第九十一話 意味のない振れ幅(4/9)
2回の表も味方は点を取れず。
「ショート捕って……」
「アウト!」
「これでツーアウト!」
こっちもシュートが良い具合に決まって芯を外せてる。
「良いぞ良いぞ!左攻めがナンボのもんじゃい!」
「4番5番を連続ゴロ!」
「ここまで実質ノーヒットだな」
まぁ一巡目やしな。
こうなってくると左ばっかなんは却ってありがたい。『もうぶつけへん』っていうのをアピールする意味でも。
「6番ファースト、天野。背番号32」
「打席には一軍に復帰してきた天野。過去2年間チームの長打力を補い、ファーストの守備でも貢献。頼れる長距離砲が帰ってきました」
「もう復帰したのか!」
「はやい!」
「きた!盾きた!」
「メイン盾 (※ちょうちょの送球捕れるファースト)きた!」
「これで勝つる!(3連敗脱出)」
「ホームランホームランチッヒ!」
「うーんでも外スラPやしなぁ」
「でも逆方向にも一発あるで?」
(甘く入ると怖いですが、外低めにスライダーを集めればまず大丈夫です。ツーアウトランナーなしですし、落ち着いていきましょう)
まぁ右やからって絶対ぶつけるわけやないしな。外に集めるなら尚更……!?
「わわっ!!!」
「ヒット・バイ・ピッチ!」
「ああっと!当たってしまいました!!」
「肘の少し上……エルボーガードのとこですね。かすったくらいなので多分大丈夫ですね」
スライダーがすっぽ抜けてもうた……
「おいィ!?チッヒ帰ってきたばっかりなんやぞ!!?」
「メイン盾のいないPTに未来はにい」
「まーたアイツぶつけてるよ……」
「二軍やと危険球の常習犯やったんやろ?」
「ビリオンズのピッチャーこんなんばっかやな」
(西園寺さん……)
今のはわざとやない……ってのはそれなりにやってる奴にはわかること。現にぶつけた天野さんは一塁に上で気にしないようにって感じのジェスチャ。
けどまぁ、これがウチが積み重ねてきたことの結果なんやな。あん時ウチ自身が言った通り、『結果』が『過程』を作り続けて出来上がったイメージ。
「7番ライト、松村。背番号4」
……やけど!
「打って、詰まった打球……」
「セカンド!」
「アウト!」
「アウト!スリーアウト!!」
「良いぞ良いぞ!よく切り替えた!!」
「気にせず抑えてけ!」
意地のスライダーの投げ直し。
望む『過程』を生み出す『結果』はこれからでも積み重ねることができる。ウチはもうウチ自身を納得させられへん選択はせぇへん。そう決めたことでウチはここまで来れたんやから、もっと先まで進めるはずなんやから。
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「3回の表、ビリオンズの攻撃。8番キャッチャー、西科。背番号37」
「育成出身のキャッチャーらしいけど、打つ方どうなんやろ?」
「流石にヴァルチャーズの久保ほどやないやろ」
「若王子妹が正捕手やからなぁ」
ぶっちゃけ京介のバッティングはそこまで期待できん。この2年間体重も付けて、二軍ならまぁまぁ打つようになったってレベル。支配下を勝ち取れたのは主にキャッチャーとしての能力、特にスローイングを評価されてのこと。
まぁ実際、打つのと走るの以外なら多分、撫子よりもできるとは思う。でもやっぱり『キャッチャーがクリーンナップレベルで打てる』っていうのは相当デカいアドバンテージやからな。キャッチャーの功績っていうのは盗塁阻止率以外は相当見えにくいもんやけど、バッティングの結果っていうのは誰が見ても明らかなんやし。
「スライダー、当てただけ……」
「アウト!」
「うーんこの」
「しゃーない。撫子に慣れてるけどキャッチャーなんてこんなもんよ」
「これから先、キャッチャーにもDH出る時代になったりするんかねぇ?」
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「ストライク!バッターアウト!!」
「あっちゃあ……」
「これは仕方ないだろ。あそこのスクリューは打てんわ」
京介が凡退した後、招福さんのヒットと盗塁、万梨阿の内野安打で一三塁のチャンスやったけど、六車さんと撫子は凡退。
「悪い……」
(くそッ、感覚が全然合わへん……バットも何か重いし……)
「気にすんな。こういう時もあるわ」
珍しく悪ふざけする様子もなく、本当に申し訳なさそうにベンチに引っ込む撫子。
最初の打席は一応打ってたけど、やっぱ今年の撫子はイマイチ調子が良うないな……まぁ無理も無い。
去年はキャッチャーでありながら首位打者でOPSリーグ1位という無双ぶりやったけど、当然負担も他の奴らの比やなかったはず。ましてや背丈は月出里と同じかそれ以下くらい。今でも疲労が尾を引いててもおかしないわな。
「3回の裏、バニーズの攻撃。8番サード、相模。背番号69」
相模か……コイツは高校の頃にも打たれた記憶があるな。
(外シュート……狙い通り!)
「ピッチャーの頭上……越えましたセンター前!スタメン起用に早速応えました!!」
「ナイスアヘ単!」
「畔たーん!」
狙われてたっぽいな……それでも一巡目はいけると思ってたんやけど……
「9番キャッチャー、有川。背番号0」
「天野と共にこの選手も帰ってきました。左打席にはプロ5年目の有川。メインはキャッチャーですが投手以外ならどこでもこなせる、頼れるユーティリティプレーヤーです」
「有川ァ!いつもの頼むで!!」
「キッチリ繋げ!」
(あのクイックであのキャッチャーの肩……タダで二塁はもらえないよね)
最初からバントの構え。当然っちゃ当然。
「転がしました!ピッチャー捕って二塁は見るだけ!」
「アウト!」
「一塁アウト!送りバント成功!!」
「ナイメイナイメイ!」
やっぱ上手いわ。あわよくばゲッツーにしたろ思ってたのに……
「1番センター、赤猫。背番号53」
まぁええ。後続を抑えれば良いだけの話……!
「ストライク!バッターアウト!」
(フォーク……!)
変化球はスライダーとシュートだけやなんて言った覚えはないで?
「2番セカンド、徳田。背番号36」
(あれくらいのフォークなら意識してなくてもバットは止まる。問題はやっぱり外に逃げるシュート)
「ボール!」
「ストライーク!」
「ファール!」
当ててきたか。ならもっと球威を……!?
(いける!)
「引っ張って……」
「アウト!!!」
「ああっ、セカンド真っ正面……!」
「くぅ……ッ!」
腕振りすぎてシュートが内に入ってもうた……横振りに近いと高低の投げミスは減らせるけどこういう逆球が怖いわな……
(それでもミスショットしてくれたのなら十分です!)
「これでスリーアウトチェンジ!バニーズ、相模が出塁し得点圏まで進みましたが先制ならず!3回の裏攻撃終了、0-0、序盤は両チーム無得点です!」
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