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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第二話 よろしくお願いします(1/3)

 2018年2月。

 契約交渉を終わらせ、正式にバニーズへの入団が決まって、春季キャンプが始まった。

 バニーズの本拠地は大阪の天王寺。契約交渉も入団前の研修も貸出のタブレットを使ってオンライン会議で済ませたからまだ行ったことがないんだけど、大阪は若王子姫子(わかおうじひめこ)さんの出身地ということで少なくとも悪い印象はない。でも、いくら最近都会が暑くなってきたからと言って、流石にこの時期にプレーは難しい。


 周りを見渡せば、テレビで観たことのある人が大勢いる。あたし自身は元々どこか特定の球団を応援してたわけじゃなく、好きなスラッガー個人を応援するスタンスだけど、それでも一番贔屓にしてるのはビリオンズの若王子(わかおうじ)さんだから、自然とリプ(リーグ・プログレッサー)の試合を観ることが多かった。だから、バニーズの選手もある程度は知ってる。


「ほな続いて今年度からドラフト入団する6名に、順位の順番でそれぞれ自己紹介をしてもらおか。それぞれ名前と出身地、ポジションとか背番号とか、それから軽く一言二言自己PRでも交えてな」

「……フン」


 (やなぎ)監督に促され、眼鏡をかけた男子が気だるそうに口を開いた。


「……ドラフト1位の雨田司記(あまたしき)です。福岡出身です。ピッチャーで背番号は19。速球には自信があります。多分今年中にエースになります。よろしくお願いします」


(うわぁ……)


 一応丁寧語だけど、自己紹介はテンプレートを埋め合わせた程度。あたしと違って自信に溢れてるのは正直羨ましくは思うけど、こんなバリバリの体育会系の職場でよくやる。


「去年の高卒で一番の速球投手。確かスライダーも良いんだっけ?」

「まぁ、生意気な奴でも実力がありゃ歓迎だけどな」

「高卒1年目でどこまでやれるかねぇ……」


 色白で少しぽっちゃりな男の人が、軽く咳払いをして続いた。


「兵庫から参りました、ドラフト2位の冬島幸貴(ふゆしまこうき)です。ポジションは捕手で背番号は8を頂きました。プロとしてどれだけ通用するかはわかりませんが、キャッチングには自信があるつもりです。エースの百々(どど)さんを始め投手陣の皆さんに1日でも早く信頼して頂けるよう尽力いたします。よろしくお願いいたします」

「おお……!」


 さっきのがあったせいで、余計に模範解答が目立つ。確か大卒の人だっけ?やっぱり大学出てるとこういうとこが違うって思われるものなのかな。確か雨田くんも有名な進学校の出身だったはずだけど。雨田くん、見るからに頭良さそうな見た目してるし。


「キャッチングだけじゃなくスローイングとリードの評価も上々。去年の大卒ナンバーワン捕手、こりゃ真壁(まかべ)の立場も危ういかねぇ?」

(正直今年も真壁さんメインはやだなぁ……)

「ぬぬぬ……!」


 次の人も確か大卒。だけどどう見ても日本人じゃない。赤髪で薄緑の瞳、冬島さんより色白のお姉さん。


「ハロー!マイネームイズ、リリィ・オクスプリング!アイフロムイギリス!」

「え?外国人がドラフト入団したのか?」


 見た目通り、赤髪のお姉さんは英語で自己紹介を始めた。でも外国人の発音とは思えないくらい妙に聞き取りやすい。それに、イギリス人って自分の国のこと「イギリス」って言わないんじゃなかったっけ?


「ソー……」


 そして何故か後が続かない。


「ど、ドラフトナンバースリー!アイムスーパースラッガー、アンド、ナイスバディ!センキュー!」


 しーん……


 綺麗な人だとは思うけど、体型はスレンダー。下手するとあたしよりも身体の起伏がない。いや、それよりも……


「あの、ポジションと背番号は……?」

「お、オウソーリー!ソー……」


 またしても答えに詰まって、今度は隣の冬島さんに近づいて耳打ち。


(おい幸貴!内野手と背番号は英語で何て言うんや!?)

(オレも英語苦手やから知らんし……っていうか素直に日本語で話したらええやん……)


「あー……コイツはリリィ・オクスプリング。背番号54でポジションはファーストとサード。見ての通りのイギリス人やけど、日本育ちで大学も日本やから扱いは日本人選手になるから。んで、ずっと大阪暮らしやから英語は話せないんやったな?」


「ワ……ワッターシー、日本語シカワッカリーマセーン……」


 監督が助け舟を出してくれたけど、リリィさんは恥ずかしそうに顔を覆いながら最後の抵抗をしてみせた。


「あっしはドラ4の夏樹神楽(なつきかぐら)っす!埼玉出身っすけど中学からは東京の学校に通ってました!ポジションはピッチャーで背番号は27!あんまり球は速くないけど左で投げれるんで色々役に立てると思うっす!よろしくっす!」


 去年のドラフトでウチに入った高卒はあたしを含めて4人。夏樹さんはその中でも一番背が高い。と言っても飛び抜けて大きいわけじゃなく、あたし達がそんなに大きくないからだけど。喋り方は砕けてるけど、着物とか似合いそうな和風の綺麗な子って感じ。


「なかなか親しみやすそうな子じゃん」

「あの子、確か中学まではかなりの有名人じゃなかったか?」

「高校も一応西東京の名門校だけどな」


 同じ埼玉出身だから、あたしも夏樹さんの名前は聞いたことがあった。全国がどうとかってのには縁がなかったから、面識はないけど。


「わたしはドラフト5位の秋崎佳子(あきざきよしこ)って言います!東京出身ですが高校は神奈川でした!元々ピッチャーだったんですが、プロでは外野か内野をやることになりました!背番号は45です!あと、自己PR……すみません、自己PRって何ですか?」

「自分の長所とかそういうのをアピールするんや」

「ありがとうございます!脚と肩は高校までずっとチームで一番でした!バク転もできます!」


 ちょっと斜め上のアピールだけど、元気が良くて聞いてて心地良い。


「えっと……野手の経験はあんまりないので、バニーズの皆さん全員と仲良くなって、色々教えてもらえたら嬉しいなーって思ってます……えへへ」


(可愛い……)


 化粧っ気がなくても整った顔立ちだから、太眉も可愛らしく感じる。これで胸もやたら大きくてこんなこと言うんだから、一部の先輩選手がデレデレしてる。まぁあたしは可愛いから、こういう同性が鼻に付くなんてことはないんだけどね。あたしも元々はこんな感じだったらしいし。

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