表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
545/1151

第八十五話 罪なき卑怯者(3/9)

******視点:リリィ・オクスプリング******


「6番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


 両先発の好投で、7回に入ってもお互い追加点が入らず。


「レフト大きい!」


「「「おおおおお!!!」」」

「行け!行け!」

「入れ!入れ!」


「アウト!」


「「「「「ああ〜〜……」」」」」


「レフト、フェンス際で捕りました!スリーアウトチェンジ!!」


「くそッ……!」


 ウッドペッカーズ戦に強い幸貴(こうき)でも、流石にそう都合良く赤坂(あかさか)さんから何本も打てるわけでもなく。


(……これはお前とは関係あらへんからな!)


 幸貴がベンチに戻る前に振り返って視線を送ったのはマウンドの方でもレフトの方でもなくセンターの方。

 ……ほんま、何を恨んどるんや?


「リリィさん」

「ん?」


 7回終了時のグラウンド整備中。珍しく月出里(すだち)が話しかけてきた。


「リリィさんって、大学野球の頃から冬島さんと知り合いなんですよね?」

「せやで。大学は別やけど(おんな)じリーグにおったからな。対戦したことも代表で一緒にプレーしたこともあるで」

「……もしかして、向こうのチームのイケメンワカメさんもですか?」


 ほう……


「察しがええな、その通りや」

「去年から気になってたんですけど、何かえらく因縁があるみたいですね」

「……みたいやな。小・中の時にチームメイトやったってのは聞いたことあるけど、それ以外のことは聞いてへんな」

「そうですか。さっきもえらく熱い視線を送ってましたけどね」

「やな。まぁ幸貴にそっち系の趣味はないはずやけどなwww」




「え!?ないんですか……!!?」

佳子(よしこ)ちゃん!?」

「何でそんなショック受けてんねん……」


 急に話に入り込んできた秋崎(あきざき)。何でこういう話題でだけおかしなことになるんやろうなコイツ。

 ……ま、そういうのは冗談として、よっぽどのことがあったのは間違いないやろうな。基本社交的な幸貴が、(アイツ)とだけは頑なに話をせぇへんし。

 客観的に見たら、別に悪いことでもないんやろうけどな。結果として"キツツキキラー"としてチームにも貢献してるんやし、そもそもプロの世界は仲良しこよしのそれやないんやし。


 せやけど……


 ・

 ・

 ・


 大学の頃。リーグでの活躍を見込まれて、とある国際大会の帝国代表に選出された時のこと。


「おい、嫌な奴が飯喰ってるぞ」

「あーあ、何で"外人"が帝国代表に選ばれてんだか……」

「これも『在日特権』ってやつなのかねぇ……」

「旅費とかタダやないのに、税金の無駄やろ」

「綺麗な綺麗な白人様だと、偉い人に媚売るのも楽で良いわよねぇ」


「…………」


 雑音の中で、独り箸を進めてた。

 ウチとしてもプロに入るためのアピールとして国際大会に出たかったけど、台湾とか韓国とかあの辺と(ちご)て、ウチの生まれのイギリスじゃ野球なんてドマイナーな競技やからな。出るとするなら、必然的にこういう肩身の狭い思いをせざるを得んかった。どのみち義務教育も100パー日本で履修したウチにとっちゃ、生まれの国がどこであろうが他に選択肢なんてなかったんやけどな。

 まぁそれだけ長年"外人"やってると、こういう陰口なんて別に初めてでもなかった。ぶっちゃけウチのお(とん)、結構稼いでて下手なご家庭よりよっぽど日本に金落としとるし、ウチやっていずれは帰化するつもりなんやけど、そんなこと言い返してもこじれるだけ。プレーだけさせてもらえたらええってことで聞き流してたんやけど……


「おい」

「冬島……?」

「お前ら何でリリィに文句言っとんねん?文句あるんなら選んだ偉いさんに言えや」


「……!?」


 ウチへの非難で盛り上がってたテーブルに冷や水をかけたのは幸貴やった。


「『お国のために戦う』ってお題目を掲げるんなら、同じチームの人間の士気下げるんはそれに適っとるんか?」

「チッ……」

(外人女にアピールのつもりかよ、ウゼェ)

(これやからブサイクな童貞くんは……)

((かみ)大程度の奴がインテリ気取りやがって)

(ドラフト上位候補だからって調子こいてんじゃねぇぞ)


「ようリリィ、隣ええか?」

「あ、うん……」


 ウチの隣にトレーを置いて、何事もなかったようにいつもの調子。


「リーグの三冠王様が随分と慎ましいやん」

「こういう立場やからな。やからあんなことせんで良かったのに……」

「迷惑やったか?」

「まぁ、そんなことはあらへんけど……」

「なら気にすんな。オレが気に喰わんかったってだけの話や」

「え……?」

「……別にお前、生まれる前に自分の意思で"外人"になったわけやないやろ?生まれつきそう決まってたことやろ?」

「そらそうやけど……」

「オレはああいう"生まれてすぐ出た答えにばっかりしがみついてるアホ"は大嫌いなんや」

「……!」

「お前はただ実力で選ばれたんや。それでええやんか。誰も文句言えるわけないやん」

「…………」

「ぶっちゃけオレもどっちかと言えば右寄りの方やし、思うところが全くないとは言わへん。けど、生まれてから必死こいて身に付けた実力で決まったんやからしゃーないやん。逆に生まれた時点で何もかも答えが決まってる世の中なんてクソ喰らえとしか思えへんやん。せやろ、リリィ?」


 ・

 ・

 ・


 お前ほどの男が何をそないにこだわっとんねん、アホ。


「お前はそんな小さい男と(ちゃ)うやろ?」

「「……え?」」

「あ……いや……」


 つい口に出てもうた。ウチもこんなキャラ、ウチらしくないわな。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ