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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第一章 フィノム
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第十話 貴方に恥じないあたしである為に(1/5)

○白組


[先発]

1二 徳田火織(とくだかおり)[右左]

2中 有川理世(ありかわりせ)[右左]

3右 松村桐生(まつむらきりお)[左左]

4一 天野千尋(あまのちひろ)[右右]

5三 リリィ・オクスプリング[右両]

6捕 冬島幸貴(ふゆしまこうき)[右右]

7指 伊達郁雄(だていくお)[右右]

8左 秋崎佳子(あきざきよしこ)[右右]

9遊 月出里逢(すだちあい)[右右]


投 氷室篤斗(ひむろあつと)[右右]


[控え]

雨田司記(あまたしき)[右右]

山口恵人(やまぐちけいと)[左左]

夏樹神楽(なつきかぐら)[左左]



●紅組

[先発]

1中 赤猫閑(あかねこしずか)[右左]

2遊 相沢涼(あいざわりょう)[右右]

3右 森本勝治(もりもとかつじ)[右左]

4左 金剛丁一(こんごうていいち)[左左]

5一 グレッグ[右右]

6指 イースター[右左]

7三 ■■■■[右右]

8二 ■■■■[右左]

9捕 真壁哲三(まかべてつぞう)[右右]


投 三波水面(みなみみなも)[右右]


******視点:氷室篤斗(ひむろあつと)******


 向こうは初回三者凡退、かたやこちらは無得点とは言えプラン通りに攻撃を進めてくれた。流石は火織(かおり)だ、良い具合に口火を切ってくれた。


「4番レフト金剛(こんごう)。背番号55」


 俺がやるべきは、この気持ち的にも優位な状況をできるだけ守っていくことだ。そうしてりゃきっと、火織達も点を取ってくれる。


「ボール!」

「ボール!」


 いかんいかん、少し気持ちが逸ってるな。


(まぁこういうこともあるわな)


「ドンマイドンマイ氷室(ひむろ)くん!」

「とりあえずワンストライクー!」


(……あんまりキャッチャーの前で気軽に『とりあえずワンストライク』なんて言ってほしくないんやけどなぁ。なんせ相手はウチの最強打者。その『とりあえずワンストライク』で迂闊な球投げて痛い目に()うたら悔やんでも悔やみきれんわ)


 幸貴(こうき)からのサインは……ここで使うのか。いや、その方が良いかもしれんな。


(置きにきたか……甘い!)


 かかった!


「ストライーク!」

(何……!?)


 この状況で、いや、この状況だからこそとっておきの一球。あの金剛さんですら、『あの球』を『置きにきた速球』と思い込んでくれた……!


(そう。それでええんや。ここで必要なのはワンストライクそのものなんかやない。最悪歩かせても良いから、一番良い球で自信を取り戻させてやることや)

(……成る程、赤猫(あかねこ)さんが仕留められるわけだ。それにしても少し内寄りの球かと思ったが、落下地点は真ん中付近。基本はフォーク系の落ちる球のようだが、少しシュート気味の変化が加わってるのか?)


 とは言え、打者は慣れれば打つもの。むやみに決め球を見せないのが定石ではある。


(でもな、決め球を見せるのは悪いことばかりやないんやで?)

「ファール!」


 真ん中付近ながら140後半のまっすぐ。スピードのある落ちる球があるとわかれば、まっすぐがまっすぐであると確信するのに時間がかかり、必然的に振り負ける確率が上がる。もちろん、バッティングカウントやったからまっすぐ自体にある程度力がないとできんことやけどな。


「ファール!」

(そして、まっすぐのタイミングに修正させたところで……)


 打たせてやれば良い!


「サード!」


 ツーシームを引っ掛けた金剛さんの打球は強い勢いながらもサード正面。左方向にゴロを打たせるのは想定通り。そして……


(よし!何とか前にこぼせた!)


 綺麗にキャッチとはいかないまでも、リリィはこれくらいなら十分捌けるようになってきた。


「アウト!」


(……確かに、以前までの篤斗は『器用貧乏』な投手やった。そういう悪い意味でも有名な奴やったけど、こうやって基礎能力が上がって軸になる球を身に付けたことで、『器用貧乏』が『投球の幅広さ』に転じた。オレが捕っとる以上、そう易々と打たせたりはせんわ)


 ツーボールから金剛さんを打ち取れた。お陰で良いイメージで投げられて、続くグレッグはショートフライ、イースターは空振り三振。


「スリーアウト!チェンジ!」


 今の時代は特にメジャーだと1・2番に長打のある打者を置くことがあるが、機動力が売りのウチの打線は、4・5・6番にパワーヒッターを据えるオーソドックスなスタイル。神経が尖る相手ばかりのこの回を無傷で乗り越えられたのは大きい。


「幸貴、ありがとな。金剛さん相手の時にちょっとテンパっちまったが、何とか持ち直せた」


 あの球をきっちり捕ってくれるだけじゃねぇ。配球の判断も安心して任せられる。何人ものプロのキャッチャーに捕ってきてもらったからこそ、ルーキーとは思えないくらいコイツは頼りになる。


「当然のことをしたまでや。あと3回、この調子で頼むでエース」


 エース、か……そうだな。たった13人のメンバーとは言え、そこで一番多くのイニングを任されてる以上、立場的にはそうなるな。だが……


「……幸貴。一つだけ言わせてくれ」

「?何や?」

「お前の言うように、俺は今日このチームのエースを任されてる。そのことは確かに誇らしく思ってる。でも俺はその程度で満足する気はねぇ」


 俺自身のためにも、火織や旋頭(せどう)コーチのためにも。


「俺が目指すのは、プロ入りしてから今までずっと"日本一のエース"だ」


 大袈裟かもしれねぇけど、それだけは絶対に譲れねぇ。


「ま、残念ながらシャークスの妃房(きぼう)みたいにカッコ良くデビューとはいかなかったけどな。だが俺は負けっぱなしでいるつもりはねぇ」


 バッテリーを組んで1週間程度の奴に言うにはむず痒いことだから、少し自嘲してみせる。


「……おう!頼りにしてるで!」


 単にピッチングのモチベーションを維持する為だけかもしれねぇが、幸貴は肯定してくれた。


「ナイピー!」

「おう、サンキュー!」


 ……俺の方こそ、いつもありがとな、火織(かおり)


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