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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第三章 オーバーダイブ
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第八十一話 エースへの道(1/6)

******視点:伊達郁雄(だていくお)******


 続く4番の十握(とつか)くん。ライト方向への飛球、少し打球が上がりすぎではあるけど……


「……アウト!」

「三塁突っ込んでるぞ!」

「セーフ!」


「よっしゃ!先制や!」

「ナイス最低限!」

(くろ)たーん!」


 結果として百々(どど)くん相手に初回から先制。本番でもこうあって欲しいくらい、ウチらしい機動力を活かした理想的な攻撃。


「畔さん、ナイスランです」

「おう、三四郎(さんしろう)もナイスマッチョ!」


 ベンチ前でタッチを交わす十握くんと相模(さがみ)くん。この2人が持ち味を活かしたのはさることながら……


(松村(まつむら)さんがホームに直で投げてたら二塁狙ってたのになぁ……)

(三塁は相模さんでしたからね……ここでダイレクトは流石に分の悪い賭けです)


 主砲に見事に繋ぎ、その機動力でも遠巻きながら先制点を助けた月出里くん。足は去年から実力十分だったけど、それ以上にあのバッティング……どうやらこのオフ、去年のシフトを破るために相当な工夫を凝らしてきたみたいだね。

 ただ、月出里くんは入団まもない頃からインコースの捌きについては徳田(とくだ)くん並に光るものがあった。そこら辺も考えると……


「ストライクスリー!バッターアウト!スリーアウトチェンジ!」


(あい)ちゃん、お疲れ様!」

「ありがと!」


 向こうは先制して雰囲気は明るいけど、まだ初回の1点。こちらも特に沈んでる感じではない。


「すみません、監督……」

「いやいや、百々(どど)くんもバックも精一杯やったよ。月出里くんが上手かったか、僕の指示違いさ」


 あの月出里くんのヒット、どのみちシングルにはなってたと思うけど、それでもレフト寄りになってたセンターが定位置にいれば他の可能性だったあったはず。先制を許した件も含めて、紅組ナインに落ち度はない。


「2回の表、紅組の攻撃。6番ライト、松村。背番号4」


「今年こそレギュラーやぞ松村!」

「かっ飛ばしてけー!」

氷室(ひむろ)くーん!まだまだノーノーあるわよー!」


 去年は内野のメンバー不足で悩んでたけど、今年は外野の競争で少し悩みそうだね。森本(もりもと)くんが移籍してしまったけど、それでも助っ人外国人の総入れ替えもあって選択肢は多い……が、今の時点でレギュラー確定と断言できる子はいない。金剛(こんごう)くんは去年怪我も込みで絶不調、赤猫(あかねこ)くんは多少盛り返したけどパフォーマンスが落ちてきてるのは否めない、他のメンバーも1年間通してレギュラーと言えるくらい出た子はいない。

 先発陣はもちろん、外野陣も開幕までに存分に競って欲しいところだね。


(……!まずい!)

(ここです!)


 浮いた外の球、上手く弾き返して三遊間……


「おおっ!!?」


 抜けたと思ったのに、月出里くんが間に合った。


「ファースト!」

「アウトォォォォォ!!!」


 そしてこの肩。相変わらずフィジカルが並外れてるね……


(くっ……!さっきから月出里さんにやられっぱなしですね)


「ええぞちょうちょ!」

「捕ってすぐであのスローイング……」

「このショートの25番という選手は素晴らしいプレーヤーですね(二度目)」


 今日の氷室くんは制球がやや甘い。そこを上手く突いたみたいだけど、やはり巧打というものは巧守にもしてやられるもの。チームのウィークポイントを補う意味でも、外野にはもう少しパンチ力を求めていきたいところだね。


「7番キャッチャー、冬島(ふゆしま)。背番号8」

(幸貴(こうき)か……そういや練習以外で勝負するのって初めてか?)

(篤斗(あつと)……)


「エースと正捕手の勝負や!」

「いやぁ、でも冬島のバッティングじゃなぁ……」


 おそらく氷室くんの球を一番よく知ってる子。これはひょっとするかもね……


「ストライーク!」

(篤斗があんまり使わんカーブから入ってきた……)

(冬島ほど氷室のスプリットを捕れる自信はないからな……最低でも今の地位を確保する意味でもリードで差別化していきたい)


 元より僕は1人の捕手を1年間ずっと使い続ける気なんてない。そういう考えは好きじゃないし、元捕手だからその負担の程はよくわかってる。僕が抜けた分、土生くん真壁(まかべ)くんにも活躍して欲しいところ。


(……ツーシーム!)

「「!!?」」


「おおっ!でかいぞ!!」


 これは、入るか……!?


「ぬおおおおお!!!」

「幸貴!走れ!走れ!」

「セーフ!」

(あっぶね〜……)


 フェンスオーバーはならずとも、左中間越え……だけど二塁にはギリギリセーフ。狭い球場なのもあるけど、ここが冬島くんの弱点だね。身体が大きいから長打を打ちそうなイメージがあるけど、実はどっちかというと広角に堅実に打ち返すのが得意なタイプだからねぇ……


(流石だ、幸貴!)

(今日の篤斗はコントロールが甘いしスピードも本調子やない。カーブからの速球に見せかけて……ってとこやろうけど、そんな状態のツーシームなんて狙ってりゃ棒球もええとこや。普段の"イケメン様の付属品"扱い、ここで溜飲下げさせてもらうで)


 しかしあの読み打ち……クレバーな子だ。最近のウチの若い子は真面目でまっすぐな子が多いけど、捕手はやはり彼くらい抜け目のなさが欲しいとこだね。

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