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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第八十一話 エースへの道(3/6)

******視点:秋崎佳子(あきざきよしこ)******


「アウト!」


「「「はー、危なかったぁ……」」」


 3回の表、ちょうど向こうも打者二巡目。

 アンラッキーなヒットからだったけど、向こうのクリーンナップが良い感じに繋いで向こうも2点。松村(まつむら)さんも続いて結構危ない状況だったけど、最後はライナーでどうにか同点止まり。


(……情けねぇな)


 外野からだからあんまり詳しくは見れてないけど、確かに今日の氷室さんはいつもほど空振りが()れてなかったし、あんまり調子が良さそうな感じじゃなかった。

 あれだけすごいピッチャーなんだから、開幕までには間に合わせてくるんだろうけど。


「あ、お疲れ様っす!」

「お疲れ」


 一足早くベンチに戻ってた内野陣。宇井(うい)さんがお出迎え。


秋崎(あきざき)さん、さっき月出里(すだち)さんのとこにバット持って行ってましたね」

「うん。(あい)ちゃん、結構よく折っちゃうからね」

「次からは自分が行った方が良いっすか?」

「あー……うん、そうだね」


 後輩らしく気を利かせてくれてるのかな?


「逢ちゃん、それで良い?」

「良いよ。佳子(よしこ)ちゃん、さっきはありがとね」

「うん……ところで逢ちゃん」

「ん?」

「もしかしてバット長くした?」

「ちょっとだけ。よくわかったね」

「何か感覚とか変わった?」

「まぁ最初はね……でもオフの間にどうにか」


 すごいなぁ、逢ちゃん。わたしなんてまだまだ一軍に時々しか呼ばれないのに、もうタイトル獲っちゃって、打撃投手も自分で雇って、あんなふうに工夫して……きっとさっきのヒットも、そういう工夫の成果なんだよね?

 わたしもバッティングがまだまだなんだから、相模(さがみ)さんみたいに内野を守れるようになったり、色々工夫しなきゃいけないかなぁ……?


「アウト!」


「ナイス!」

「やるやんけルーキー!」

「ど、どうも……」


 今日は基本的にどの投手も最長で3回までだから、氷室さんも百々(どど)さんもこの回まで。

 火織(かおり)さんならもしかしたら内野安打かもと思ったけど、ルーキーの服部(はっとり)さんがきっちり守ってワンナウト。


「そろそろ行ってくるね」

「うん、頑張ってね」

「ファイトっす月出里さん!」


 いつもの黒いバッティンググローブに指を通して、ヘルメットと長くしたバットを持ってネクストへ向かう逢ちゃん。百々さん相手にいきなり結果を出して、最低でももう1回は勝負することが確定してる。

 頑張って欲しいけど、また結果を出してもっと遠くに行かれると怖いなぁって……嫌だな、わたし。こんなこと考えちゃうなんて……




******視点:月出里逢(すだちあい)******


「ストライクスリー!バッターアウト!!」

(くそッ、入ったか……!)


 相模さんも喰らい付いたけど、最後は外低めいっぱい。やっぱりシーズン中よりは球が走ってないけど制球は相変わらず。


「ツーアウトツーアウト!」

「ええぞ百々!」

「同点やけど、内容的には氷室よりええよな?」

「二巡目で結構捉えられてたからなぁ……」

「やっぱ制球大事」


 ……イメージはできた。ヘルメットの位置を整えながら打席へ向かう。


「3番ショート、月出里(すだち)。背番号25」

(リベンジマッチね)


「ちょうちょー!遠慮なく打ってけ!」

「ホームランでもええんやぞ!」

「百々!今度こそ三振や!!」


 第一打席で結果を出した延長で調子良く言ってくれてるんだろうけど、それでもそういうのを求められるのはありがたい。金剛(こうごう)さんのを見た後だしね。流石はあの若王子(わかおうじ)さんに競り勝ってホームラン王になったこともある人。あたしも今年こそあんなふうに打ってみたい。


「ボール!」

「ストライーク!」


 また外……!


「ファール!」


 3球続けて……


(月出里ちゃんは百々さんクラスでも簡単には三振を狙えんからな。だから第一打席ではシフトを頼りにあえて早めに打たせる方向で組み立てた。けどあの内角捌きやからな。あんなふうに打てるんなら、元々苦手な外で勝負する方が無難)

(内角なら身体に近い分、バットの操作が利きやすい部分があると思うけど、外角ならどうかしらね?)


 それなんだよね、一番苦労したの。内はすぐどうにかできたけど、外はね。

 あたしは踏み込んで打つのはあんまり好きじゃないし、その上チビだから、どうしても外だとできることが限られてた。外だけは確かに右にばっかり打ってるなぁって自覚があった。


「ファール!」


 こんな感じで当てるまではどうにかできるけど、向こうもその辺は織り込み済みたいで、打った頃にはファーストとセカンドが思いの外早く一塁の方に寄ってる。外ならあのシフトがまだ通用するってね。


「ボール!」

(1球だけ内……まぁ釣られんわな)


 だからこその、この長くしたバット。重さは前のと変わってないはずなのに、遠心力のせいか前のより重く感じたり、長くなった分芯の位置が微妙に変わってまたよくバットを折るようになっちゃったり、内角が前より窮屈になったり。色んな打ち方を覚えるよりバットへの適応の方が時間がかかっちゃったかも?


(今度こそ……!)


 だけど、やればやるだけ前には進める。この打席でだって、あたしは常に変わり続けてる……!


「!!?」

「……セカ……」


 間に合わないよね。一歩目が一塁側(そっち)なんだから……


「にゅおおおおお!!!」

「「「おおっ!!?」」」


 間に合った!?流石は有川(ありかわ)さん……だけど!


「セーフ!」

(流石に追いつくまでが精一杯ですねぇ……いやはやお美事でしたよぉ。でゅふふ……)

(シフトが仇になったか……)

(いえ、シフトがなければ前までみたいに打ってたはず。参ったわね……こんなに良い勝負ができるんなら、もっとしっかり調整しとくんだったわ)


「すげぇ!ちょうちょマルチやん!!」

「しかも百々相手!!!」

「有川もナイスガッツ!」


 もっと強く打てたら抜けてたかもだけど、そもそも金剛さんみたいに柵を越せば良いって話だけど、今はこれが精一杯。結局は去年みたいに脚頼り。

 それでも、前には進んでる。去年まではどうしようもなかったシフトだって、これならどうにかできる。すみちゃん達が期待してくれてるあたしにだって近づけてるはず。今はただ、やれることをやり尽くすのみ。


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