第八十一話 エースへの道(4/6)
******視点:風刃鋭利******
百々(どど)さんと氷室さん、ウチの2枚エースはどちらも3回2失点。内容の差はあれど、どっちもまだまだ仕上がってないんだろうなぁって印象。4回表から出た三波さんも0では抑えたけど出塁2つ。
……ま、おれもあんまり他人のこと言える状態でもないけど。
「紅組、選手の交代をお知らせします。ピッチャー、百々に代わりまして、風刃。ピッチャー、風刃。背番号43」
「「「風刃くーん!!!」」」
「きた!次期エース候補きた!!」
「これで勝つる!!!」
特に女の子からの声援、嬉しいっちゃ嬉しいんだけどなぁ……
「風刃くん。試合前にも確認したけど、ほんまにスライダーナシでええんやな?」
「はい。しばらくは封印していこうと思ってます」
「去年受けた限りでも一番使えると思うんやけどなぁ……」
「そこは申し訳ないっす。でもスプリットとかは去年以上になってるんで期待しててください」
投げる前に冬島さんと打ち合わせ。スライダーに頼りたい気持ちはあるんだけど、今は我慢我慢。
「4回の裏、白組の攻撃。5番指名打者、チョッパー。背番号42」
新外国人さん。最初は百々さんのまっすぐについていけてなかった感じだったけど……
「「「……ん?」」」
「ボール!」
「ファール!」
「えーりん、何かフォーム変わってへん?」
「すげぇ手投げっぽいんやけど……」
「去年もうちょっと下半身にタメがあったよな?」
「めっちゃギッコンバッタンしててぎこちないな……」
「もしかして脚怪我でもしとるんか?」
ざわつく観客。まぁそう見えるよな。おれだって去年のままならそう思ってただろうよ。
「ぬぅっ……!」
「抜けた!」
「ナイバッチチョッパー!」
「期待しとるで新外国人!」
「サンキューネ!!!」
まぁ実際、まだまだ未完成なんだしな。
相沢さんが捕れないんじゃしょうがない。
「6番ファースト、金剛。背番号55」
さっきホームランの金剛さん。おー怖。
(大丈夫や。あの投げ方はようわからんけど、球自体は来とる。元主砲が6番に甘んじてて、ホームラン打った後。それなら狙ってくるのは……)
冬島さんのサインに首を縦に振る。さっすが、良い意味で悪どい。
「!?」
「ストラーイク!」
(初球からか……)
(『もう一発打って開幕の座を確固たるものにする』……やろ?)
出鼻からスプリット。コイツは結構練習してきたから去年よりは使い物になってるはず。
「ストライクスリー!バッターアウト!!」
「よっしゃよっしゃ!ええでええで!」
「151か、スピードは出てるんやな……」
「しかし何なんやろな、あの投げ方。めっちゃアーム投げやん」
冬島さん様サマ。この回一番警戒してたところを危なげなく処理できた。
「7番センター、秋崎。背番号45」
「繋いでけ、おっぱい!」
「でっかいの頼むで!」
でもある意味一番やりづらいのはこの人。今日も綺麗でおっぱいもでかい。正直めっちゃ忖度したいけど、流石に試合ではなぁ……
「ストライーク!」
「152出た!」
「鋭利くんのまっすぐマジ鋭利!」
見逃し。そりゃそうだよな。初球なのに意図せずアウトローいっぱい。こういうのって逆に次の1球に困るんだよな。
(焦らない、焦らない……)
「ボール!」
ちぇっ、スプリット叩きつけちゃったよ……もう1球!
「ストライーク!」
よし、振らせた!
(うう……やっぱりこの高さに来られると……)
(確かにパンチ力は厄介やけど、基本的に天野さん以上の扇風機タイプや。コントロールミスさえしなけりゃ……)
……あ。
(……!!!)
やば……まっすぐど真ん中……
「「「「「!!!!???」」」」」
「レフト!!!」
「「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」」
放物線がレフトスタンドに到達した途端に歓声。やっちまった……
「「「おっぱいミサイルだあああああ!!!」」」
「ツーラン!ツーラン!」
「ナイスおっぱい!!!」
「ナイバッチ!」
「佳子ちゃん!おめでと!!」
「でへへ……ありがと」
……参ったなぁ、やっぱまだまだ思ったとこに球が行かないなぁ。
(良いぞ秋崎!最高の結果だ!!)
ふとブルペンの方を見ると、今日一応味方であるはずの雨田さんがフェンスを掴んで大はしゃぎ。わかりやすい人だ。
まぁ、打ったのが秋崎さんで良かったと思うしかないかな?野手は実力があってもアピールする機会が限られてるんだし、この一発でいつかまた一緒に一軍でプレーできる可能性が生まれたと思えば……
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