第八十三話 それぞれの宿命(3/7)
******視点:鹿籠葵******
二軍戦で一度投げたことのあるサンジョーフィールド。結構古い球場のはずなのに、ブルペンが広くて綺麗。
「ナイスボールよぉ!」
捕ってくれてるのは、いつも通り岡正さん。
「おおオッケーでーしゅ!ウェヒヒ……」
「お疲れ。良い感じだったわよぉ」
「ありがとうございます!」
「それにしても、ブルペンもアタシで良かったのぉ?アナタの球、結構気難しい子だからできるだけ二乃ちゃんに捕ってもらった方が良かったんじゃないのぉ?」
「マウンドでもまた投げますから、肩慣らしくらいは……」
「……ありがとね」
もう試合では一緒にプレーできないから、ね……
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「ストライク!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」
「ええぞ恵人きゅん!」
「3939」
「最近投手陣がアチアチやったから三凡はありがたいわ」
「ナイピー恵人!」
「おい大神。敵を応援するな」
向こうの先発は山口さん。まっすぐが速くてカーブも良い。大神くんと同い年なんだよね?ちっちゃいけど良いピッチャー。
……わたしも負けられない。
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番センター、秋崎。背番号45」
「おっ、今日の1番は佳子ママか」
「おっぱいミサイルかましたれ!」
そう言えば初めての対外試合もバニーズだったね。おっぱいが情けなくない人。打者一巡分しか投げなかったけど、一番良い当たりしてたからよく覚えてる。
「ファール!」
(前の時より速くなった……かな?)
「145か、まぁまぁやな」
「でもあんま特徴ないなぁ。どこにでもいるような右のスリークォーター。身体はデカいけど」
「おっぱいもママに負けないくらいデカいやん」
タイミングは合ってる。なら……
「ボール!」
外スラ、釣られてくれなかった。だけどこれ以上恐れはしない。
「!?」
「ストライーク!」
「えぇ……今の高め振るかぁ……?」
「落ち着け!よく見ていけ!」
(今の球、まっすぐ……だよね?すごい伸びててきたけど、それだけじゃなく……)
わたしはあくまでまっすぐで勝負するんだから……!
「ッ……!」
「オーライ!」
「アウト!」
「うーんこのダボハゼ」
「まぁ元々フリースインガーやし」
「脚速いからって無理に1番やらせんでもなぁ」
(やっぱり……外いっぱいくらいに見えたのに……)
岡正さんが言ってたように、あの時の当たりはマグレ……だったのかな?油断はできないけど。
「2番ライト、松村。背番号4」
次は左。やることは変わらないけど……ウェヒッ!?
(今日こそ打つ……!)
ネクストからものすごい視線を感じると思ったら、月出里さん……素振りもしないでわたしの方をじっと見てる……こ、怖い……
「ふぅーっ……」
落ち着いて落ち着いて。今の相手はあののっぽさん。
(絶好球……ッ!?)
「ピッチャー!」
折れたバットが近くに……でも怖がらない。せっかくピッチャーを勝ち取ったんだから……!
「ふぁ、ファースト!」
「アウト!」
「おいィ!?何やっとんねん!!?」
「松村があんなクソ甘ボールを打ち損じた……?」
「ここ最近打線だけはホッカホカやったけど揺り戻しか?」
(捉えたはずなのに……想定よりも根っこ……)
「つ……ツーアウト!」
「おう、良いぞ葵ちゃん!」
「こっちも三凡で片付けたれ!」
わざわざ大阪まで来ててくれたファンの人達が、わたしの背伸びしたパフォーマンスを受け容れてくれる。おかげで良い気分で臨める。
「3番サード、月出里。背番号25」
今バニーズで一番当たってる人との勝負に。
「ちょうちょ!ツーアウトでも遠慮はいらんで!」
「でもあのピッチャー、ちょうちょと3回勝負して全部三振らしいで」
「マ?」
それはわたしも覚えてる。だけど、猪戸くんと並ぶわたし達世代の出世頭。油断なんてできない。




