第十話 貴方に恥じないあたしである為に(5/5)
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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「6番キャッチャー冬島。背番号8」
(何にしても俊足のリリィが出たのは2回続けて幸先がええわ)
「ストライーク!」
「ボール!」
初回と同じくバントという線もある。じゃが、初回と違って後続は下位打線。次の伊達はかつてキャッチャーでありながら3割と二桁本塁打を放ったこともある好打者じゃが、昨年ほとんど二軍暮らしのブランクがあり、しかもバントだと一塁が空くからバッテリーも余裕のある配球が可能となる。
となると、ここは……
(よし!ここで仕掛けるで!)
(おうよ!)
やはりの。三波が3球目を投じると同時にオクスプリングがスタート。打撃の評価が目立つが実は走力もかなりのものと聞く。
(チッ……!こんな時に!)
しかし残念ながら、三波が投じたのは高めボール球ストレート。冬島は空振りで援護をするが……
「アウト!!!」
「おお!やるな真壁!!」
「クソッ!ウチが刺されるなんて……!」
まぁ正直、真壁の総合力は一軍の正捕手としては並以下。そもそもシャークスで戦力外になってウチが拾ってきた奴じゃからな。じゃが、捕るのは論外でも盗塁阻止に関しては正捕手の名に恥じん。
(打力も考慮したんだろうが、左打者を上位に固めてるんだ。ここで失敗覚悟の盗塁は俺にだって読める。あんまり調子に乗るんじゃないぞ、冬島……!)
伊達の長期離脱という背景があったとは言え、それでも去年正捕手に選ばれたくらいなのじゃから戦力外経由の選手としては十分すぎるくらいじゃ。余計な対抗心を燃やさずに冷静な判断ができればリードだって悪くないんじゃし、長打も打てる。真壁には今一歩成長してほしいもんじゃ。
「ストライク!バッターアウト!」
「アウト!スリーアウトチェンジ!」
冬島はあのまま三振、伊達はジャストミートしたものの惜しくもセカンドライナー。
スピードがない分、百々(どど)と比べれば取っ掛かりは作りやすいが、ホームベースは意地でも踏ませないのが三波の強みよな。先発として心強い部分じゃ。
しかし……
「ストライク!バッターアウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「ストライク!バッターアウト!」
「スリーアウトチェンジ!」
「……マジ?」
7・8・9番相手とは言え、3者連続三振。いや、前の回のイースターも含めれば4者連続じゃな。
「キャアアアアア!!!篤斗くんマジエース!!!!!」
「打者一巡パーフェクト!もう好き好き!氷室くん大好き!!」
「嘘やろ……?あの客寄せパンダが……」
「氷室はようやっとる」
相変わらずおなごのファンは騒がしく褒め称えとるが、嫉妬混じりの小僧のファンも流石に氷室の覚醒を認めざるを得んようじゃのう。
実際、ワシ自身も氷室のこの成長ぶりには純粋に驚いとる。旋頭、やってくれたのう。
*****視点:月出里逢******
「3回の裏、白組の攻撃。8番レフト秋崎。背番号45」
「よーし、プロ初打席!逢ちゃん、この回一緒に頑張ろうね!!」
「う、うん……」
やっぱりこうなるよね。
8番9番の序列や決め方は打順を考える人次第なとこはあるけど、1番打者が生かせるように9番に脚が速い方を入れることが多い。でもあたしと佳子ちゃんは同じ右打ちで脚の速さもほとんど同じ。それに、実績から言っても、やっぱり佳子ちゃんの方が上だよね。
せっかくオーナーが来てくれたのになぁ……
「あん?誰やあの巨乳ちゃん?」
「今年のルーキーの秋崎佳子ちゃんや。横須賀海洋のエースで4番やったんやで?」
(素振りを見る限りでも、かなりスイングが速いな……長打警戒で基本は外低めに逃して、追い込んだら高めで決めよう)
(任せてください。その辺、私の持ち味ですから)
佳子ちゃんの打者としての持ち味は、強豪校の4番を任され、高校通算で45本塁打を稼いだほどの長打力。豪快とも強引とも取れるアッパースイングに、野球経験の少なさが良くも悪くも表れてる。
「ストライーク!」
「ストライーク!」
だけど、美波さんの外スラを捉えきれない。
(うう……低め拾い上げるのは得意なんだけど、やっぱプロのスライダーってすごい……こんな横滑りの軌道、全然合わせられない……)
ネットでもよく言われてるけど、三波さんはスクリューだけじゃなくスライダーもすごい。スピードがない分全く当てられないわけじゃないけど、精度が半端じゃない。内外角のコントロールを間違えないし、さっきから外角いっぱいかギリギリ外れるかのところにビタビタと投げ込んでる。1球目2球目と、同じ空振りの場面をリピートしてるような感じさえする。
「ボール!」
(流石に3球連続では引っかかってくれないな。まぁ良い。予定通り、高めで決めるぞ!)
(……あ!ヤバ……ちょっと甘いかも……)
(!!これなら……!)
高めではあるけど、真ん中付近まっすぐ。捉えた……!
(うっ……!?)
けど、打球は力無く打ち上げられた。
「アウト!」
ショートへのイージーフライ。良い感じに捉えられたと思ったけど、そう言えばこの1週間、佳子ちゃんこういう打球をよく打ってたような気がする。
(またやっちゃった……高校の時はあのタイミングであのスイングならホームランだったのになぁ……あのズシっとくる感じ、どうにかならないかなぁ……)
「うーん、ヘッド負け。典型的な金属打ちですねぇ。俺もプロ入りたての頃は苦労しましたよ」
「高卒の割に筋力自体はプロの水準に間に合ってるんだけどね。木製打ちに関しては、インサイドアウトのスイングをちゃんとできるようになって、木製特有のヘッド寄りの重心に慣れないとどうしようもないわ」
何だかんだで旋頭さんと樹神さん、試合に入るとつまんないことでいがみ合ったりしないね。何かよく金属バットと木製バットの違いについて色々聞くけど、どうなんだろ?確かに最初は違和感があったけど、これくらいすぐ慣れるもんじゃないの?
まぁ良いか。次、あたしの番だし。
「月出里」
「どうしました?」
仕上げの素振りをしてると、振旗コーチが来た。
「試合中の素振りは解禁してるけど、他の言いつけは覚えてるわよね?」
「もちろんですよ。元々あたしもそういうスタイルだから大丈夫ですよ。バットがもったいないですし」
「それならよかったわ。菫子……オーナーも来てるんだから、良いとこ見せてやりなさい」
「はい!行ってきます!」
言うまでもない。そのためにあたしは今ここにいるようなものなんだから。
「9番ショート月出里。背番号52」
「おお!あの子めっちゃ可愛いぞ!」
「誰だ誰だ!?」
「あの噂のシークレットレアの子だよ!」
「ああ、ドラフトの時に写真すらなかった……」
お父さん、お母さん、純、結、川越監督……
「かっとばせー逢ちゃん!」
「でっかいの頼むぜー!」
それに何より、オーナー……三条さん。あたし、ここまで来れたよ。
(ま、やれるとこまでやってみなさい)
三条さんがそっぽを向きながらだけど手を振ってくれた。嬉しいな。何故かヴォーパルくんも三条さんの隣にいて手を振ってるけど、気にしないでおこう。
貴方には色んな思いがあって、それを一言で言い表すことなんかできやしない。少なくとも嫌いだとかそういうのは全くないけど、本当を言えばドラフトの日みたいに、二度と会わない方がお互いに幸せだったのかもしれないと今でも思うことがある。
だけどここにいる以上、あたし、頑張るよ。
貴方に恥じないあたしである為に。
貴方に言いたいあたしの思いにふさわしいあたしになる為に。