第十一話 今のあたしもまた、あの人のシナリオ通りであってほしい(5/8)
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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******視点:旋頭真希******
「奇しくもやってきましたね。エースとしての真価が問われる場面が」
「楽しみかの?百々(どど)よ」
「張り合いがある方が面白いじゃないですか」
(私に対抗できるのは今のところ水面さんだけだからねぇ)
柳監督と百々がかぶりつきで眺めてる。確かに、選手の値踏みをするのには都合の良い場面よね。
ツーアウト一塁。普通なら守備側がさほど気にするような状況ではない。普通は、ね。
「4番レフト金剛。背番号55」
「うおおおおお!!!」
「金剛!金剛!」
沸き出す歓声をくぐり、バニーズの最強打者が打席へと向かう。
「タイム!」
が、冬島の一言で足止め。当然だわ。完璧な試合運びが思わぬ形で崩れ、しかも金剛と勝負せざるを得ないという状況。無理矢理にでも一呼吸置かせるべきね。
「篤斗、やれるか?」
「ああ、俺は問題ない」
「……ツーアウトやし、二塁は捨てるで。3点あるんやし、最悪の場合、1点は諦めるくらいでおればええ。走られても刺せんことはないけど、ランナー警戒しすぎてカウント悪くして塁が埋まる方がアカン。バッター歩かすことになっても、走られようが走られまいが一二塁以上の状況には絶対になるんやしな」
「だからバッターに全集中、か。確かに後続の5・6番には長打があるしな。よし、それでいこう」
第一打席で証明したように、今の氷室なら冷静に対応すれば金剛にだって対抗できる。
問題はその冷静さを取り戻せるか……
「プレイ!」
「!!?」
「ボール!」
「上手い!……けど、明らかに動揺してますね。スピードはあるけど、球がうわずってる……」
思いっきり高めに浮いた球だったけど、とっさに冬島が跳んで捕球。おかげで暴投は免れた。
ここまでのパーフェクトピッチングの間にも、多少の浮いた球や逆球はあったけど、ここまであからさまな荒れ球はなかった。フォーム改良の後の実戦不足と、今日初めてのランナーありの状況での投球、そして何より一番信頼してるバックのミス。リリースポイントの乱れによるコントロールミスが生じるのは半ば必然。
(落ち着け篤斗!低め低め!)
冬島もジェスチャでうわずりを抑えるように促してるけど、果たしてどこまで効き目があるか。
(わかってるよ幸貴。打たせやしねぇよ。ここで打たれたら、俺自身だけじゃなく、火織の努力まで否定されることになる)
「ランナー走ったぞ!」
「ストライーク!」
「セーフ!」
(完全スルー……最初から二塁は諦めてたか)
バッターアウト優先は意図してのもののはず。だけど……
(この状況で低めへの制球を修正するとは大したものだ。嚆矢園優勝投手の経験値がなせる技といったところか。入団以来ずっと百々(どど)が期待してたのも、今なら納得できる。おれも認めざるを得んな。お前は"良い投手"だ……が、"エース"にはまだ程遠い)
「タイム!」
一旦打席を外して、数回の素振り。打つビジョンが浮かんだんでしょうね。
(さっきまでと比べて、低めのまっすぐにキレがない。うわずる球を無理矢理抑えつけているようなもの。これができるだけでも雨田よりはずっとマシではあるが、まだまだ青い。これなら低めは絞らずとも対応できる。浮いた甘い球を確実に仕留める!)
(速球が浮いてまう以上、ツーシームでの勝負は危険すぎる。どうにかスプリッター勝負に持ち込むしかない……!)
「ボール!」
「ファール!」
「うおおおッ!?152km/h!!?」
「すげぇ!ここまで出せるのか!!?」
この土壇場で今日の最速、そして自己最速タイ。貴方のその胆力、大したものだわ。
(ちぃっ、やはりまだ高めには力があるな……!)
(ええでええで!ここで最高のまっすぐがきた!これでツーツーはデカいで!!)
(当然だ!エースがあの程度のミスをカバーしてやれなくてどうすんだ!!)
(その意気や篤斗!最高の一球で頼むで!!)
(おう!)
ここで投じるとすれば、やはりウイニングショット。
(!!!???しまった……!)
だけど投じられた半速球はまるで落ちることなく、右翼方向への大飛球へと転じて……
「入ったァァァァァァァッッッ!!!!!」
「実質先制のツーラン!」
「これぞ主砲・金剛!!」
(((((((((((((そんな……!!!)))))))))))))
失投すれば常に打たれるわけじゃない。だけど最悪のタイミングで出てしまった。
どの球種も失投は命取りになるものだけど、フォーク系はとりわけリスクが大きい。打てる球に見せかけて振らせるのを前提にしてるからこそ、想定通りに落ちなければ致命傷になりやすい。ツーシームスプリッターは普通のフォークよりはスピードがある分ごまかしが多少きくけど、よりによって相手が金剛。
一応、記録上では氷室の自責点は0。これまでの投球内容を考えれば、総じて悪く評価されることはない。でも、だからこそ……
「あーあ、せっかく氷室くんパーフェクトだったのに……」
「セカンドのクソアマ使えねー……」
「そのくせいっつも篤斗くんにベタベタしてるし、マジ目障りだわあのブス」
「ヤニくせーんだよクソビ■チ!さっさと消えろよ!!」
氷室のファンからと思われる、同じ女として聞くに耐えないレベルの罵声。だけど徳田は睨み返すこともなくただ俯いてる。当然表情は暗いけど、責任を痛感してるからこそ、むしろ望んで受け容れている節すらある。
((((ざまぁwwwwwwwwww))))
そんな徳田を、あの財前達4人組は身を乗り出してまでも眺めて嘲笑ってる。徳田に責任があるのは当然だし、財前達と徳田がどういう関係かは氷室達から聞いてたけど、醜いものね。