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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第八十二話 やっぱりこいつは(2/8)

(『ニホンジンは小さい』と聞いてましたGA、あのサウスポーのガール……ボーイ?は飛び抜けて小さいデースNEE……)

(……おれの頭の上に30cm定規を乗せても向こうの方が大きいんだよね?)

(センターの方から見てると遠近感が……)


 そう言えばこの回、左打者はこの人が初めてっすね。どんな攻め方をするのか……あんまり駆け引きとかは得意じゃないっすけど、また勝負する機会もあるかもだし、参考にしときたいっすね。


「ストラーイク!」


 初球はまっすぐ、膝下の良いとこ。ちょっと窮屈そうな振りでチップはしたものの、土生(はぶ)さんのミットの中に収まった。


(Oh……キレッキレデース……)

(左相手にもインコースが使えるようになったのはデカいな。『長打を避けるなら内より外』というのが一般的な考え方だが、これだけ身長が高いのなら当然腕も長い。むしろ他の打者よりもツボが外寄りになってるはず)

「ボール!」

「ストップストップ!」


 大きく外れたカーブ。土生さんがどうにか身体で止めて、一塁ランナーは動かず。


(やっぱまだ百発百中とはいかないよね……フォームをコンパクトにしたおかげで思ったところに投げやすくなったけど、やっぱりカーブの制球は他と比べると難しい……けど!)

(アゲイン……!?)

「ストラーイク!」


「2球続けた……」

「100km/h未満の球やのによう続けるわ」


 つくづく度胸あるっすねぇ……


(基本的に球のスピードってのは腕の振りに比例する。だけど緩い球を投げるコツは腕を緩く振ることじゃない。むしろストレートと限りなく同じように強く振り抜いてこそ……!)

(ブレーキング!?)

「……スイング!」


 膝下に落ちた……多分チェンジアップ。判定は……


「ストライクスリー!バッターアウト!!」

(マイガー!!!)


「よっしゃ!連続奪三振!!」

「ええぞ山口(やまぐち)!」

「身長40cm差がナンボのもんじゃい!!!」


「ツーアウト!」


 『おれに任せとけ』と言わんばかりに指を立てる山口先輩。サマになるっすねぇ。ここまで3三振の自分と比べて……


「6番ライト、松村(まつむら)。背番号4」


「おお、何気にドラフト同期対決か……」

「しかしデカい奴が続くなぁ」

「バニーズってむしろチビの方が多いくらいのはずなんやけどな」


 ちょっとほっそりしてるけど、かなりののっぽさん。月出里さんほどじゃないっすけど、この人も全然空振ってないっすね。ここも(かわ)し切れるか……


「セーフ!」

「セーフ!」


 2回ほど牽制を挟んでから……


(むっ……!)

「ストライーク!」

(スライダーですか……)

(松村さんは早いカウントからでも前に飛ばしてくる。是が非でも三振を()りたいわけじゃないけど、かといって馬鹿正直には入れない)

「ボール!」

「ボール!」


 3球続けて外へのスライダー。慎重っすね。これは自分の方に飛んでくるかも……


(高め……!)


「「「「「おおっ!!!」」」」」


(やば……)




「ファール!」


「あちゃあ……」


 急に来たまっすぐ。ミットはインハイに構えてたけど、外に流れたのを逆らわずに打ち返して、打球はレフト側ファールゾーンへ。


(ならば……!)

(させませんよ!)

「ファール!」


「うっま……」


 例のスローカーブ。甘く入ったとは言えタイミングは完全に外したのに、どうにかカット。単純にバッティングが上手い人っすねぇ……


「セーフ!」

「ファール!」

「セーフ!」

「セーフ!」

「ボール!」

「ファール!」

「ファール!」

(やっぱり手強い……)

(こうもタイミングを外されるとフェアゾーンに自信を持って打ち返せないですね……)


「良いぞー松村!」

「リリィの脚なら長打で帰れる!」

「しっかり絞ってけー!」


 いやぁ、すごい勝負っすね……松村さんももちろん上手いっすけど、山口さんはこの状況でもランナー警戒を忘れてない。


(リリィさんに盗塁を許せば、松村さんは得意なシングル狙いに絞れる。長打じゃなきゃいけない今の状況をキープするのは投手と打者の勝負で優位に立つ上でも必要だったこと。そしてもうとっくにフルカウント。これで決める……!)

(ッ……外!)


 外低め、おそらく今日一番良い球。松村さんも手が出ず。判定は……




「……ボール!フォアボール!!」


「えぇ……今の外れたんか……」

「入ったと思ったんやけどなぁ……」

「まぁしゃーない。審判絡む勝負なんやし」


(勝負には勝ちましたが、喧嘩には負けましたね……)

(まぁしょうがない。今は内容さえ評価してくれたら良い)


 悔しい判定を下されて、一瞬下を向いた山口先輩。けどすぐに頭を上げて返球を受け取る。


「7番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」


 自分、こういう人の力になりたいっす……!


「……!サード……」

(!!?)


「「「「「おおおおおお!!!!!」」」」」


 レフト線を沿うような強烈なゴロ。でも飛びついてどうにか捕球して、そのままグラブで三塁に触れる。


「アウトオオオオオ!!!」


「やるやんけルーキー!!!」

「ええぞ!見直したわ!!」

朱美(あけみ)朱美(あけみ)!」


「スリーアウトチェンジ!」


 自分だって、もうプロなんすから。

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