第九十九話 怪童(6/7)
******視点:三条菫子******
「9番キャッチャー、久保。背番号10」
大したものね。この大舞台で一発……
「アウト!」
「1番サード、月出里。背番号25」
でも上手くいってなかったとしても、あれはおそらく狙いとしては正しい。
「!!!引っ張って三塁線!」
「オオオオオッッッ!!!」
「!?サード捕ってファーストへ!」
「アウトォォォォォ!!!」
「ッッッ……!」
「サード■■、好プレー!」
「ツーベースかと思ったんですが……やっぱり本場の内野は固いですね」
一塁を駆け抜けたところで天を仰ぐ逢。あの子のことだから多分、さっきの猪戸の一発に張り合ったつもりだったんでしょうね。
そしてそれがモチベーションになり、同時に枷になった。それもまた『流れ』ってやつよね。
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予想通り、ゲームは中盤まで硬直。
「1番サード、月出里。背番号25」
「5回の裏、1-0、ワンナウトランナーなしで帝国代表、打順が三巡目に入ります。打席には月出里。第1打席にはいきなりスリーベース、先ほども惜しい当たりがありました。準決勝の韓国戦以来、好調を維持しております」
厳密には優輝がもう帰った分、前ほどじゃないでしょうね。だけど相手は対戦経験が何度かある投手。
(ここであたしに求められるのは出塁……だけど、さっきのサードゴロだけじゃなく、他の人達もさっきから相手の良い守備に阻まれまくってる。リードはしてるけど、余裕のある状況じゃない。それに、歌舞伎野郎に勝つためにも、今日こそこの大舞台で久々の一発を打って……)
でも、だからこそ欲張っちゃうんでしょうね。
「!!!右方向……」
「アウト!」
「ああっと、ライト真っ正面……」
「当たりは素晴らしかったんですけどねぇ……」
打球速度171km/h。逆方向でもこれだけの速度を出せるのは大したもの。一見すると不運ではあるけど、逢の才能を知る私からすれば、あれは紛れもなく打ち損じ。
(何でだよ……!?しっかり捉えられてるのに……!)
逢の打撃の才能は、要は『あらゆる投球に対する最適な打ち方の出力』。つまり、的確に予測して想定通りに動作できれば、打球の方向も込みで高確率でヒット以上が打てる。ただ、裏を返せば、何かしらの不具合があれば、結果が裏返って高確率で凡退する。かつて『最適な打ち方』が身体の部位ごとに別々に出力されてたせいでフォームが変になって全然打ててなかった頃と同じように。
「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
(くそッ、こんな球振っちまった……!)
外は入らない限り極力捨てて、内で勝負して10年以上レギュラー張ってる神結杏那でも、外に逃げる球に思わず手が出てしまった。守備範囲が突破しづらいからってことで、強振の意識が強くなって外の見極めに余裕がなくなってしまってる。
僅差とはいえリードしてるのに、打線が全体的に焦ってるように見えるのは、それだけ短期決戦の怖さを知ってるという証拠。ましてやアメリカ代表とは3戦目で延長戦に持ち込まれるほど苦戦した相手。総合的な戦力で勝っていても全く油断できる相手じゃない。
『どんな状況でも、1点は1打席で稼げてしまうもの。だからこそ、次の1点が早く欲しい』。アマチュア時代からのそういう経験則が功を奏してこの決勝まで上り詰められた反面、仇になってる部分もあるってことね。
「日本代表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、串尾に代わりまして……」
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「アウチッ!?」
(や、やっちまった……)
「ヒット・バイ・ピッチ!」
「ああっと、当ててしまいました!これでツーアウト一二塁!!」
「この回も2人出してしまいましたねぇ……まだ点は取られてないですが、嫌な『流れ』ですね……」
6回から入った投手、ヒットこそ打たれてはいないけど、ちょっと制球が怪しいわね……
「アウト!」
「キャッチャー捕りました!これでスリーアウトチェンジ!!」
一応打ち損じてくれたけど、ここからの継投は怖いわね。1点リードである以上、1人たりとも抜かれない。




