第十話 貴方に恥じないあたしである為に(4/5)
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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「で、でもさ!三振奪るのも打たせて取るのも『両方』できるようになったら良いじゃん!あっくん、"日本一のエース"を目指すんだからさ、せっかくなんだからそれくらい贅沢しちゃいなよ!」
「ああ、それくらい高望みしてもバチはあたらねぇよな」
どう言うわけか焦って何かを誤魔化してるような感じの火織。そんな様子だったから、言ったことを知らず知らずの内に頭の中で繰り返してた。
三振を奪るためのフォーク、打たせて取るためのツーシーム……その両方……
そう言えば……
『フォークは回転数を抑える事が肝要。指の関節に縫い目がかかってるから、中途半端な回転がかかってるんでしょうね』
旋頭コーチが言ってた、フォークの話。確かに良いフォークを投げるのであれば、回転数を抑える必要はあると思う。でもよく考えたら、俺が求めてるのは『プロ相手でも三振を奪れるくらいの決め球』であって、『完成されたフォーク』じゃねぇ。
俺の感覚だと、ツーシームの方がむしろフォーシームより指にかかってくる。ならいっそ逆に……
「火織。ちょっと打席に立ってくれねぇか?」
「ん?また勝負するの?」
「いや、ヘルメットと防具だけ付けて、今から投げる球を見ててくれねぇか?」
「良いけど、スイングしないからバットも持ってて良い?立ってるだけだと何となく球を見てる気分になれないんだよね」
「ああ、それで良い。頼む」
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「どうですかね?」
旋頭コーチの反応は火織と同じ。初めてこの球を見て、しばらく呆然としてた。
「……素晴らしいわ。今の球、どうやって投げたの?」
「以前、ツーシームを試した時に、その握りでのフォークも試してみましたよね?」
「ええ、確かあれはむしろ普通のフォークよりも質が悪かったはずだけど……」
「あの時はいつものフォークを投げる時と同じで、二本指で挟んで回転をかけないようにリリースしてたんです。だから逆に、二本指での挟みを少し浅くして、ツーシームを投げる時みたいにむしろ回転をかけるようにリリースしたんです。その結果がこの球です」
「なるほど。フォークというよりはスプリットの応用みたいな感じね。落ちる原理が通常のフォーク系とは根本的に異なるように思うけど、貴方の場合はこっちの方が合ってるみたいね。スピードもキレも明らかに今までのフォーク以上、落差も申し分なし」
こだわりがあったから遠回りもしたが、こだわりがあったからこそ『この球』に辿り着けた。
「今回の秋季キャンプ、ツーシームを内外角に投げ分けられるようにするのを第一目標にしてたけど、予定を変更しましょう。『この球』の制球を安定させて、もっと縦変化に寄せたりできるかとか試してみましょう。貴方はそれで良い?」
「ええ、もちろんです。よろしくお願いします」
「それで、『この球』は何て言えば良いのかしら?単に『スプリット』?」
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俺の運は高校時代に尽きたと思ってたが、そんなことはなかった。火織に支えられて、旋頭コーチに指導してもらえて、決め球を身に付けた途端に、幸貴というこの球を受けるに相応しいキャッチャーにも恵まれた。
上り詰めてみせるぜ、"日本一のエース"。この『ツーシームスプリッター』で……!
******視点:柳道風******
「2回の裏、白組の攻撃。5番サード、オクスプリング。背番号54」
「ストライーク!」
「むっ……」
(確かにエグい変化しとるけど、初球からか……)
ほぉ……初球からスクリューを使ってきたか。確かにオクスプリングはスイッチヒッターで、当然右のサイド相手じゃから左打席に立っとるが……
「ボール!」
「ファール!」
「また外スクリュー……」
「全部外やけど、外人相手やから長打警戒か?」
と、普通の人間はそう考えるじゃろうな。じゃが、真壁の意図するところは別にあるはずじゃ。
その証拠に、次の1球は……
(よし!これで詰まって……ない!?)
外の変化球で追い込んで、右サイドならではの内角に食い込んでくる速球。多少差し込まれはしたが、一二塁間を抜くのには十分な打球速度。ライト前ヒットで、この回も白組は先頭打者が出塁したことになる。
「ナイバッチです!リリィさん!」
「おお!あれで振り負けんのか……!」
(やっぱ私の球速じゃ厳しいかぁ……)
オクスプリングの強みは外国人ならではのあの強靭なリスト。サードからのスローイングにも生かされておるが、何よりも大きいのは打席の左右に関わらず速球に振り負けず強い打球を返せるという点。
日本ではスイッチヒッターというのは俊足巧打タイプが多数派。スイッチヒッターに転向するよくある理由は右対右、左対左に対抗するためじゃが、日本のスイッチヒッターはこれに加えて長打力不足やバントが苦手なのを補うというのもある。
じゃが、オクスプリングは違う。どちらかと言うと左の方が強く振れるらしいが、それでも両打席で長打が望めるスラッガータイプ。それも、打力だけ見れば去年の大卒でNo.1と評されるほどじゃ。守備難というマイナスは確かに放置できんが、それでも外国人選手を外国人枠を使うことなく運用できるメリットは大きい。
真壁はそんな奴に対して、自分のポジションが危ういからと言って、競争相手に対抗して同じように裏をかくリードとはのう。下手をせんでもマウンドにおる三波はウチでトップクラスのスターター。普通にやってればまず打たれることはないのじゃがのう。