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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第八十一話 エースへの道(6/6)

「おっぱいちゃん!連発でええんやで!!」

「2つあるんやしな(ゲス顔)」

風刃(かざと)くん!踏ん張って!!」


 二三塁で三塁には月出里(すだち)さん。二塁の十握(とつか)さんは確かそこまで速くなかったと思うけど、月出里さんはちょっとでも逸らすと本塁を持っていかれる。

 あんまり言われないけど、あの人は単に盗塁が上手いんじゃなく、機転というか瞬間的な判断力というか……ちょっとした情報から相手の次の行動を読んだり、自分の次の行動を決める力が並外れてるんだと思う。だから走塁の判断も良いし、打つ方でも球種をあっさり見極めたりできるんだろうな。


(そこは心配あらへん。日頃から篤斗(あつと)のスプリット受けとるんやからな。オレは野球の上じゃ、イケメンだろうが何だろうが投手の味方や)


 ま、冬島(ふゆしま)さんのキャッチングを疑ってるわけじゃないけど。

 それに、今メインで相手をしなきゃいけないのは秋崎(あきざき)さん。悪いけどここは全力で抑えさせてもらうぜ。


「ボール!」

(やっぱり緩い球から入ってきた……!)

(やるな。ここで待てたのは成長やな秋崎ちゃん)


「ええでええで!ナイセンナイセン!!」

「焦らんでええんやで!」


 まだちょっと調整不足だから、今日あんまり投げてないカーブ。二三塁で一塁が空いてて、次はノーヒットのルーキーという状況。力んでる相手に素直にいくわけがないんだから、ここは見極めて正解。だからゾーンに入れたかったんだけど……


「スイング!」

「……ボール!」


 ちぇっ、今度は見切られたか……振らせたと思ったのに。


(フォーク、さっきと比べるとちょっと見極めやすくなったかも……流石の風刃くんでも焦ってる?)


 ……あと2、3球かな?


「ファール!」

(速い……!)


「おおっ!154!!」

「また最速出たぞ!」


 少しボールの上の方に当てて、打球は1回バウンドして冬島さんの防具に当たった。

 いくら速球に強い秋崎さんでも、流石に変化球2つ見た後なら1つくらいカウント取らせてもらわないとな。


(でもタイミングは問題なし。百々(どど)さんのまっすぐほど浮き上がる感じはないから、もうちょっと下……)

(次こそ決めれるやんな?)


 もちろんですよ。今度こそおれのとっておき……!


(ストレート……!?)

「ストライーク!」


「え……!?な、何や今の球……!!?」

「148出てたけど……」

「ストレート……ちゃうやんな?」


(今の球って……)


 よしよし、外の良いとこ、空振ってくれた。

 これがこのオフに磨いたとっておき、カットボール。元々投げてたけど、カリウスの150に届くこともあるカットボールを参考に一から投げ方を見直した。


(ストレート……じゃない!また……!)

「ファースト!」

「アウト!スリーアウトチェンジ!」


「また147……」

「すげぇ!あんなの投げられるようになったのか!!」

「やっぱりエース候補じゃないか(ご満悦)」

「あとはあの変な投げ方さえ元に戻ってくれれば……」

「「「風刃くん、最高ー!!!」」」


 スピードの分、そこまで極端に大きく曲げられるもんじゃないけど、そうそうまともに捉えられる代物じゃねーよ。月出里さんに投げた時はクッソ甘く入っちゃって打球を殺し切れなかったけど、ある程度コーナーに逃してやればこの通り。

 左打者対策が主な目的だったけど、こりゃ想像以上に使えそうだ。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「走ったぞ!」

(させるか!)

「アウトォォォ!!!」

「えー!?リクエストリクエスト!!」

「紅白戦じゃやらねーよ……スリーアウトチェンジ!」


 6回は徳田(とくだ)さんに歩かれたけど、冬島さんが刺してくれたおかげで月出里さん2戦目は何とか避けられた。しつこく指で四角を描いてるけど、多分アレはアウトで間違いない。

 しっかしやるなぁ。まだ精度が悪いとはいえ、あのカットボールでも粘れるんだからなぁ……デカいの打たれる心配はないけど、ほんと厄介なバッターだわ。


「お疲れ様、風刃くん。予定通りこの回で上がりだからね」

「あざっす!」


 ベンチに戻ると伊達さ……監督から一声。


「あのカットボール、カリウスから習ったのかい?」

「よく分かりましたね」

「捕ってたからね」

「ふふっ……」


 いいおっちゃんが自慢げに左手をパカパカと開閉して見せる。さすが元正捕手。お目が高い。


「どうっすか?先発できそうっすかおれ?」

「それはまだわからないなぁ。ところで、フォームのことなんだけど……」

「……何か問題ありますか?」

「いや、そんなことはないさ。ただ、怪我してるわけじゃないんだよね?」

「はい。至って健康体です」

「それなら何よりだ。でも見た限りまだ仕上がりきってないみたいだね。先発ローテに加われるかどうかは、まずオープン戦までにその辺をどうにかできるかだろうね」

「……うっす」


 だよなぁ。あの練習のおかげで全身を使えてる感覚はあるんだけど、逆に色んなとこからパワーが出過ぎてまとまりきれてないというか……そのせいで逆球ばっかでほとんど狙ったとこに投げれてなかったなぁ。

 ……『先発ローテに加われるかどうか』、じゃねぇんだよなぁ。プロで投げてる以上、やるからには一番にならなきゃ気が済まねぇよな。百々さん氷室(ひむろ)さんだけじゃなくて、妃房(きぼう)さんとか真木(さなぎ)さんとか流王(りゅうおう)さんとか幾重(いくえ)さんとかにも勝って……メジャーのピッチャーはそこまで詳しくないけど、その辺にも勝って。

 そのためには、今のこのフォームをものにしなきゃいけない。肘にばかり負担をかけてた前のフォームを捨てなきゃいけない。後先考えず身を削れば、ある程度の良い球なんて投げれて当たり前。本当に良いピッチャーは最高に良い球を常に投げ続けられる。自分の投げる球で身を削ることなく、付け入る隙だって見せない。そういうもんだと思ってる。ピッチャーは1人で何人ものバッターと勝負しなきゃいけないんだから、自爆まがいの消耗なんてしてられない。

 このフォームのことで周りがどう言おうが、結局そんなのは他人事。責任感なんて皆無で、玉虫色の理論に基づいて賢い奴を気取りたいだけ。少なくとも、おれが自分で決めたことをやってダメだったら『おれが悪かった』の一言で済むけど、周りに流されてダメだったら後悔しか残らない。周りは監督や旋頭(せどう)コーチみたいに結果だけ求めてくれればそれで結構。秋崎さんはおれと結婚してくれればそれで結構。

 "エースへの道"……えらく険しいもんだけど、おれは絶対なってみせる。

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