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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十一話 今のあたしもまた、あの人のシナリオ通りであってほしい(6/8)

4回表 紅2-3白



○白組


[先発]

1二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

2中 有川理世(ありかわりせ)[右左]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

5三 リリィ・オクスプリング[右両]

6捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

7指 伊達郁雄(だていくお)[右右]

8左 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]


[控え]

雨田司記(あまたしき)[右右]

山口恵人(やまぐちけいと)[左左]

夏樹神楽(なつきかぐら)[左左]



●紅組

[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 グレッグ[右右]

6指 イースター[右左]

7三 ■■■■[右右]

8二 ■■■■[右左]

9捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


******視点:雨田司記(あまたしき)******


 急変する状況。だけど、決まりは決まり。ツーアウトランナーなしだけど、約束通りならあと1失点でボクと交代。ブルペンに向かい、軽くだけど準備をしながら戦局を見つめ続ける。


「ボール!フォアボール!!」

「セーフ!」

「ッ……!すまん……!」


 金剛(こんごう)さんのツーラン直後、5番のグレッグがフォアボール、6番のイースターがサードのリリィさんのエラーで出塁。依然ツーアウト一二塁のピンチ。

 流れが変わったとか何だとか、青臭い後付けの理由は嫌いだけど、ついさっきまでの氷室さんの圧倒的な投球から完全に雰囲気が裏返ってる。


(……このままでいられるか!)

「ストライク!バッターアウト!!スリーアウトチェンジ!!!」


 だが、それでも氷室さんは踏ん張った。多分ボクと代られるのが嫌だからとかじゃなく、単純に自分の役割を果たすため。


「ふぅ……」


 良かった。切り抜けられた。


「え゛……!?」

「?何だよ夏樹(なつき)?」

「あ、いや、その……何と言うか……お前にもこういう状況でホッとする神経があったんだな、って……」

「……?は……?」

「いや、別に皮肉とか悪い意味とかじゃなくてな……むしろその……『ほんの1mmくらい見直した』とかそういう意味だから……お前あんだけ先発やりたがってて、結局条件付きでないと譲らないつもりだっただろ?なのに氷室さんに気を遣ってる感じだから」


 ……そうだ。確かにそうだ。夏樹の言う通りだ。氷室さんがピンチを切り抜けられた時、確かにボクは『代らなくて悔しい』じゃなく、『良かった』と、そう思った。

 確かにこの試合、勝たなければならない。だけどそれはあくまで『ボクの名誉挽回』という目的のための手段でしかないはず。勝つ確率を上げるためにも氷室さんも打たれない方が望ましいというのは確かにあるけど、それでも本来、ボクにとっちゃ他の連中がどうなろうが関係ないはずなのに。


「あ、あの!雨田くん!」


 一旦ベンチに帰ってくると、今度は秋崎(あきざき)に声をかけられた。


「確かに2点取られちゃったけどね、でもこのままリードを保って何とか雨田くんに繋いでみせるから!そのためにも、わたしももっと頑張るから!」

「う、うん……」


 いきなり何なんだよコイツは?いつもいつも良い子ちゃんぶって……おかげでまともな返事ができなかった。




 ******視点:氷室篤斗(ひむろあつと)******


「ドンマイやで火織(かおり)!ウチも結局ミスってもうて、篤斗だけやなく練習付き合ってくれた火織にも申し訳ないわ……観客席の連中がくっさいネットのノリで色々言っとったけど、ああいう手合いは結果出したらすぐ掌返すもんや。いつも通り図太くいこうや!」

「うん、ゴメン……」

「でゅふっ……そ、そうですよ火織さん……過去のデータから言っても、火織さんはウチの攻守の要なんですから……攻撃面では三波さん相手に活躍してるんですし、守備面でも火織さんが捌けなかったんならしょうがないですよ、でゅ、でゅふふ……」

「うん、ゴメン……」

「火織さん、ここから取り返していきましょう!」

「うん、ゴメン……」


 あの頃までと違って、火織は本当に色んな奴から慕われるようになった。今もリリィと有川(ありかわ)月出里(すだち)がフォローに入ってる。


「火織。結果的にホームランを打たれたのは俺だ。お前のミスなんて何の言い訳にもならねぇ。打たれた俺が力不足だったってだけの話だ。お互い切り替えていこうぜ」

「うん、ゴメン。本当にゴメン……」

(こりゃ相当の重症やな……確かに流れを悪くした元凶ではあるけど、逆にあの時点までの良い流れを作ってたのもコイツや。せめて次の打順が回ってくるまでに立ち直ってもらわんと……)


 こっちに攻撃が移ってベンチに戻ってから、火織はずっと俯いたままで、ただ謝罪の言葉しか返さない。


「ま、心配要らないよ!何せこの回はボク達からなんだから!」

「そうですね。狭い球場ですし、こっちだって一発出て2点のロスの帳消しも十分狙えます」

天野(あまの)さん、松村(まつむら)さん。もし出てくれたらウチ、守備の分は絶対取り返しますんで」


 クリーンナップ組のやる気は十分。しかし……


(三波(みなみ)さんの攻略、火織さんに先を越されっぱなしですね。同じ左打者として負けてられない……!」

「アウト!」

「うわっ!?真正面……」


 松村はインコースへのカットボールを巧く捉えたが、セカンド真正面へのライナー。


「ボール!フォアボール!!」

「よーし!ボクだっていつも扇風機じゃないんだからね!」


 天野さんは最初の2球でボール先行したからか、向こうはおそらく一発警戒で無理をしない配球を図って、最終的に四球で出塁。


「ああッ!!?」

「アウト!アウト!スリーアウトチェンジ!!」


 リリィは強い打球を返せたが、くしくもショート真正面へのゴロ。併殺で攻撃終了。内容だけならさすがはクリーンナップと言えるが、結果だけなら最悪。

 3回裏まで先頭打者が出塁したり得点圏に進めたり、無得点ではあるものの良い流れは作れてた。だがこの4回裏は明らかに悪い流れに呑まれてるとしか思えねぇ。

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