第八十二話 やっぱりこいつは(3/8)
******視点:雨田司記******
「紅組、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、風刃に代わりまして、雨田。ピッチャー、雨田。背番号19」
「お!最後はメガネか」
「敷島とかはまた明日か?」
「ええんちゃう?まだオープン戦も先なんやし」
「「「雨田くーん!ローテ入り頑張ってー!!」」」
向こうと同じく、7回からはボクの出番。秋崎が最高に良い感じのアピールをしてたし、ボクも結果を出さないとね。
「2番ライト、相模。背番号69」
(コイツの場合は制球次第だからな。とりあえず追い込まれるまではまっすぐに絞って……)
相模さんは早いカウントからでも積極的に振ってくる。去年とは違うところをアピールするためにも……
「!!!」
「ストラーイク!」
「おおっ!縦スラ!」
「ええとこに決まったな」
(今の、見逃してても入ってたかもな……)
球種の少なさを補うために使ってた横気味のスライダーを封印して、代わりに縦スラの精度を上げるのに専念。
「ファール!」
(くそっ、振り遅れた……!)
「さっすが。いきなり150……」
緩急が活かせなくても、何らかの変化球でストライクを取れるようになればそれだけストレートのスピードもより速く見せられる。
けど、これだけだとリリーフに回されそうではあるからね。先発をやる以上、球種というか球数を抑える術が必要になってくる。
(ストレート……!?いや……)
おそらくストレートに絞ってたところ、少し落ちた球を引っ掛けて、打球はボクの前に転がってきた。
「ファースト!」
「アウト!」
「3939」
「今のなんか変化してへんかったか?」
早乙女さんが元のスライダーから"フェイク"を編み出したのを参考に、縦スラを応用して新たに身に付けた縦気味のカットボール。横スラも元は縦スラの応用。こっちの方が軌道が縦スラに近い分制球しやすくて汎用性も高い。風刃と若干被ってるのは気に入らないけど。
「3番ショート、月出里。背番号25」
「ちょうちょ!また打って文句なしの猛打賞や!」
「おお、またしてもドラフト同期対決」
「伊達も随分粋なことするな」
こういう試合で勝負するのは久しぶりだね、月出里。
「ボール!」
ストレートがいきなり上擦ってしまった……なら!
(……!落ちた……)
「ストライーク!」
縦カット、見送ったか。いきなり引っ掛けてくれてたら楽だったんだけど。
「ファール!」
「出た!155!!」
「さすがのちょうちょでも差し込まれるか……」
無駄な駆け引きはしない。いきなり勝負……!
(スライダー!)
「ファール!」
その外でも当ててくるか……やはり手強い。
「ボール!」
もう1球。精度は上がったけど、それでも100%入るものでもない。だが追い込まれても今のに釣られなかったのはさすが。
「ええぞちょうちょ!格の違い見せつけたれ!」
……かたや競合ドラ1。かたやドラフト最下位。柳監督相手にも臆さず歯向かったキミのことを最初から買ってたつもりだけど、それでもやっぱりそういう立場だから、心のどこかで『技術や地位ではコイツに負けることはない』って気持ちはあったんだと思う。あの捻くれてた頃のボクが素直に他人を評価できたのも、そういう余裕があったからこそなんだろうね。
だから投手と野手の違いはあれど、こんなふうに同じプロでも明確に格の違いが生まれたことについて、思うところがないわけじゃない。ボクは最初からギリギリ8桁の年俸をもらってたけど、基本ずっと二軍だから頭打ちのまま。そしてキミは順当に評価を上げていって、今やボクの3倍近く稼ぐ立場。
(チェンジアップ……!)
「スイング!」
「ボール!」
そんな客観的な評価を、どうにか覆したいって気持ちもある。
この1球で……!
「ッ……!」
「オーライ!」
「アウト!」
タイミングはドンピシャ。全く嫌になるね。だけど真後ろに高く上がって、冬島さんが危なげなく捕球。
「「「おおおおおっ!!!」」」
「すげぇ!ちょうちょ仕留めたぞ!!」
「158……」
(……ナイスボール)
少し悔しげだけど、それでもボクを讃えるように笑ってみせた月出里。それもまたかつてのボクのような余裕からなのかもしれないけど、ありがたく受け取っておくよ。
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