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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
543/1151

第八十五話 罪なき卑怯者(1/9)

******視点:月出里逢(すだちあい)******


「3回の裏、バニーズの攻撃。9番センター、赤猫(あかねこ)。背番号53」

「1-1、同点で3回のバニーズの攻撃に入ります。この回の先頭打者は赤猫。今シーズンも開幕スタメンに名を連ねました」


 開幕戦はほとんどの場合、好投手同士の投げ合い。


「ライト落下点……」

「アウト!」


 だから当然、そう簡単に点は動かないもの。


「意外と赤坂(あかさか)相手に三振はしてへんねやけどなぁ」

「そら仕掛けるのが早いんやし」

「まぁロースコアになるやろうし、早打ちでも何でも点取ってくれたらええわ」


 ヘルメットとバッティンググローブを整えつつ、ネクストから打席に向かう。


「1番サード、月出里(すだち)。背番号25」


「「「ちょうちょ!ちょうちょ!」」」

「次こそ1本頼むで!」

「あ^〜今年もかわええんじゃ^〜」


「打順は二巡目に入ります。打席にはプロ3年目の月出里。昨シーズンは史上最年少盗塁王に輝き、オープン戦でも打撃好調。今シーズンは初めて1番として開幕スタメンに抜擢されました!」

「ファンも賑わってますねぇ。背番号も若くしてもらって、期待されてる証明ですね」


 鹿籠(こごもり)さんにまた負けたのだけは心残りだけど、それを除けば満足のいく形でシーズンに入れた。結果を残し続けていれば、またやり返す機会もあるはず。


「ボール!」

「スライダー、見送ってボール!」

(一応さっきは去年みたいに『網』に引っかかってくれたが……)

(そういう可愛げのあるちょうちょなら良いんだけどな)


 外スラ、そしてキャッチャーの返球の間にセカンドとファーストが一塁寄りから定位置に戻ってる。やっぱり去年と同じやり口。

 赤坂さんとは去年も対戦したけど、確かに良いスライダーを投げる。変化を1球1球微妙に変えてくるから、修正がなかなかできなくて当てるのだけで一苦労。そのせいで前までの打ち方に無意識に頼っちゃって、最初の打席は外スラを素直に流してセカンドゴロ。


「「!!?」

「……!ライト線……」

「ファール!」

「切れましたファール!」


 ま、とは言っても本質的には同じ変化球だからね。呼吸や拍子に違いがなければ、必然的に打つタイミングも変わらない。そこまでは事前に修正可能。


「惜しい……!」

「ええぞちょうちょ!」

「スライダー合っとるで!」


(右対右、左対左の外スラをホイホイ当てられるってだけでも相当なバットコントロールだってのに……狙い通り右に打たせても、長打コースに持っていかれたら元も子もねぇぞ)

(しかも月出里は去年のデータだと比較的外はあまり打ててなかったのだが……まぁそれなら仕方ない。インコースまっすぐ行くぞ。引っ張ってくるかもだが、そっちも『網』を張っておけば良い)


 ……!インコース!!


(何……!)

「弾き返して、センターの前……」

(飛びついて……いや、間に合わへん!)

「落ちましたヒット!」

「上手いですねぇ。結構窮屈な球だったんですが、腕を綺麗に折りたたんでコツンとバットに乗せましたね」


「ええぞええぞちょうちょ!」

「変態打法良いゾ〜これ」

「ちょうちょが痴女だと聞いて」

「もしもしポリスメン?」

「何か今年のちょうちょ、内角をセンターに持ってくこと多いな」


 痴女じゃないし。可愛い系の男は好きだけど。


「ナイバッチ!」


 一塁に悠々と到達して、ファーストコーチャーに労われる。


「ありがとうございます……イテテ……」

「大丈夫か?」

「大丈夫です。ちょっと詰まっちゃっただけです」


 エルボーガードとレガースをすぐに外して右手を振る。長くしたバットにだいぶ慣れたけど、やっぱりインコースギリギリの球だとどうしてもね。逆に詰まらせてなかったらあのイケメンワカメさんに捕られてたかもだし、痛し痒し。


(月出里くん、頼んだよ)


 ベンチからのサインを確認。ああ、やっぱりそうだよね。


「2番セカンド、徳田(とくだ)。背番号36」


 去年の途中から、盗塁に関してはほとんど自由にやらせてもらえてたけど……


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 今日の試合前、監督室で伊達(だて)さんに言われたこと。


『月出里くん、今年は開幕1番を任せるよ』

『!ありがとうございます!!』

『ただ、今年はチームの得点力アップのためにも、君の機動力を見込んで去年より多く走ってほしい。去年もリーグトップの数字だったけど、月出里くんならもっと上を目指せる。流石に球団OBよろしく、この時代に100盗塁とかそんなのは無理だと思うけど、去年の倍を目標にするくらいでやってほしいね」

『倍ですか……』

『そのためにも、打撃がよっぽど悪くならない限りはシーズン通して1番に置いて機会を増やしていこうと思う。大変かもしれないけど、期待してるよ』


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 まぁありがたいっちゃありがたいんだけどね。


(月出里くんは四球が多いしバントも上手い。徳田くんと赤猫くんもいるからキャンプ前は2番での起用も考えてたけど、想像以上にバッティングが良くなってたからね。三振が少ない分併殺が多いからって、それを避けるためにバントばかりさせてちゃ本末転倒。その辺を踏まえても、月出里くんを1番に据えて、左の徳田くんか赤猫くんを2番に据えるのが現状ベターだろうね)


 ただ、そうなってくると……


「一塁ランナースタート!」

「ッ……!」

「セーフ!」

「セーフ!盗塁成功!!」


「流石やちょうちょ!」

「息を吐くように盗む」

「もう本格的に(しずか)たその後釜やな」


 こういうふうに、無理矢理にでも盗む機会が今後も増えてくる。今回の赤坂さんは比較的盗みやすかったからまだ良いんだけど、これじゃ去年みたいにおっかなびっくりやれやしない。

 まぁ期待されるようになれば、それだけ責任も大きくなるってことだろうね。


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