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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第九十八話 上書き(4/9)

帝国代表(チームエンパイア)、初回の攻撃に入ります。今日もリードオフヒッターを務めます、代表最年少、バニーズの月出里逢(すだちあい)


「あ^〜今日も可愛(かわえ)えんじゃ^〜」

「まだ1番やってるんやな……」

「サードは人手不足やからまだええけど、ええ加減下位に回せよ……」

「ハッ、どうせ枕でしょ?」

「不人気球団のブス売り出して、誰得なのかしらね?」


「あの日本人(イルボニン)、やけに可愛いニダ……」

「どうせ整形女(カンナムオンニ)ニダ」


 歓声の方が(まさ)ってるけど、カメラで抜かれた観客の表情はどこか不満そう。そして(あい)はいつもと変わらず凛と澄ました顔。構えも落ち着いてて、何食わぬ雰囲気を醸し出してる。


「さて、本日の試合もトラッキングシステムによる計測データも合わせてお届けしていきたいと思います。日本球界では現在、全球団が本拠地に関連のシステムを導入しております。バニーズとシャークスが従来のトラッキングシステム、それ以外の10球団はCODE(コード)製の『HIVE(ハイブ)』を採用。そのため、この横須賀スタジアムに設置されているのも従来のものとなります」


 そう言えばシャークスもアレを回避したのよね。同じIT系企業として思うところがあったのかしら?コストの面で採用してもおかしくないと思ってたんだけど……


「韓国代表の今日の先発は■■。右のサイドスロー投手です」


 正直私は韓国の選手はあんまり詳しくない。韓国の野球事情をちょっと知ってる程度。

 韓国のプロ野球は日本と比較すると、打高の傾向が強い。その理由の1つと思われるのは『儒教の影響』。韓国球界には『年下の投手は年上の打者にあまり内角を攻めてはいけない』という暗黙の了承があるみたいだからね。内角攻めが少ないと、必然的に踏み込んだ強い打球が飛び交いやすくなる。

 とは言え、こういう部分は決してマイナスばかりじゃない。


「ストライーク!」

「外、決まりましたストライク!」


 言ってた通り、右のサイドスロー。曲がり幅が小さいカット気味のスライダーだけど、良いコースに決まってる。


「ファール!」

「当てましたが一塁線切れましたファール!」

(なるほど、監督が言ってたのってこういうこと……)


 2球目も同じ球種で同じコース。打ちにくいコースをしっかり再現してる。外スラのお手本のような攻め。

 外角での勝負が中心になるからには、投手も必然的にそういう環境に適応する形で成長する。韓国出身の有名な投手はスライダーを得意とする投手が多いのも、おそらくそういう背景があるからなんでしょうね。


「ボール!」

「ファール!」

「これも当てました!」

(外があまり得意じゃないって話だったのに、しつこいニダ……)

(まぁ今日は遠慮はいらないニダ。ここは1球インコースで牽制するニダ。外してもOKだけど甘く入れちゃダメニダ)


 多分逢のデータをある程度調べた上での配球。ここで内を使うみたいね。


(!!!しまった……入る!)


 ……!!!


「引っ張って……」

「ッ……!」

「サードこぼしたが拾った!」

「ファースト!」

「アウトオオオ!」

「一塁間に合いました、これでワンナウト!」


 今の打球、こぼしはしたけどよく止めたわね。速い打球に慣れてるからか……


「「「アイゴー……」」」

「な、何じゃ今の打球……!?」

「速すぎて一瞬何が起こったかわからんかった……」

「お、おいこれ見ろよ!」

「マジか……!?」


 結果だけ見れば何てことないサードゴロ。だけど中継で抜かれた観客席の反応。ところどころでスマホを確認する姿。


「!!?先ほどの月出里選手の打球速度、今大会最速の189km/hを計測しました!」

「189km/hって……」

「よく無事でいられたな向こうのサード……」

「確かちょうちょって去年194km/hとか打ってたような……?」

「なにそれこわい」


 中継の画面にも表示された逢の打球速度。ちょっと打ち損じたみたいだけど、調子が戻ってきたかしらね?


「ふ、ふん……結局は単なる内野ゴロじゃない……」

「アウトになっちゃ意味ないわよ……」


「2番ショート、神結(かみゆい)。背番号6」

「こちらも今日も2番ショートでスタメンとなりました、ジェネラルズの神結杏那(かみゆいあんな)帝国代表(チームエンパイア)のまとめ役、ここ3試合で打つ方でも結果を出しております」


 確かにこの3戦はよく打ってたけど、今日の試合は多分……


(……!逆……)

「セカンド……抜けましたライト前!」

「流石や杏那(あんな)!」

「ナイス流し打ち!」

「杏那くーん!」


 と思ってたらいきなり打ったわね。

 神結杏那の真骨頂は何といってもあの内角捌き。逆球で身体の近くに来た球をスムーズに弾き返した。


「アウト!」

「ストライク!バッターアウト!」

「しかし友枝(ともえだ)綿津見(わだつみ)は凡退!」


「また今日もかよ(呆れ)」

「"守備の人"をわざわざ上位打線に入れんでええやん……」

弓弦(ゆづる)はそこそこ打ってるから(指摘)」


 まぁ綿津見昴(わだつみすばる)は巡り合わせも悪いわね。1番2番は甘く入った球があったけど、今回はシンカーもスライダーもバッチリ内外に決まってた。あれは調子が良くてもなかなか打ち返せないわ。


 結果だけ見るとしょっぱい一打席目になったけど、今日の逢には期待できそうね。


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