第八十話 新しいあたしを見せ続ける(4/5)
******視点:百々百合花******
連携ミスの出塁、まぁよくあることね。
でも極端な話、投手の一番の仕事は『本塁を踏ませないこと』。
(冬島くん、打ち合わせ通りに……)
(うっす)
伊達さ……監督がベンチの前の方に出てきて、幸貴くんを介して守備陣に指示。予定通りね。
「セーフ!」
(……やっぱ警戒するよな)
そしてその手がより上手くいくように、いったんファーストにいる畔くんに釘刺し。
私だって投手である以上、三振を奪れるだけ奪りたいって気持ちもあるんだけど、逢ちゃんって全然空振ってくれないのよねぇ。ただその反面、どんな形でも当てられはする分、併殺も多い。ここで畔くんに二塁を盗られるか盗られないかの差は大きい。
「ボール!」
初球のスプリットには反応せず、か……やっぱりそうよね。私のスプリットは篤斗くんのものと比べたら手札の一つ程度。便利だから一昨年くらいから割と使ってるけど、逢ちゃんの目は騙せないわね。
「セーフ!」
(さっすが。ボール先行でも焦る気配がねぇな)
ランナー警戒中だけど、ボール先行。
(……!まっすぐ……!!)
ここいらでまっすぐを入れたくなるところよねぇ。
「!!?」
「ファール!」
(シュート……!)
良い反応してるわ。根っこの方にずらしてゴロなりポップフライなり打って欲しかったけど、身体を思いっきり捻ってより確実にファールゾーンへ持っていった。
「タイム!」
打席に入り直す前にバットを見てタイム。折れちゃったかしらね?
(逢ちゃんのバットはっと……ん?これ……)
「逢ちゃん、これだよね?」
「うん、ありがと」
「プレイ!」
佳子ちゃんが替えのバットを持ってきて仕切り直し。
(……月出里)
(はい)
そろそろ仕掛けてくるかしらね?
「!!走ったぞ!」
予想通り。だけど外高めウエスト……!?
「!!?ライト……!」
届かせた……!?
「ファール!」
「惜しい……!」
「もしかして今の、狙ってたんか……?」
ウエストの速球をあえて狙い撃ち。内側に食い込んでくる球の直後なのに、大した度胸だわ。
だけどツーストライク。これで向こうの選択肢も少なくなったはず。
******視点:月出里逢******
『3番ショート』。主力感がハンパない待遇。ずっと塁に出るのが仕事だったから、ランナーを帰すのがメインってのは本当に久しぶり。高校からは大体8番か9番、良くて1番か2番だったからね。
伊達さんがわざわざ指示を出して、百々さんが投げてからのバックの動き。多分狙いは去年散々他球団にやられたあたし対策。去年は克服が不十分だったしね。
「ボール!」
外スラ。確か百々さんって、スライダーはあんまり得意じゃなかったっけ?そこは好都合。あたしもどっちかと言うと内側の方が打ちやすいしね。
「ファール!」
そしてそれは冬島さんだって知ってるはず。その証拠に外スラを続けた。
「ファール!」
でもこれなら、まだ反応できる。
(それなら……!)
カーブ!
「ファール!」
(やっぱり粘っこいわねぇ……)
(どないします?ここいらでまっすぐかシュートで……)
(……そうね)
このまま外を続けるか、それとも内を突いてくるか。どっちに転んでも『対策』で遮ってくるんだろうけど、上等。あたしだってこのオフに、優輝とみっちり『対策の対策』を立ててきたんだから。
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