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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十一話 今のあたしもまた、あの人のシナリオ通りであってほしい(8/8)

5回表 紅2-3白



○白組


[先発]

1二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

2中 有川理世(ありかわりせ)[右左]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

5三 リリィ・オクスプリング[右両]

6捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

7指 伊達郁雄(だていくお)[右右]

8左 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]


[控え]

雨田司記(あまたしき)[右右]

山口恵人(やまぐちけいと)[左左]

夏樹神楽(なつきかぐら)[左左]



●紅組

[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 グレッグ[右右]

6指 イースター[右左]

7三 ■■■■[右右]

8二 ■■■■[右左]

9捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


「2番ショート相沢(あいざわ)。背番号3」

「タイム!」


 月出里のおかげで最悪の事態は免れたが、それでもツーアウト三塁。ヒットどころかバッテリーミス、内野の軽いエラーでも失点に繋がる危険な状況であることに変わりはない。おまけに打席には相沢さん。慎重になって当然の場面だ。


篤斗(あつと)。相沢さんは古き良き時代の脚と小技だけの2番とはわけがちゃう。バニーズ基準抜きで打力も十分ある」

「ああ、それはもうルーキーのお前以上に理解してるさ」

「下手な小細工を弄してもジャンケンになるだけや。こういう時こそ、王道の投球。お前にはそれだけの力が備わってるんやし、堂々とラストバッター仕留めてやろうや」

「俺の方は大丈夫だが、お前は大丈夫か?俺の決め球は……」


 そう、フォーク系。特にバッテリーミスを引き起こしやすい球種で、ランナー三塁でチョイスがしづらいもの。


「……篤斗。今はそこまででもないんやけどな、オレも関西人の例に漏れずパンサーズファンやったんや。結構昔の選手も知っとる。パンサーズは日暮咲(ひぐらしさき)さん以外にも球史に名を残す投手が他にもおるけど、その内の1人がこう言ったとされるんや。『野球は1人でもできる』ってな」

「けど、それって……」

「まぁ知っとると思うけど、マスコミが面白おかしくでっち上げただけの話や。昔のプロ野球関係ではメジャーでもよくあることやし、少なくとも本人が直接言ったわけやない。まぁ何にしても、明確に間違ってる部分が1つあるよな?」

「『野球は9人でやるもの』……か?」

「まぁ現実問題はそうやな。でも理論上の話をすると、『野球はバッテリーがおれば最低限は成立する』ってならんか?」

「……!」

「まぁ前提条件として、『全ての打者から三振奪う』ってのが必要やけどな。そして仮にそれほど優れた球威を持つ投手がおったとしても、きちんと捕れる投手がおらんと話にならん」


 確かにな……内外野を蔑ろにする気はねぇが、努力目標としてなら……な。


「篤斗、さっきお前、『"日本一のエース"になる』って言うてたな。そいつは結構なことや。せやけどな、そうなるためには相応のキャッチャーが必要や。幸いにも目の前には"日本一のキャッチャー"目指してる奴はおるけどな」


 言ってくれるじゃねーか。


「今まで以上のやつを投げるつもりだから、覚悟しとけよ?」

「上等や。『オレに捕れん球はない』って言うのも目標の1つや」


 ああ。頼んだぜ、相棒。


「プレイ!」

(高めばかりで俺を打ち取れると思うなよ?低めの力は弱り気味。そこを確実に仕留めてやる……!)


 なんて思ってくれるなよ?


「な……!?」

「ストライーク!」


 手を出しかけたが、スイングストップ。やっぱり低めを狙ってたな。


(確かに低めにきた……だか、球威が戻ってる……!?さっきまではランナーがいると明らかに低めへの球威が落ちてたのに……)

「ナイスボール!氷室くん!!」

「その調子でどんどんいくんや!くれぐれもサードには転がすんやないで!?ほんま勘弁して下さいお願いします!!」


 よしよし、バックも盛り上がってきてる。


(流れが戻りつつあるな……確かに得点を先に動かしたのはこちらだが、ビハインドであることには変わりない。この状況で点が取れねぇと割とまずい……!)


 投球モーションに入ると、相沢さんはバント体勢。かかった……!


「!!しまっ……」

「ファール!」


 高めボールゾーンへの全力ストレート。そう簡単に前に転がせるもんじゃねぇ。


(ナイスアシストや、リリィ)

(まさか、カウントを稼ぐためにサードへのセーフティを誘ったのか……!?)

(まぁ、ウチとしてはほんまに勘弁してほしいんやけどな……)


 正直、序盤からちょっと飛ばし気味だったから疲れが出てたんだけどな。だが今は不思議と腕が振れる。

 こんな感じでな……!


「おおっ!!?」


 俺の渾身の142km/hツーシームスプリッターで、相沢さんのバットは空を切った。だが完全捕球には至らず、相沢さんはすかさず一塁へ走り始める。


(させへんわ……!)


 それでも幸貴(こうき)は冷静だった。捕球こそ叶わなかったが、前にちゃんと落としたおかげですぐに球を拾って、一塁へ送球。


「アウト!スリーアウトチェンジ!」

「すげぇじゃねぇか白組!あのピンチを切り抜けやがった!」

「氷室くーん!お疲れ様ー!」

「いやぁ、本当に良いバッテリーっすね」

「当然。特に氷室は私が育てたんだから」


 祝福を浴びながら、幸貴と静かに拳を合わせてベンチへ戻っていく。『あと何回』みたいなことを考えてたのに、今は『最後まで投げたい』って気持ちしかねぇ。

 俺の決め球を捕ってくれて、味方の弱点をも武器に変える。幸貴、お前にはシーズン中も頼りにさせてもらうぜ。


(まぁイケメンは大嫌いやけど、『利用する』とは言わんわ。よろしく頼むで)

(……悔しいけど、負けたな。けどボクもいつかは氷室さん以上の投手になってやる……!)

「よくやったね氷室くん!僕もこれから頼りにさせてもらうよ!」

「ありがとうございます!」


 ベンチに戻ると、味方から労われながらアイシングして、『俺がこの試合を作ったんだ』って気分で試合終了まで堂々と観戦できる。久しぶりだな、この感覚。


「ストライク!バッターアウト!」

「アウト!」

「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!!」

(氷室くん。貴方も大したものだけど、まだまだお姉さん負けないからね……!)

「5回無失点!さすがは水面(みなも)ちゃんだぜ!」

「"み・な・も・お・ね・え・さ・ん"!!!」


 流石だ三波(みなみ)さん。いくら6番からとはいえ、流れがこっちに戻りかけてるにも関わらずあっさりと3凡。俺としちゃこのメンバーが気に入ってるからまた同じ面々で、今度はハンデとかなしでまた投げ合ってみてぇな。

 ともあれ、これで俺と三波さんはお役御免。一応俺は控え野手の立場があるが、後は基本的に見守るだけ。後は頼んだぜ、白組(お前ら)。火織(かおり)もそろそろ立ち直ろうぜ。

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