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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第八十一話 エースへの道(2/6)

「8番サード、服部(はっとり)。背番号38」


「おっ、次の奴はルーキーか」

「どんな奴なんや?」

「大学野球で日本代表に選ばれたりで結構活躍したらしいで」


 服部くんは尖った数字こそないものの、実績があって三拍子も揃った即戦力候補の内野手。ワンナウト二塁、ここはどう攻めるかな?


(いきなりのスタメン抜擢、最低限はこなさなきゃな……!)

「!!セカンド!」


 一二塁間寄り、そこそこの球足。


(よし、これなら最低限……)


 が、それだと……


(甘いね!)

「おおっ!」

(チッ……!)


 セカンドの徳田(とくだ)くんが素早く捕って、二塁の冬島くんの方をいったん見て釘刺し。


「ファースト!」

「アウト!」

(くそ……!)


「あっちゃ〜、三塁行けんかったか……」

「冬島やからしゃーない」


 さすがは徳田くん。彼女がいればセカンドかショートの一枠はほぼ安泰。それくらいの実力がある。


「サンキュー火織(かおり)!」

「え、えへへ……」


「あんのクソビ◯チ……!」

「また氷室(ひむろ)くんと……!」

「ルーキー!どうせアウトなら三振しときなさいよ!」


 オーナーから聞いた『あの爆弾』さえなければね……まぁ前々からそんな感じはしてたし、僕個人としては純粋にめでたいことだと思うんだけど……

 今日の女性ファン層の反応を見てても、やっぱり『起爆』した時を想像すると本当に恐ろしい。


「すみません……」


 ベンチに戻ってきた服部くんからの謝罪。


「最低限進塁打、って意識だったのかな?」

「はい……」

「せっかくの機会なんだからもっと欲張っていこう。この試合、最後まで下げるつもりはないからさ」

「……!ありがとうございます!」


 本当なら『ワンナウト二塁で冬島くんがランナーである以上、出塁を狙った方が期待値が高かった』って指摘すべきなんだけどね。その辺は試合の後で良い。今は自信を持ってプレーしてもらって底力を見せてもらう方が優先。


「……アウト!」


有川(ありかわ)ァ!何やってんだァ!?」

「おい梨木(なしき)、仕事しろ仕事」


 有川くんはそこそこ粘ったけどポップフライ。まぁしょうがない。万能故に毎年毎年チームの補完のために色んな役割を担ってもらってる立場。苦手分野の一つくらいは多めに見るさ……機材でデータ取ってる梨木くんもね。


「2回の裏、白組の攻撃。6番ファースト、金剛(こんごう)。背番号55」


「紅白戦や!遠慮なく振り回してけ!」

「主砲頼むで!」

「いやぁ〜……金剛はもうオワコンやろ」


 ウチでは貴重な和製大砲で、唯一の本塁打王経験者。打線に厚みをつけるためにも、是非とも復活して欲しいところだけど……


(……あ)


 お……?


「「「「「入ったあああああああ!!!!!」」」」」


 甘めに入ったまっすぐ。自慢のスイングスピードに乗って、打球はあっという間に右翼席へ。


(あっちゃあ……)

(こういうのがあるから振り回すタイプは(こえ)ぇねんな……)

(ここ2年ほど若い連中……天野(あまの)やリリィ、十握(とつか)辺りに席を奪われっぱなしだからな。今年こそはもう一度ホームラン王を……!)


「流石や金剛!」

「やっぱり4番は金剛だよなぁ」

「誰やねん"オワコン"言うたんは(テノヒラクルー」


 今日の陣営は敵側だけど、チームにとっては嬉しい一発。今年は新しい助っ人2人も含めて、二桁本塁打の打者を5、6人出せたらいいなぁ。30本、40本とか狙える打者なんて今では球界全体でもめっきり少なくなったけど、最低限それくらいはね。


「7番センター、秋崎(あきざき)。背番号45」


「「「おっぱいキター!!!」」」

佳子(よしこ)!佳子!佳子!佳子!」

「二連発でええぞ!」


(……せめて大声で"おっぱい"はやめて欲しいなぁ。恥ずかしい……)


 パンチ力で言えばこの子も有力候補ではある。現状の秋崎くんのセールスポイントは外野の守備力だけど、去年は二軍で二桁。月出里くんのインパクトが強すぎるだけで、秋崎くんも早くから十分な片鱗を見せてる。

 センターラインはもちろん守備も大事だけど、強いチームのセンターラインというのは打つ方も厚いもの。こういうタイプの子の台頭には期待したいとこだけど……


「ッ……!」

「アウト!」


「あーあ……」

「ま、まぁ前に飛ばせたし(震え声)」

「あのダボハゼはどうにかせんとなぁ……」


 まだ少し粗いんだよねぇ。プルヒッターなのは良いんだけど、変化球への対応にまだ難があるから早打ちになりがちで、あんな感じの浅いカウントのシュートに釣られてしまう。もう少し割り切ったスイングができればねぇ……


「だ、大丈夫っすか秋崎さん!?」

「うん、ちょっと詰まっただけ……それより宇井(うい)さん、初打席頑張ってね」

「ういっす!ありがとうございます!」


「8番サード、宇井。背番号24」


「うぉっ!?でっか……」

「コイツもルーキーか」

「あ、背番号……森本(もりもと)のやん」


 日本ではあまり見かけない、大型ショートの宇井くん。もしかしたら今日みたいにサードでの起用の方がメインになるかもだけど、とりあえずは今年、下でどっちも経験してもらう予定。

 彼女は無名校の子ながら、去年のドラフトの目玉になった浅井(あさい)くんから打ったことで一躍上位候補に躍り出たポテンシャル型の逸材。立ち位置的には月出里くんに近いかな?


「さぁ来い!」

(ウフフ……威勢が良いわね)


「おおー……」

「なんか打てそう(小並感)」

「ええぞルーキー!その意気や!!」


 とりあえずメンタル面は期待できそうだね。この大一番なのに構えがゆったりしてて、大きな身体だから余計に懐が広く見える。


「おおおおおりゃあああ!!!」

「ストライクスリー!バッターアウト!!」


「「「…………」」」


 ……うん、まぁスイングは力強いね。


「うう……まっすぐ、めっちゃ伸びてきたっす……」

「ドンマイドンマイ。ウチの野手にとっちゃ百々(どど)さんのまっすぐは通過儀礼みてぇなもんだ」

「良い振りしてたよ!」


 ベンチに戻る宇井くんを、相模(さがみ)くんと秋崎くんが出迎える。

 相模くんもすっかり若い子の面倒を見るのが板についてきたね。反面教師が2人も身近にいた影響なのか……


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