第百二話 敷居(3/7)
……うーん。
「3番指名打者、オクスプリング。背番号54」
「5回の表、1-0。ツーアウトから徳田がヒットで出塁。打席には第一打席でツーベースを放ってます、オクスプリング。同点のランナーを返せるか……」
あっくんは初回に亀甲さんのソロムランでいきなり先制を許しちゃったけど、それ以降はほぼパーフェクトな内容。
逆にこっちは2回以外は毎回ランナーを1人か2人出せてるのに、打線がなかなか繋がらず。
「一塁ランナースタート!」
「セーフ!」
「盗塁成功!」
「流石やかおりん!」
「この回こそ追いつくで!」
(やりますね……ちゃんと警戒はしてたんですが……)
(上手になりましたねぇ〜火織ちゃん)
ふとセンターを見ると、呑気に手を振る愛生さん。高校の頃からほんとマイペースな人。
……お膳立てはしたんだから、お願いねリリィちゃん。
「ピッチャーの足元!」
「ウェヒッ……!」
「しかし捕った!」
「アウト!」
「一塁に送ってスリーアウトチェンジ!鹿籠、この回も粘りのピッチングで0に留めました!」
「ナイピー葵姉貴!」
「あのでかい子もなかなか可愛いな」
「ちょうちょと同い年の子らしいぞ」
「何でもプロ入ってすぐは野手だったとか……」
「良い反応でしたよ、鹿籠さん」
「ウェヒヒヒ……ず、ずっとサードもやってたから……かもです……」
困った……早いとこ追いついて最悪負けだけでも消したいのに……
「5回の裏、アルバトロスの攻撃。9番キャッチャー、斎藤。背番号32」
(この回も頼むぞ)
(はい)
「ボール!」
「ストライーク!」
「ストライーク!」
「ファール!」
「ファール!」
ここまで向こうの打線はヒットもあんまり打ててないけど、代わりにひたすら球数を稼いでくる。待ち球なのは前からだけど……
「ストライク!バッターアウト!」
「落としました!空振り三振!これで今日7つ目!」
「氷室くん!今日も最高よ!」
「そんなせこい攻撃に負けないで!」
「頑張れ頑張れ篤斗くん!」
フォークP相手に待ち球してるから確かに三振は稼げてるんだけどね……でもこの打席でも7球投げることになってしまった。
「ナイスだ。それで良い」
「ありがとうございます!」
このペースでいけばあっくんはうまくいっても次の回……下手をするとこの回まで……
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「……アウト!」
「ファースト捕ってスリーアウトチェンジ!バニーズ、この回も得点できず!」
「おいィ!ええ加減点取れや!」
「1点やぞ1点!ホームラン1本やろうが!」
「シングルと四球ばっかで、どんだけヒョロガリやねん!」
6回もランナー2人出たけど、点が入らず。
今日のスタメンでホームランを狙えるのはクリーンナップの3人くらいだけど、ゴリゴリの一発狙いは千尋さんくらい。でもあの外に逃げる球とスライダーが良い感じに決まってて封じられてるし、リリィちゃんはそこそこ打ててるけど角度が付かない。
そして三四郎くんは露骨に勝負を避けられてる。おかげで四球2つではあるけど、前後がいまいち繋がらない。
今日はただでさえ逢ちゃんに頼れないから、余計にウチの貧打を痛感する。
「氷室くん、球数100近づいてきたけど、いけるかな……?」
「もちろんです!最後まで投げさせてください!」
……次の回はアタシにも打順が回る。早く点を取らないと……
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