第九十四話 積み重ねることの重み(1/5)
******視点:妃房蜜溜******
6月19日。今日から帝都ドームでジェネラルズと3連戦。
去年2位だったウチ……シャークスは今年もそこそこやれてて、ずっと2位と3位の間をウロウロしてる感じ。天竺さんのメジャー挑戦という明らかな戦力マイナスはあっても、その穴を矛崎さんが埋め合わせたり、深海さんが復調したりで、全体的には去年より明確に悪くはなってない。
でも、良くなってるわけでもない。
リコの球団所属の選手であるアタシがこんなことを言うのは何だけど、今年のリコはぶっちゃけジェネラルズの独走態勢。開幕4連勝で滑り出して、途中ほんの一瞬ペンギンズに抜かれたけど、それ以外はずっと首位。今もなお他のチームとゲーム差を開いてる状況。
ウチとパンサーズが貯金プラマイ0くらいで2位を争ってる中で、ジェネラルズは20近い貯金を抱えてる。それくらい明確な差を付けられてる。
「9回の裏、ジェネラルズの攻撃。8番セカンド、九十九。背番号99」
「九十九!爪痕は残せ!!」
「ウチがこんな屈辱を味わうわけにはいかん!」
「猪戸と月出里追い抜かせ!」
(言われずとも……!)
九十九くん……確か月出里逢や猪戸くんと同い年だったっけ?
今年は開幕スタメンを勝ち取って、セカンドで出続けてる。流石にあの2人ほど飛び抜けてはいないけど、それでも野手でここまで早く出てこれたのは大したもの。ウチの観星とか麗文なんかはまだまだ下で燻ってるのにね。
"金満球団"だのとよく言われるジェネラルズだけど、一応こうやって生え抜きの選手だってきちんと育てられてるから、昔から勝ちまくれてて、今もトップに君臨してるんだろうね。
「!!?」
「ストライーク!」
「初球まっすぐ!157km/h!!」
「もうほんと勘弁してくれよ……」
「何で最終回でこんなスピード出るねん……」
「ウチなんかリリーフでもここまで出せるのほとんどいないぞ……」
(化け物め……!)
まぁ相手がリコの王者だろうが宇宙の王者だろうが、やることは変わらない。
「ストライク!バッターアウト!!」
「空振り!最後はスライダー!!これで今日12個目!!!」
「あと2人なんだ!(*^○^*)」
「まだまだ巻き返せるんだ!(*^○^*)」
「ここから首位奪還なんだ!(*^○^*)」
アタシがどれだけのことをしようと、アタシはいち先発投手。
高校野球とかだと特定のエースが勝敗の絶対的なファクターみたいなところがあるけど、100試合以上あるペナントレースだとチームの勝利への貢献度は統計が示す通り、先発投手1人よりも野手レギュラー1人の方が高くなりがち。一応WARってやつだとアタシが今のところチームで今年一番みたいだけど、特別飛び抜けてるわけでもない。今日このまま勝てたところで、たかが1勝。今のゲーム差を埋め合わせるには拙い。
それでもそうやってファンの人達がアタシの投球で前向きになってくれるのは嬉しい。
シャークスは通算で12球団のどこよりも多く負けてて、優勝も帝国一もバニーズの次に遠ざかってる球団。そんな球団を前向きに応援する姿勢は他の球団の人達に馬鹿にされることも珍しくないけど、アタシはそういうのは嫌いじゃない。
「ストライク!バッターアウト!!ゲームセット!!!」
「三振ッ!妃房蜜溜、ノーヒットノーラン達成!!これでプロ入り1年目から4年連続の達成となります!!!」
「いやぁ、お手上げですね。最後まで打てる球がなかったですよ。しかし日本のいちファンとしては、今度のオリンピックが楽しみですよ」
「「「「「クイーン!クイーン!クイーン!クイーン!(*^○^*)」」」」」
「これが帝国代表のエースなんだ!(*^○^*)」
「シャークスのエースが日の丸を背負うんだ!(*^○^*)」
弱かろうと、勝ちたいと願う。生きたいと願う。それが生物のあるべき姿。
確かに今年はジェネラルズがこのまま勝つかもしれない。そうなって、今日のアタシの投球も数字の上では無意味なものになるかもしれない。それでもアタシがこうやって勝ち続ければ、いつか歯車が噛み合った時に意味のある数字になる。
今でもアタシはあくまで良い打者との勝負が最優先。そういう意味だと、交流戦がない今年は月出里逢と勝負する機会がオールスターくらいしかなさそうで気分が上がらないけど、リコにだって猪戸くんとか面白い子はいる。
それに、負けっぱなしのとこにいながら勝ちをひけらかしても虚しいだけだからね。去年チームの人達を"ピエロ"扱いした以上、同じように成り下がるわけにはいかないし、いつか綾瀬さんがここに戻った時に恩を返せるようにするためにも、片手間程度でもチームの勝ちの助けにはなるつもり。
……!?
「ッ……!」
「?どうした、妃房?」
「いえ……」
一瞬、左肘の方に変な感覚。痛く……はない。何だろ……?
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