第八十五話 罪なき卑怯者(2/9)
間違って主人公ちゃんをショートとして描写してしまってたので、ちょっと修正してます。すみません。
百々(どど)さんも赤坂さんも中盤に入ってからエンジンがかかってきて、序盤以上に点が動く気配がない状況。
「9番センター、乾。背番号8」
「5回の表、ツーアウトランナーなし。打席には乾。第一打席はセカンドゴロ。守備では早速持ち味を活かし、今シーズン早速捕殺を記録しております」
「サクッと終わらせたれ!」
「"守備の人"なんて恐るるに足らんわ!」
まぁ実際、あのイケメンワカメさんは打順が示すように、打つ方はそこまででもない。過去2年の打率は確か2割ちょっとくらい。ウッドペッカーズは特別打線が強力ってわけでも無いけど、上位打線は選球眼が良くて長打も狙える人がしっかり揃ってるから、その辺と比べたらね。
(だ・れ・が……"守備の人"や!?)
(届かない……!)
「セカンド抜けた、ライト前!ツーアウトから出塁しました!!」
とは言え、やっぱりパンチ力はある。火織さんの守備範囲を打球の速さで強引に突破してきた。
「「「キャアアアアア!!!」」」
「両刃くん、今年初ヒットおめでとう!」
「両刃くんは"打撃と守備の人"よ!」
(あらら、チェンジアップ読まれてたっぽいわね……)
(オレのお株をよくも……!)
「1番ショート、繁竹。背番号5」
同点でツーアウト一塁、打順は1番でランナーは俊足。となると当然……
「一塁牽制!」
「セーフ!」
「両刃くん!走る方も頑張って!!」
「向こうのいけ好かないちょうちょにだってできたんだから!」
「両刃くんは"走攻守の人"よ!」
(二塁狙ってくるわよね、当然)
(百々さんは器用な人や。メインのピッチングもエース級やけど、フィールディングもGG賞経験者、牽制とクイックもお手のもん。『盗塁は捕手ではなく投手の責任』ってとある球界OBが言っとったし、実際、全部が全部キャッチャーのせいにするのは間違っとるけど、ここに関しちゃ責任転嫁はできんし、するつもりもない)
バッテリーは落ち着いてる。地味に盗塁はカバーする二遊間にも責任が生じるものだから、さらにそれをカバーするあたしも抜かれない。
「一塁ランナースタート!」
「ストライーク!」
(ピッチャーに責任転嫁したら、逆に手柄をオレのものにできひんからな……!)
ストライク送球。冬島さんのスローイングはいつも安定してるけど、これは何だかいつもより気合いのようなものを感じる。
「アウトオオオオオ!!!」
「アウト!盗塁失敗!」
(くそッ……!)
「それでこそや正捕手!」
「お前こそが"喪男の星"や!」
タッチされて悔しそうに起き上がって、ベンチへ引き上げていくイケメンワカメさん。うーん、惜しい。もうちょっと幼い感じだったらあたしの好みなんだけどね。
「スリーアウトチェンジ!」
「ッしゃあああああッ!!!」
「はわっ!?」
ひっくりした。急に冬島さんが雄叫び。ピッチャーが要所を切り抜けて吠えるのはプロでもアマでもよく見る光景だけど、キャッチャーがってのは珍しい。ましてやいつも冷静な冬島さんが……
いや、でもそう言えば去年もウッドペッカーズ戦だとこんな感じだったっけ?
「おお、気合い入っとるな冬島」
「ホームで開幕戦やからな。今年は最下位脱出のためにも全員このくらいの気持ちでやってほしいわ」
「それを自ら率先してやるとはさすが正捕手」
「良いぞ良いぞー!」
「その調子で勝ち越しも頼むで!!」
(やってやったわ……!ざまぁみろクソワカメ……!!)
冬島さんの熱さに、観客席の人達の反応は好意的。でも何となく、そういうのじゃないような気がするんだよね。
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「……アウト!スリーアウトチェンジ!」
「乾捕ってスリーアウト!5回の裏バニーズ、この回も3者凡退!1-1、同点のまま後半戦に突入です!」
ネクストにいたけど、直前の赤猫さんで攻撃終了。グラウンド整備があるから、そのままベンチに戻って小休止。
「お疲れ、月出里ちゃん」
「あ、お疲れ様です」
ベンチで水を一口含んでる時に声をかけてきたのは冬島さん。
「お互い、初戦で初ヒット出て良かったな」
「そうですね。幸先良いです」
「去年と比べて何というか……打つバリエーションが増えた感じするけど、オフにどんな練習したんや?」
「うーん、雇ったバッピに付き合ってもらってひたすら打ち込んでました」
「あのピンクのイケメンくんか?」
「はい」
「今日来てるファンの兄ちゃん達にはよう言えんな」
「確かに」
優輝の存在はまだしも、『雇ったバッピと付き合うようになった』とはとても言えないよね。
「まぁオレは気軽なもんや。昨日カノジョと別れたばっかやからな」
「そうなんですか?」
「まぁ酷い奴やったで。見境なく男を見下すような……」
「すみません。あたしそういうのまだよくわからなくて」
「そうなんか。すまんな」
嘘だけどね。試合中に関係ない雑談を下手に伸ばしたくないから適当に。
「開幕戦、今年こそ勝ちましょうね」
「おう。頼りにしてるで」
******視点:冬島幸貴******
うーん、やっぱ素っ気ないなぁ。まぁ試合中やからそこまでしつこく話す気は無いけど。
にしてもほんま別嬪やな、月出里ちゃん。自己申告に違わず。あんまり出るとこは出てへんけど、顔立ちは女優とかアイドルとか言うても誰もが信じるレベル。スタイル良くて肌もえらい綺麗やし、生まれつきの良さだけに頼らず普段から相当美容に気ぃ遣うとるのがようわかる。そしてこの見た目なのに天野さんすら子供扱いできるほどの身体能力、それに野球のセンスも……
もし『種を残す異性』として最終目標を今まで会うた中で設定するのなら、間違いなく月出里ちゃんやな。この子以上の女なんてなかなか想像付かん。そら性格とかその辺も込みで考えたら大体の男は秋崎ちゃん辺りに惹かれるもんやろうけど、『種を残す』という点だけに絞ればその辺はぶっちゃけどうでもええからな。はっきり言って遥が霞んで見えるほど上等な女。
せやから正直、フリーっていうのは嘘臭い。これだけの女を世の男が今まで指を咥えて黙って見てるだけやったなんて到底思えん。月出里ちゃんがそういうのをよっぽどめんどくさがってるって可能性もなきにしもあらずやけど……
……まぁもちろん、あまりにも高望みなのはわかっとるし、少なくとも今のオレにそこまでの価値があるとも思えん。
ただそれでも、叶う叶わんは関係なく、目標は高いほど良い。身近にいるのなら尚更良い。高いからその分必死になれる。オレはそうやってここまで来れたんやからな。
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