキーボードで入力。CODE(コード)を介してあっくんとメッセージを交わす。


『今日はごめんね。勝たせられなくて』

火織(かおり)は十分仕事しただろ?こういうこともある』

『日曜の試合終わったらアタシもすぐ帰るから、みっくんのことよろしくね』

『おう。ところで、お袋からまた変なこと言われてねぇよな?』

『大丈夫だよ。最近はあんまり』

『何かあったらすぐ言えよ』

『ありがと』


 今日はヒット1本に四球1つ、それに盗塁1つ。練習が最低限しかやれなかった割にはだけど、勝たせられなきゃしょうがない。


「ふふっ……」


 禁煙パイポを新しいのに代えて、写真アプリを立ち上げる。ストレージがパンパンになるくらい撮りまくった息子(みっくん)の写真と動画。本当は壁紙にしたいくらいなんだけど、それは世間様にみっくんのことを話せるようになってから。


「…………」


 フリックする手が止まる。みっくんに初めて授乳した時の写真。普通こんなのまで撮る必要はないだろうけど、アタシにとっては一種の戒め。本来はこうすべきものなんだって戒め。煙草を吸いまくって、お金と快楽のために色んな男にも吸わせまくったことを忘れないように。今のアタシは母親なんだってことを忘れないように。

 それなりの年月プロをやってきて、連敗脱出とかそういうのはいつかできるものと割り切れてるからボチボチでいい。あっくんを勝たせられなかったこと、どうせまたネットで同性にアレコレ言われるんだろうけど、それも構わない。でも、みっくんに(わら)われないようにはしなきゃね。


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******視点:村上憲平(むらかみのりひら)[アルバトロス 監督]******


 8月12日。バニーズとのカード2戦目。


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 2020ペナントレース バニーズvsアルバトロス


 ○天王寺三条(てんのうじさんじょう)バニーズ

 監督:伊達郁雄(だていくお)


 [先発]

 1遊 月出里逢(すだちあい)[右右]

 2二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

 3三 リリィ・オクスプリング[右両]

 4右 十握三四郎(とつかさんしろう)[右左]

 5左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

 6一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

 7指 アリア・アゴナス[右左]

 8捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

 9中 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]


 投 敷島光生(しきしまみつお)[左左]

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「おいおいおい……」

「今日は大胆なスタメンだな……」

「よいかジェラール。我々はファイヤーフォーメーションという陣形で戦う」


 試合前のスタメン発表の段階でもよくわかる。昨日とは方針が真逆であると。オクスプリングのDHを解除してでも打力重視。

 まぁ連敗中の(てこ)入れは悪いことではない。少なくとも、負けが込んでるのにスタメンを固定し続けるよりは遥かにマシだ。

 ……が、それでも根本的な解決にはなるまい。


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「センター下がって……」

「わわっ!?」

「ああっと!捕れません!」

「セーフ!」

「打った吉川(よしかわ)、一気に三塁へ!ノーアウト三塁、アルバトロス、先制のチャンス!」


「おっぱいがこぼしおった……」

「おっぱいを?(期待)」

「何にしても珍しいな……」


 記録はスリーベースになったが、玄人(くろうと)目には明らかにセンターのミス。まぁ無理もない。

 ウチの球場は海の近く故、強い風が吹きやすく、風向きも気まぐれ。若くして外野守備に定評のある秋崎(あきざき)だが、経験が浅いとこういうことも起こり得る。

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