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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
621/1134

第九十八話 上書き(9/9)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「あの、月出里(すだち)選手。少しお時間よろしいですか?」

「あ、はい……」


 試合が終わって撤収する前、やっぱり取材に引っかかった。オリンピックはヒーローインタビューとかがないからしょうがないっちゃしょうがない。


「本日の試合は5打数3安打、先制打に加えて決勝となる逆転打と素晴らしい活躍で、帝国代表(チームエンパイア)を見事決勝へ導きました。今日の好調の要因は何でしたでしょうか?」

「えー、そうですね……百乗(ひゃくじょう)監督が試合前にスライダー系を重点的に対策しろってことをおっしゃってて、それで良い形で調整することができました」

「スライダーへの対策と言えば、3打席目のスリーベースが特にそうでしょうか?」

「そうですね。イメージした通りに外野の間を抜けましたし、他の打席でもスライダーへの対応に余裕があったから結果を出せたと思います」


 監督には実際お世話になったからね。明らかに他の人に流されてあたしを使ってる感があるけど、それでもその中であたしが活躍できるように色々と取り計らってくれた。監督の顔を立てておきつつ、『監督は実力であたしを選んでくれた』っていうふうに思ってもらいたい。


「2打席目には今大会最速となる打球速度195km/hを計測しました。シーズン中でも月出里選手は打球の速さに定評がありますが、その辺りも普段から意識されているんでしょうか?」

「まぁ打球が強ければ強いほど普通は遠くに飛びますからね。しっかり振って、それでいてバットの芯で捉えることは意識してます」

「本日のヒットの内訳はツーベース、スリーベース、シングル。あとホームランを打てばサイクルヒットという内容でした。最後の打席も非常に痛烈な当たりでしたが、狙ってましたか?」

「そうですね。捉えることはできたんですけど、やっぱり角度が足りなかったですね。でも残りのホームランはメスg……綿津見(わだつみ)さんが打ってくれたってことで良かったかなーって思ってます」

「月出里選手は強化合宿の時から綿津見選手とよく行動を共にされていますが、普段からご交友が?」

「はい。あたしのプロ1年目から縁があって。まだ二軍で下積みしてた頃からもあたしのことを評価していただいてて、オフにも一緒に自主トレとかしてます」

「『プロ野球なんでもランキング』でも長打力部門で投票されてましたね」

「そういうのに応える意味でも最後のはスタンドまで持っていきたかったです」


 ついでにメスゴリラ師匠を立てるのも。どうせ元から『見栄えだけのサイクルヒットなんかよりホームラン4本打った方が良いに決まってる』って考えだし、そういうことで良い。

 友枝(ともえだ)さんが言ってた通り、あの人は重圧とも戦ってきたから今日までなかなか結果を出せなかったんだと思う。今日のあの一発ならもう心配ないと思うけど、このくらいは返しとかないとね。


「3日後にはいよいよ決勝戦となります。相手は今日と同じ韓国か、もしくはアメリカとの再戦となりますが、意気込みなどお願いします」

「どっちも結果的には一度勝てた相手ですが、力のあるチームだと思いますし、最後まで油断せず、今日以上の活躍ができればと思ってます」

「最後に、ファンに向けて何か一言お願いします」

「オリンピック残り一戦、そしてシーズンも最後まで全力でプレーしていきますので、今回のオリンピックをきっかけにあたしや十握(とつか)さんを知った皆さんも、ぜひ最後まで日本代表とバニーズを応援してください」


 そして最後に本来の目的である宣伝も。


 勝利することの意味やそこから得られるものっていうのは人それぞれ違う。ネットとか見ても、今日の対戦相手に野球と関係ない大人の事情を色々絡めてる人もいたみたいだし。そういう人達にとっちゃ今日の勝利はさぞかし気分の良いものだったんだろうけど、別にそれは各々(おのおの)好きにしたら良いと思う。

 だからあたしもこうやって自分なりに、今日の勝利の意味を決めるし、その勝利を利用させてもらう。何で勝利できたかそういう理由も含めて、自分にとって都合の良い方向に上書きさせてもらう。直接勝利したのはあたし達なんだし、文句は言わせない。その方が、『あたしが前の日に男とスケベなことしたから帝国代表はメダルが確定した』っていう真実が後世に残るよりはマシだよね?


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 ホテルに戻って、優輝(ゆうき)と通話。


「本当に大丈夫?明日の練習、午前中なら付き合えるけど……」

「うん。どのみち決勝の日には出られないんだし、無理せず明日一番に帰って大丈夫だよ」

「そっか……頑張ってね」

「……もしかして、帰る前にもう1回したかった?」

「うぇっ!?えっと……」

「そ〜んなに久々のあたしが美味しかったの〜?ケケケケケ……」

「うぅ……」

「あとちょっとしたら大阪に戻れるから、その時は今日頑張ったご褒美も含めて、あたしをいっぱい可愛がってね?」

「……うん」


 ほんとはあたしも、今日試合が終わったら優輝のとこに直行してまた搾り取ってやろうと思ってたんだけど、あいにく今日のあたしは"救国の女傑"。取材に捕まるし、周りの目もありまくりだから、しけこむことすらできやしない。

 おかげで今日もセルフサービスで済ませるしかない。結果として引きこもりのチェリーボーイと同じような待遇。全く報われない。


 マスコミやファンは『スターの活躍を願うこと』を対価に、『スターの活躍に必要な時間』をもらおうとしてくる。困った話だよね。だからあたしはあたし個人じゃなく、バニーズとか日本代表とか、そういう単位での応援を願った。こういう時ばっかり団体競技の良いところを利用するなんて都合の良い話だとは思うけど。

 ……あたしにもっと活躍してほしかったら、スケベなことくらい好きにやらせろ。それで十分あたしへの投資になる。こちとらあたしのためにもすみちゃんのためにも"史上最強のスラッガー"にならなきゃならないんだから、野球してない時くらいは放っといてほしい。テレビを通して応援したり、頭の中であたしと良いことするのくらいは好きにしたら良いから。

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