(第三章 オーバーダイブ)第七十九話 新体制(1/4)
******視点:月出里逢******
春季キャンプ初日は身体を慣らすのに専念して、ボールを打つ練習はこの2日目から。
「逢、今日はどんな感じでいく?」
「左右両方とも軽く、球種はストレートだけで。優輝も無理はしないようにね」
「オッケー」
広めの室内練習場。一軍キャンプならではの特権。
振旗コーチは今日は天野さんとか別の人達を見てるから、今日のあたしは復習と予習に専念。
「おおーっ!」
「ナイバッチ!」
「この時期なのにもうキレッキレだな……」
去年それなりにやれたおかげか、ちょっと練習してるだけでコーチとか他のクールダウン中の選手とか色んな人があたしの練習に視線を送ってる。
でもその中でも一際目立つのが、やたら背が高い女の子。多分天野さんと同じくらい。ただ、天野さんと比べると胸も含めてスレンダーな身体つき。平成初期のアニメの主人公の男の子みたいに頬に傷みたいなのが付いてるけど、顔立ちはなかなか整ってる。あたしのバッティングを羨望混じりに見つめてるのもあって、身体の割に幼さを感じさせる。
「ラスト!」
「っし!」
最後の1球を振り抜く。うん、調子は悪くない。
「お疲れ!」
「ありがと」
あたし達も一旦クールダウン。優輝が持ってきてくれたミネラルウォーターを軽く一口含む。
「あ、あの……お疲れ様っした!」
「ん?」
元気に声をかけてきたのは、さっきのやたら背の高い女の子。
「えっと……宇井さんだっけ?」
「はい!覚えてて頂いて光栄っす!自分、宇井朱美っす!」
今年の高卒ルーキーの宇井朱美さん。
去年のバニーズは相沢さんが重病にかかるわ桜井がやらかすわで三遊間を守れる選手がとにかく不足してた。おかげであたしにチャンスが回ってきた部分があったけど、やっぱりこのままじゃってことで、去年のドラフトでバニーズは内野を本指名で2人獲った。宇井さんはその内の1人。
「宇井さんって、二軍キャンプじゃなったっけ?」
「はい!コーチに許可を頂いて見学させて頂きました!月出里さんの練習、どうしても見たくて!」
「もの好きだね」
「何言ってるんすか!バニーズのスターじゃないっすか!?こんなイケメンな愛人さんまで連れ歩いて!」
「うぇっ!?」
「……いや、さっき練習見てたよね?この人は打撃投手だよ?」
「はっ!?そうでした!早合点でした!失礼しました!イケメンさんも!」
実は半分合ってるんだけどね……
「月出里さん、めっちゃ打球速いっすね!どうやってそういうバッティング身に付けたんすか!?」
「プロ入ってからかな?あいにく無名校の出だから」
「自分もっす!嚆矢園とか出たことないんで!やっぱプロはすごいっすね。どっち向いても上手い人ばっかりで……」
何だか複雑な気分。あたしと同じような経歴みたいだけど、この子はドラ2。内野のルーキーはもう1人大卒の人がいるけど、その人より順位が上。おそらく即戦力が欲しいであろうこのチーム状況でも。背番号は『24』で、それなりに若めの良い番号もらってるとこから言ってもかなり期待されてるのがわかる。やっぱ身長なのかな……?天野さんと同じで、この身長でショートやってたって話だし。
まぁこういう子に憧れてもらえるような立場になれたことも誇らしいっちゃ誇らしいんだけどね。
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