第九十五話 語り継がせてやる(2/3)
7月17日。帝国代表の強化合宿初日。
「さて、次のニュースです。7月26日から開催の帝都オリンピック野球競技に向け、帝国代表がいよいよ始動。本日から強化合宿のため、代表入り選手が宮城県仙台市に集結します」
「はい、こちら合宿会場となっているオプティ証券パーク仙台です。こちらは普段はウッドペッカーズの本拠地となっていますが、今日からの練習と強化試合はこの球場で行われます……おおっと!ジェネラルズのスーパースター・神結内野手、ヴァルチャーズが誇る"球界最強打者"・友枝外野手、サラマンダーズのサウスポーエース・串尾投手……すでに多くのファンが集まっている中、球界を代表するスタープレイヤー達が続々と球場入りしています!」
「「「杏那くーん!」」」
「弓弦!外国の連中にもチェストかましたれ!」
「香菜ァ!リコの意地見せたれや!!」
「いずれも88年世代のプレイヤーですね。この世代は実力的にも超一流の選手が揃ってますが、年齢的に精神面でもチームの支えになってほしいですね」
「続けて球場に向かうのはバニーズのちょうち……月出里内野手。プロ3年目の若い選手ですが、現在リプの首位打者にして盗塁王!」
「ちょうちょ!全国3人のバニーズファンが総出で見守ってるからな!」
「うぉっ!?あの子めっちゃ可愛いじゃん!」
「お前ちょうちょは初めてか?(下半身の)力抜けよ」
「あー、バニーズの選手か。オールスターにもいたな。リプの選手なんてヴァルチャーズとかビリオンズ辺りしかわからんわ」
「不人気弱小球団にあんな可愛い子とかもったいねぇ……」
予想はしてたけど、やっぱりすごい数のファンとマスコミ。せっかく早めに来たのに、めんどくせぇ。
専門学校もあるから優輝を連れて来れなかったけど、それで正解だったね。勘繰られると余計にめんどくさいし。
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10時からのミーティング……の前に取材。
「よう、月出里」
「月出里さん、お疲れ様です」
「あ、うん……」
それも、猪戸くんプラス瀬長くんと一緒に。まぁやらんとしてることはわかる。普段と違って3人でお揃いのユニフォームを纏って、カメラが回るのを待つ。
「さて……今回集まっていただきましたのは、帝都オリンピック野球日本代表、猪戸内野手、瀬長投手、月出里内野手です!」
昔から思ってたんだけど、こういうのってやっぱり慣例的にリコの選手が先に紹介されるものなのかな?瀬長くんはともかく、猪戸くんを先に紹介されたので何となくムッときてしまう。
「帝国代表は24名と非常に狭き門!ですが猪戸選手と瀬長選手、月出里選手の3名は高校を卒業してまだプロ3年目!20歳という若さで日の丸を背負うことになった、球界きっての有望株です!」
まぁそういうことだよね。年功序列にうるさいこの国だからこそ、『若くして』とかそういうのは一種の宣伝材料になる。裏を返せば、普段は実力がどうとかっていうのは案外軽視されがちってことなんだろうけど。
「それでは猪戸選手から順に、全国のファンに向けて自己紹介と、今大会に向けての意気込みを一言ずつお願いします!」
「はい。ペンギンズの猪戸士道です。シーズンでは主に三塁手として出場し、長打力を特に評価していただいてます。今大会でおいに任せられる役割というものはまだわかりませんが、走攻守問わず与えられた役割を全うし、帝国代表の金メダル獲得に貢献したいと思います」
「ビリオンズの瀬長健次郎です。主にリリーフとして起用していただいております。セールスポイントは球速とクイックです。名だたるスターが集まる中、声をかけていただいたことを大変光栄に思っています。若い我んにできることは限られていると思いますが、最大限のパフォーマンスを発揮できればと思います」
猪戸くんは去年からあれだけ騒がれてきたんだからマスコミ対応ももうお手のものなんだろうけど、瀬長くんもなかなか。やっぱり地頭がいいんだろうなって。
「バニ……天王寺三条バニーズの月出里逢です。ポジションは大体サードかショートで、普段一番期待されてるのは出塁と盗塁、つまり1番打者としての役割ですね。今大会では同じチームの選手からも相手チームからも色々と学ばせてもらいつつ、勝利に貢献できるプレーを常に目指していきたいと思います」
(ほう……)
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「……はい!本日はありがとうございました!」
「「「ありがとうございました」」」
取材は思ったより早く終わって、少し一息。
「月出里さん。何か自己紹介の時にわざわざ三条財閥の名前まで出してましたね。あれにはどんな意図が?」
瀬長くんからの質問。まぁ当然の疑問。
「ああ、うん。樹神さんの話に倣ってね」
「樹神さんの……?」
「樹神さんがプロ何年目かの年俸交渉で年俸を10倍にした時の話。その時樹神さんは自分の成績の凄さを前面に出すんじゃなくて、"〇〇の樹神"みたいに、自分が活躍することで親会社の宣伝になったことをアピールしたんだって」
「……ああ、なるほど。参考になりましたよ。ありがとうございます」
これも宣伝の一環ってね。あたし自身はプロ野球選手たるもの年俸は100%実力で稼ぐべきだと思うからそういうのが狙いじゃないけど、すみちゃんにとってはプラスになるはず。
「それはともかく、月出里。せっかくやけん、競わんか?」
「何を?」
「言うまでもなか。『どちらがより帝国代表の金メダルに貢献できるか』たい」
「……まだあたし達、どんなふうに使われるかわからないよ?」
「やけん、合宿が始まる前に宣戦布告ばい」
「どう使われるか、優遇してもらえるかのアピールも込みってこと?」
「そん通り。臆したか?」
いつも通り腕を組んで、図体を生かしてあたしを見下ろしながら。
「ハッ……上等だよ」
そういうところ嫌いじゃねぇよ、歌舞伎野郎。
口先だけの宣伝なんてあれくらいささやかなものだけでいいよね?こうやって個人的に張り合うことで結果的にきちんと活躍できれば、その方が良い宣伝になるよね?
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