第八十九話 王者であれ(1/9)
******視点:月出里逢******
4月17日。今日からヴァルチャーズとのカード。
「1回の表、ヴァルチャーズの攻撃。1番ライト、■■。背番号■■」
今年のあたしは大体サードだけど、今日みたいに週に2回ほどショートでスタメンの日もある。相沢さんがやっぱり去年の病気の影響が残ってるってことで、休養日を埋め合わせる形。
まぁショートもサードも慣れ親しんだポジション。セカンドと比べたらそんなに苦でもない。
「打って三遊間、深いとこ……ショート捕った!」
早速本領発揮……!?やば、ちょっと指が引っかかった……
「ファースト捕って……」
「アウト!」
「間に合いましたワンナウト!」
全力のスローイングがショートバウンドしちゃったけど、今日ファーストに入ってる松村さんが上手いこと拾ってくれた。
「いきなり危なっかしいなぁ……」
「いやでもちょうちょの肩やないと今のはどのみち際どかったやろ……」
「ポジションコロコロしてるんやしな。しゃーない」
「ナイスキャッチ松村!」
(同じ左打ち外野手の十握さんが現状チームの最強打者で、金剛さんも健在。現状バッティングで勝てない以上は、チームの埋め合わせでアピール。同じくチームの軸となってる月出里さんのスローイングを補う。ドラ1がどうとか、そんなつまらないことを言えるような立場じゃないですからね、今の私は)
ホームランがどうこうだけじゃなく、スローイングももうちょっと安定させていかないとなぁ。
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「1回の裏、バニーズの攻撃。1番ショート、月出里。背番号25」
「追いかけますバニーズ。今日も1番は打撃好調、月出里。開幕から12試合連続安打をマークしております。そして今日のヴァルチャーズの先発は昨シーズン最多奪三振の真木」
いきなり1点取られて、相手はエース。
「ボール!」
「1球目外れました!しかし156km/h!」
「はっや……」
「先発で許されるスピードちゃうやろ……」
「平均なら出力、妃房並ちゃうか?」
元々フォークPで有名だったけど、去年から劇的にスピードが上がってますますレベルアップした真木さん。今やリプのトップエースの1人。
「ボール!フォアボール!」
「選びましたフォアボール!」
(ん〜、いやらしいねぇ〜……)
(お菊の場合は力押しできてくれた方が御しやすいんだがな……)
「ナイセンナイセン!」
「こういうのでいいんだよこういうので」
「でも連続安打が……」
ぶっちゃけアウトにならなきゃ何でもいい。連続安打とか、そういう記録にはこだわる気はない。
「2番セカンド、徳田。背番号36」
(とりあえず追いついておきたいね……)
ベンチからのサイン。盗塁をご所望のようで。でも、ここでかぁ……
「一塁ランナースタート!」
「ボール!」
一応癖は盗んだけど、高めウエスト……!
「アウト!」
「あー、盗塁失敗!ワンナウト!」
「ええぞマサ!」
「去年の盗塁王がナンボのもんじゃい!」
やっぱり指示されて盗むっていうのは難しい。盗塁はおまけ程度の感覚でやりたいんだけど、こういう立場なんだから言い訳にならないよね……
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「アウト!スリーアウトチェンジ!」
「これでスリーアウト!しかしバニーズ、初回から逆転に成功!1回の裏攻撃終了2-1、バニーズのリードです!」
「うーん、ちょうちょの盗塁は裏目やったなぁ」
「まぁ結果論や」
「今日の真木の感じならいけるやろ」
立ち上がりの真木さん、スピードは出てたけど制球が乱れてて、押し出しなんかもあって案外簡単に逆転。
ウチもそうだけど、ヴァルチャーズも今年スタートダッシュがあまり良くない。この調子でいけるかな?
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