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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第九十七話 ハッピーバースデー(8/9)

「いらっしゃいませ」

「ドリップコーヒー、ホットのショートで」


 8月1日、土曜日の朝。ホテル近くのス■バ。席に余裕があるから、なるべく外から目立たないところを選んで座る。

 当然球場の近くでもあるから、(よそお)いはいつもと違う。リボンを付けずに、日焼け予防を兼ねた帽子とサングラス、髪も後ろで縛ってる。いつもと少し趣が違う私服には、目印としてコサージュを付けて。

 それでも男の人の視線から避けられないのは、元が可愛すぎるからで仕方ないこと。とりあえず、今テレビでも話題の超絶美少女・"ちょうちょちゃん"じゃないと思ってもらえたら十分。


(あい)


 後ろから小声。


優輝(ゆうき)……」


 振り返ると優輝の姿。両手にはそれぞれ頼んだカップとキャリーケース。


「ごめんね、突然……」

「ううん。あたしも逢いたかった」


 優輝が隣に座って、あたしとの間にキャリーケースを置いて、その裏で指を絡め合う。『昨日はじれったくてこんなふうにしてたんだ』って思い知らせたくて。そんな拙い繋がりでも、久々の優輝の感触で昨日の熱量を思い出して、こっそり両膝を擦り合わせてしまう。


「でも、どうしたの突然?」


 昨日突然来たメッセージ。


 ・

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 ・


『明日の朝そっちに行くから』

『え?どうしたの急に?』

『夜ふかしは嫌なんでしょ?とりあえず明日の朝、どこかで待ち合わせして話そう』


 ・

 ・

 ・


 来てくれたことは嬉しいけど……


「急になっちゃったけど……昨日の試合観てて、いてもたってもいられなくなって……」

「……!」

「今日と明日、土日だからね。月曜に帰ることになっても学校には間に合うし、逢の練習に付き合えればって思って……迷惑だった?」

「ううん、嬉しい……」


 ほんと、こういうところが良いんだよね。あの"顔だけクソ野郎"とはえらい違い。

 でも……


「場所とか、大丈夫かな……?」

「あっ、そう言えば……大会期間中って、どこで練習してるの?」

「この辺りの大学のグラウンドとか借りてるんだけど」

「ごめん、その辺全然考えてなくて……」

「ううん、気持ちだけでも嬉しいよ。ちょっと監督と交渉してみるね」

「却って手間かけちゃったかな……?」

「……ところで、何頼んだの?」

「え?えっと、アールグレイ……」

「一口良い?」

「うぇっ!?い、良いけど……」

「あたしのも飲む?普通のドリップコーヒーだけど」

「良いの……?」

「どうぞどうぞ」

「じゃあ……」


 差し出したカップを手に持った優輝の耳元に近づいて……


「……間接キース♪」

「うぇっ!!?」


 散々直接ディープなのしてきたのに、今更こんな反応。これだから優輝は良いんだよね。ケケケケケ……


 ・

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 ・

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 ・

 ・


 いったんホテルに戻って、準備を済ませて優輝と一緒に練習場所へ。貸し出す側の都合もあるからずっと同じ場所ってわけじゃないけど、今は横須賀市内にあるとある大学のキャンパスのグラウンド。


「優輝、ちょっと待っててね」

「うん」


 元々大学のセキュリティの都合もあるし、球界のスターもいっぱい集まるってことで、関係者以外は立ち入り禁止。優輝には大学の門の前で一旦待っててもらう。


「すみません、百乗(ひゃくじょう)監督」

「ん?」

「あの、今回の代表のスタッフじゃないんですけど、打撃投手を1人入れて良いですか……?」

「打撃投手を……?」

「はい、あたしが個人的に雇ってる人なんですけど……」

「……今いるスタッフじゃダメなのかい?」

「はい……他の予定があったので連れてこなかったんですが、シーズン中はその人で調整してたので……」

「ふむ……わかった。話は通しておくよ」

「あ、ありがとうございます!」


 よかった。あたしの起用法で『あたしに変に肩入れしすぎてる』って言われてるのは知ってるだろうし、それで断られるかなーって正直思ってたけど……


(『月出里くんに肩入れしすぎてる』って思われるのは正直避けたいけど、次の試合でも月出里くんをスタメン起用するのは既定路線……それで復調してくれるなら御の字だし、月出里くんのこと以前に選手のために何も働きかけなかったら、それこそ単なる"雇われ監督"だからね)


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