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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第九十六話 あれくらい余裕だったのに(3/4)

 初回の帝国代表の攻撃は、猪戸(ししど)の後に琴張(ことはり)氏も犠牲フライを打って3得点。


「ライト見上げて……」

「アウト!スリーアウトチェンジ!」


 2回のこちらの攻撃は、変わらず真木(さなぎ)女氏の球威に()され、無得点。


「アウト!」


 こちらの先発も吹っ切れたのか、制球が落ち着いてきた。


「1番セカンド、月出里(すだち)。背番号25」


 だが、初回の猛攻によって向こうは早くも二巡目に突入。


「ちょうちょ!本番(ホンチャン)でも切り込み隊長や!!」

(あい)ちゃーん!」

「やべ、俺あの子に惚れたわ」

猪戸(ししど)以外にも若いのであんなええ野手おったんやな」

「今度からスポーツ速報でついでにチェックしよ」


 客入りの少ない球団に所属し、実力はどうあれレギュラーに定着し始めくらいの立場。それ故に振れ幅が大きい。明らかに第一打席に入るまでよりも観客の反応が好意的になってる。

 野球での単打1本は数字の上ではそこまで価値のある結果とは言えないが、大衆心理としては最初からどんな形であっても結果を出すのと出さないのとでは大いに違ってくる。仮に今日どう転んでも3打数1安打だとしても、最初の打席で出るのとそうでないのとでは印象はだいぶ変わってたはず。

 それに、実績は乏しくても、元々の容姿の華やかさ、それに『帝国代表の1番に抜擢された』という事実はすでにある。その単打1本という後押しがあれば、『次も期待できる』と印象付けることは難しくないな。


(掴みは良い感じかな?あとはいつも通り……)

「ストライーク!」


「あれ?すんげぇ大振りじゃね?」

「さっきの打席だとスマートに流し打ちしてたのに」

「っていうかスイングクソ速くね?」


 とりあえず最低限のアピールは済ませたから、次はいつも通りのスタイル、か。

 月出里は小柄で三振が少なく高打率、しかも俊足だからヒットの本数を稼ぐ典型的な1番打者タイプだと思われがちだが、去年の映像なども観てわかるように、むしろ追い込まれるまでは思い切って長打を狙うことが多い。ゆえに本塁打はなくとも二塁打・三塁打の数は多い。テレビで『打率・本塁打・打点』というよくある三冠王要素しか観ていない人間だとまず気付かない特色。

 そして追い込まれるまでは空振りも意外とする。おそらく、結果的に早打ち凡打になってしまうのを防ぐためあえて。


(よし、カットボールでファールもらうぞ)


 そして、右利きの右打者にありがちな傾向だが、月出里は全体的に打球方向の偏りが少ない。大抵コースに逆らわず素直に打ち返す。

 宮里(みやざと)氏はミットを内に置いた。となるとここは……


「引っ張って三遊間!」


 引っ張って、角度が付かなければ三遊間に強打……!


(よし、2安打目……!?)

「ショート追いついた!」

「「「「「おおっ!!!」」」」」

「ファースト!」

「アウトォォォォォ!!!!!」

「ファースト送球間に合いました!九十九(つくも)、ここで好プレー!」


「良いぞ九十九!」

「ええ肩してるでほんま……」

杏那(あんな)の後釜は安泰じゃ!」

「同い年のチビなんかに負けんじゃねぇぞ!」

「ちょうちょも惜しかったなぁ。あと一歩やったんやけど……」


 月出里は俊足ではあるものの、内野安打はあまり多くない。何だかんだで右打者だからな。単純な一塁までの距離の差はさほど大きな問題ではない。バットをしっかり振るが故に、身体の向きや勢いが一旦三塁の方へ行く分、スタート時にスピードが乗りにくい方がネック。単純に打球速度で内野の間を裂くことは容易ではあるものの、その速度のおかげでグラブに収めることさえできれば十分刺せる。


(流石九十九くん……あのシフトはリプ限定だと思ってたし、最近はスリーベース打たれるリスクとかも考えてか、リプの方でもそう毎回毎回シフトを敷かれることはなくなってた。それでいつも通り打ち返しちゃったんだけど、見抜かれてたみたいだね……今年交流戦ないのに熱心だこと)


 あいにく今年だの来年だの、交流戦のあるかないかなど関係ない。小生がプロの舞台で戦う上での大きな目標の1つが、『月出里逢(すだちあい)という"怪物"に勝つこと』なのだから。

 貴様に勝つためならこの程度のデータ収集や作戦考案など何の苦にもならん。


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******視点:月出里逢(すだちあい)******


「帝国代表、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、真木(さなぎ)に代わりまして……」


 初回の連打連打を除けば、あまり波風のないゲーム展開。あたしにとっちゃ九十九くんのせいでヒット1本損しちゃったけど。


「4回の表、ジェネラルズの攻撃。1番ライト、三木(みき)。背番号59」


 一昨年、まだあたしが二軍で下積みしてた年に対戦する機会の多かった三木さん。あの頃は育成選手だったけど、首位打者と盗塁王を争った功績で支配下登録。お金のイメージが強いジェネラルズにもこういう人がいるというのは、あたしみたいな立場で見ると感慨深いものがある。


「センターの前……落ちましたヒット!」

「良いぞ良いぞタツ!」

「ジェネラルズは金だけじゃねーぞ!」

「2番レフト、■■。背番号■■」


 3点リード……しかもキャッチャーは久保(くぼ)さん。多分盗塁はない。


「三遊間……いやショート捕った!」

「「「おおっ!」」」


 神結(かみゆい)さんが滑り込んで捕球。流石……!


((あさひ)にできて、おれにできねぇわけがねぇだろうが!)

「セカン!」

「アウト!」

「二塁はアウト!」

「ッ……!」


 しまった……!


「ああっとセカンドお手玉!」

「セーフ!」

「一塁はセーフ!」

「えぇ……」

「今のはゲッツー取ろうや……」

「まぁ杏那(あんな)の送球もアレやったけどさぁ……」


(後で説教確定な)


 神結さんからの突き刺さるような視線。あんな合法ショタに睨まれても別に怖くも何ともないけど、ミスったのも確かだからね……

 ただでさえ連携プレー苦手なのに、しかもセカンド……打つ方で最初から結果出しといて本当によかった……


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