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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
635/1134

第百話 一番ずるいポジション(7/8)

******視点:三条菫子(さんじょうすみれこ)******


「日本代表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、瀬長(せなが)に代わりまして……」


 ほんと、(あなた)は私の期待を超えてくるわね。


「8回の表、アメリカ代表の攻撃。2番指名打者、カーペンター。背番号23」


 アメリカ代表からすれば、上位打線から始まるこの回がゲームをひっくり返せるかの分水嶺。

 先頭打者は右打者のシャークスのジョージ・カーペンター。向こうの野手陣の中で唯一のJPB所属で、メジャー経験者でもある。というかカーペンターはかつてクルセイダーズのホームラン王・レレントレスと肩を並べたほどのトッププロスペクトで、シーズン二桁の実績もある。打順的にも、紛れもなく向こうの主軸。


「痛烈!三遊間抜けました!!」

「「「ナーイス!!!」」」

「まだまだやれるぜUSA!」

「このままで終われるかよ!」


(俺が抜かれた……)

(あたしが抜かれた……)


 カーペンターは一般的な打撃成績こそメジャーでは一流の水準に届かなかったけど、バレル率に関してはメジャーでも上位。コンタクト率が足りなかっただけで、パワーも角度を付ける技術もメジャー屈指のレベル。帝国代表の内野も相当強固なのに、真正面から破るとは流石ね。


(ナイスデース、カーペンター。後はワタシにお任せデース!)

「3番ファースト、パインズ。背番号26」


「いやぁ、でかいな……」

「身長の話だよね?(純真)」

「またピネだ!またピネだ!」


 アメリカ代表でカーペンターに並ぶ要注意人物、リタ・パインズ。190cm超えの長身の左打者で、胸部もウチの秋崎(あきざき)レベル。


「!!!ライト下がって……」

「「「「「ファッ!!?」」」」」




「ファール!」

「ポール際、切れましたファール!」


「あっぶねぇ……」

「ほんま飛ばすなぁ……」

「本場アメリカにも"おっぱいプルプルヒッター"がいたのか……(兎並感)」


 豪快なフルスイング。今回は秋崎みたいに引っ張ったけど、実際は逆方向の長打もあって、選球眼にも定評がある。どちらかと言えば猪戸(ししど)友枝(ともえだ)に近いタイプ。

 アメリカ代表もマイナーリーガー中心とは言え流石に国の代表ということでほとんどがAAAの選手だけど、彼女は数少ないAAの選手。だけど全米ドラフト1位の期待株なだけあって、ポテンシャルはアメリカ代表の中でもトップクラス。


「いやぁ、さすが今大会の二冠王ですねぇ……」

「アメリカ代表のパインズはここまで今大会3本塁打8打点の大活躍。今日はまだノーヒットですが、31日の日本対アメリカではスリーランを含む長打2本で、帝国代表(チームエンパイア)を大いに苦しませました」


(タイミングが少し早かったデースネ。デスガ先発の串尾(メガネウーマン)よりは的を絞れマース。猪戸(カブキボーイ)月出里(バタフライガール)の分は、ワタシの一発でリセットしマース!)


 だけど、このゲームの流れなら……


(Oh!!?)

「センター友枝下がって……捕りました!ワンナウト!!」

「甘く入りましたが、臆せずまっすぐで攻めて正解でしたね。どうにか詰まってくれました」

(ミステイク……変化球(ブレーキングボール)オンリーと思いきや、思い切りマーシタネェ……)

(どん詰まりでここまで飛ばすのか……やっぱ向こうのスラッガーヤベーわ。オレもメジャー行けたら行きたいんだけどなぁ……)


 1点差と2点差の違いね。『逆転されてそのまま負ける可能性がある』のと、『ここまで延長戦で勝ててきたから同点ならまだ良い』のとじゃ、取れる選択肢は大きく変わってくる。

 そして何より、(あい)のプレーによって生まれた、『少なくともこれ以上の失点はない』、『何ならコイツがいれば勝てる』という刷り込み。サードなんて本来打球があんまり飛んでこなくて他の仕事も少なめだけど、それだけ『具体的な事実』、『実際に起こった事象』というのは重い。人間の行動を良くも悪くも縛り付ける。


 ……ここを乗り越えられれば、後は……


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


(まだ終わってねぇ!!!)

「ライトの……前!落ちました!」


「「「「「ブラボー!!!」」」」」

「「「「「USA!USA!USA!USA!」」」」」


「ツーアウトランナー一塁!アメリカ代表、最後まで諦めません!!」


 あの8番ショートの人も今日やたら頑張ってるね。ヒット3本にファインプレー連発。あたしがいなかったら間違いなく今日のMVPだっただろうね。あたしがいなかったら。


「9番センター、■■■■。背番号■■」


 でも、今日はあたしがいる。


「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」

「セカンド捕って二塁へトス……」

「アウト!ゲームセット!!」


「試合終了!日本やりました!!2-0、帝国代表(チームエンパイア)、苦しい戦いを乗り越え、24人全員で掴んだ金メダル!!!」


「「「「「日本!日本!日本!日本!」」」」」


 アウトの宣告と同時に、グラウンドにいたメンバーも、ベンチに控えてたメンバーも揃ってマウンドに集まって喜びを分かち合う。誰かどさくさに紛れてあたしのケツ触りやがったな……後で確認してシメる。

 というのは置いといて……


「やったな!逢!!」

「はい!!!」


 こんな大舞台初めてだってのに、まさかテッペンまで獲れちゃうなんてね。

 あたしはプロ野球選手。あくまでペナントレースが本業だし、今年はまだ中断してるだけで終わったわけじゃない。

 でも今日は目一杯喜ばせてもらう。あたしが貫いた自分勝手が一番身を結んだ日として。


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