第七十九話 新体制(2/4)
******視点:伊達郁雄******
「おー、やってるねぇ」
奥行きのあるブルペンで、一軍キャンプの投手陣が横並びになって熱球を投じる。
去年のバニーズは確かに不幸が重なったのは事実だけど、それでもまだまだ課題が多いチームであるのは確か。それはドラフトにもよく顕れている。
去年のバニーズのドラフトは育成枠が多く、本指名は5人だけ。それも、2人は三遊間がメインの内野手、残りは全て投手。何を最優先すべきかがよくわかる配分。
「ナイスボール!」
特に優先すべきは先発陣。当確と言って良いのは百々(どど)くんと氷室くんくらい。三波くんについては起用法そのものから再検討の余地あり。ただ、ローテの空き枠こそ少なくないものの、候補も少なくない。二軍キャンプの恵人くんも含めて、選択肢はいくらでもある。
つまり、早速ここで僕に重い選択があるということ。
「どうだ、伊達?」
「いやぁ、まだ何とも……少なくとも来週からの紅白戦を見ていかないことには……」
今年からのバニーズの新体制、ヘッドコーチは燕昇司コーチのまま。僕は監督になったとは言えまだお飾りのようなものだからね。現場復帰後の柳監督をずっと支えてくれたこの人がいなきゃ今はにっちもさっちもいかない。
けど、僕にはチャンスが与えられた。選手の頃には決して叶わなかった優勝に、別の立場とは言え再び望めるチャンスを。
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『伊達。柳監督からの伝言。貴方、来年から監督やりなさい』
『ええっ!!?』
『細かいところは燕昇司さんに頼れば良いから』
『いや、いきなりそんな……後任だったら旋頭コーチの方が……』
『あいにく私は元々指導者志望じゃないからね。私が監督に任されたのは投手陣の再建。それが叶うまではここにいるつもりだけど、これ以上の出世は望むところじゃないわ』
『その辺の話はまずオーナーや編成を通した方が……』
『その辺とも話は付けてるわ。今のバニーズは当然結果も必要だけど、目下の課題は今年の不祥事続きからの信頼回復。功労者である貴方を厚遇するのはそういう意味合いもあるのよ』
『…………』
『貴方はもう、戦いたくないの?』
『……!』
『無茶をして山口に義理を通したその結果を、そばで見届けたくないの?』
『それは……』
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それを言われちゃ、断れないよね。
なのに恵人くんをあえて二軍スタートにしたのは、この立場としての示しを付けるためのように見えてしまうかもしれないね。実際、心のどこかでそういう気持ちがあるのかもしれないけど……
「次、カットボールいきまーす!」
「スライダーいきます!」
現状の先発ローテの有力候補。2年目の風刃くん、そして3年目の雨田くん。若手の中ではおそらくこの2人のうち最低でもどちらかが枠に入ってくるはず。
どっちもこのオフに随分工夫してきたみたいだね。特に風刃くん、フォームがかなり変わってる。アーム投げのように見えるけど……
何にせよ、キャンプの序列は必ずしも実力の序列とイコールにはならない。旋頭コーチのいる二軍キャンプでしか身に付けられないものもあるはず。
来週の紅白戦。恵人くんだけじゃなく、所属選手達全員の奮起を期待してるよ。
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