第百話 一番ずるいポジション(3/8)
「プレイ!」
「さぁ7回の表、ゲームも正念場です。1-0、帝国代表のリードですが、ワンナウト三塁のピンチ。4回以降無得点の苦しい状況が続く中、ここを乗り切れるか……」
犠牲フライ……いや、内野ゴロでも良い。とにかく前に飛ばせ。向こうからしたら味方のミスの直後、絶対に同点にはさせたくねぇはずだ。
(すまん……何とか三振で頼むぞ、瀬長)
(こういう時にフォーク系を準備してないのは痛いですねぇ。肘への負担を考えてフォーク系はずっと敬遠してたんですが……いや、どのみちこの状況でフォーク系は投げづらいですね。久保さんであっても続けて捕球ミスという可能性がゼロなわけではないのですから)
確か瀬長はスプリッターは投げなかったはず。どうもメジャーにかぶれてるところがあるみたいだからな。それが吉と出るか凶と出るか……
「!!!レフト上がって……!」
バッテリーミスが効いたのか浮いた球、だがこれはちょっと浅いか……
「アウト!」
一応タッチアップ……
(させない……!)
「レフトバックホーム!」
俺がスタートを切るような挙動を見て、レフトの十握がホームへのダイレクト送球を試みる。犠牲フライは流石に無理そうだが、それで良い。プレーの中でタスクが増えればそれだけミスの確率が増える。この流れなら尚更。
スタートは切ったがすぐにストップして、送球の軌道を目で追う。少しでも逸れたら、すぐにホームに突っ込めるように。もちろんキャッチャーミットに収まりそうなら帰塁するが。
ほんの刹那の時間の中、神経を研ぎ澄まして、コマ送りで見てるような感覚。この送球の高さならもしかしたら……
「「「「「!!!??」」」」」
……!?しまった……!!!
「アウトオオオオオオオ!!!!!」
「さ……三塁タッチアウト!!!」
「え、ええ……!?」
「今何が起こったんや……!?」
「ちょうちょが跳んで、それで……」
ワンナウト三塁から一気にスリーアウト。日本の連中からしたらこの上ない結果だが、あまりの展開とプレー内容に頭がついてきてねぇのか、本来上がる歓声よりもざわつきが球場を支配する。
無理もねぇ。当事者の俺にとってもまさかだからな……
「おっとここで■■■■監督が出て……チャレンジです!ここで今のプレーを振り返ってみましょう!」
「今のはまずレフトの十握が浅めのフライを捕って、三塁ランナーがタッチアップ。そこで十握がホームへダイレクト送球を試みたところ、三塁ランナーはおそらく元から犠牲フライは狙ってなかったのか、三塁からそう離れてないところでストップ。そこでサードの月出里が跳んで送球を強引にカット」
「いやぁ、よく捕りましたね。この高さとこの球速で……」
「しかも着地する前に素早く右手に握り変えて、サードのカバーに入ってた神結へ送球。三塁ランナーも慌てて三塁に戻ろうとしたのですが、ここのタッチプレーは……」
バックスクリーンに様々な角度からさっきのプレーがスローでリピート再生される。特に俺が手からサードに戻ろうとしてるところに、カバーに入った神結がタッチする瞬間を重点的に。
だがまぁ、結果は当の俺自身がよくわかってる。
「……アウトです!判定アウト!!"帝国代表最年少"月出里逢、今日は守りで魅せました!!!」
「「「「「おおおおおおお!!!!!」」」」」
「「「「「ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!ちょうちょ!」」」」」
「バニーズにもこんな選手がいるんだ!(*^○^*)」
「おうポジサメくんのお家芸奪うのやめーや(*^○^*)」
「俺、ちょうちょちゃん一生追いかけるわ(クソノンケ)」
「今のは咄嗟に三塁のカバーに入ってタッチできた神結もナイスでしたよ。向こうの三塁ランナーも次の塁を狙う姿勢は素晴らしかったですが、隙を逃さなかった月出里の技ありですね。向こうも内野守備でこちらの攻撃を阻む中でこのプレー、これは1点を守った以上に価値がありますよ」
「これでスリーアウトチェンジ!帝国代表、ワンナウト三塁のピンチを凌ぎ切りました!」
映像が付いてようやく脳の処理が追いついたのか、遅ればせながらの歓声、それに応える月出里。チビだが、整った顔立ちとスタイル。ずいぶん絵になりやがる……が、一瞬だけ俺と目が合った時の月出里の表情は、その華やかさを忘れて、不敵な笑みを俺にだけ見せた。
(この瞬間を待っていたんだ……ってね)
月出里……多分、ずっと狙ってやがったな、俺がわずかでも走塁で抜かる瞬間を。常に狙ってたから、この展開をあらかじめ想定できたんだ。初回の本塁憤死をやり返すために……
そういう自分勝手な私怨をずっと抱えてたから、流れに呑まれることなく俺を刺すことができたんだろうな。
「よくカバーに入ってくれましたね」
「だから10年早ぇんだよ。勝手なことしやがって」
「迷惑でしたか?」
「上出来だ。よくやった」
もう1人の功労者の神結と労い合いながら、月出里はベンチへ戻っていく。
「畜生……」
負けじと、三塁から起き上がって、俺も一旦ベンチへ戻る。
ホント強ぇな、日本人ども。どいつもこいつも右に倣えで足並み揃えて、真面目に流れに呑まれる奴ばかりだと思ったら、あんな空気を読まねぇ跳ねっ返りまで抱えてるんだからな。ここまで無傷で勝ち上がれたわけだ。
だが面白ぇ。まだ攻撃が2回あるんだ。俺達ぁ絶対諦めねーからな……!
今日の主人公ちゃんのプレーはアレナドのプレーを参考にしました
ttps://www.youtube.com/watch?v=mWI8Nhw931E&t=333s
3:50辺りから




