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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
495/1161

第七十八話(第二章最終話) 背番号25(2/9)

******視点:綾瀬小次郎(あやせこじろう)[横須賀EEGgシャークス投手兼任コーチ]******


 10月7日。CS(クライマックスシリーズ)ファーストステージ3戦目。本拠地・横須賀スタジアム。

 シャークスはペナントレースでは2位やったおかげでCSの本拠地開催を勝ち取った。のはええんやけど……


「三塁ランナースタート!」

「刺せ!刺すんだ唐須(からす)!!」

「まだ終わってねぇ!」




「セーフ!!!!!」

「「「「「…………」」」」」


「「「「「おおおおおおおッッッ!!!!!」」」」」

「勝てる!勝てるんや!」

「やっぱり横須賀は本拠地じゃないか(安堵)」


「勝ち越し!!!2-1!パンサーズ、8回の表、犠牲フライでついに勝ち越しッッッ!!」


 3位はただでさえ今年対戦成績の悪いパンサーズ。しかも何故かウチの本拠地ではここ数年負けっぱなし。何とも因果な話。


「6番キャッチャー、与儀(よぎ)。背番号8」


「頼む!ここで逆転なんだ!!」

「同点でも良い!」

「帝国シリーズ行きたいんだ!」


「9回の裏ツーアウトランナー一塁、正捕手の意地を見せられるか……」

「「「「「あと1人!あと1人!あと1人!あと1人!あと1人!」」」」」




「引っ掛けて……ピッチャー捕る!」

「アウトォォォ!!!」

「スリーアウト!試合終了!!CSファイナルステージ進出はパンサーズに決定!!!」


「知ってた(絶望)」

「実質向こうの本拠地だしなぁ……」

「やっぱCS、ファイナルステージだけじゃなくてファーストステージももっとアドバンテージあった方が良くない?」

「いや、そもそも2位で終わった時点でウチも帝国シリーズ出るのアレだろ……」

「おいコラァ!何でジェネラルズにリベンジできんのじゃ!?」

「目の前で胴上げされてベソかかされたのにこのままでええんか!?」

「いつまで帝国一待たされなアカンのや!!?」


「「「「「…………」」」」」


 EEGg(イーエッグ)体制になってから、この球場の満員御礼が珍しくなくなったのはありがたい話やけど、皮肉にもペナントレースでもCSでも敗退の舞台になってしもうた。おかげで四方八方から絶え間なく続く嘆き、怒声、罵倒。

 そもそも最下位常連の頃と比べたら随分と贅沢な悩みやけど、それを言い出せば立場が同等なはずのプロ球団にそういうヒエラルキーが暗黙的に存在すること自体がおかしな話。


「ぐう゛ッ……!」

「くそッ……!くそッ……!くそッ……!」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッ!!!!!」


 ま、勝つことを怠り続けたツケを残したまま終わるのは心苦しいけど、若い連中が負けて悔しがれる内はまだ救いがあるんやろうな。


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 10月8日、今年最後の試合の次の日。同じく横須賀スタジアム。

 観客席は当然無人。グラウンドも、今日は練習休みで今は俺だけ。


「んしょっと……」


 フェンスを伝うように走ってると、グラウンドキーパーが見落としたのであろう駄菓子の空袋。単にもう片付けただけなんかもしれんけど、メガホンとかやないのは救いやな。あんなこと言われたって、まだ見捨てられちゃいないってことや。

 こういうのも、今日で最後なんやな。最後に拾ったのが単なるゴミで良かったわ。


綾瀬(あやせ)さん」

「……!妃房(きぼう)……自主練か?」


 袋を拾って尻ポケットに入れようとすると、グローブを持った妃房の姿が見えた。


「綾瀬さんもですか?」

「まぁ……『納め』やな」

「……ならキャッチボール、付き合ってもらえます?」

「おう、ええで」


 答えがわかってたように、ベンチに置いてた俺のグローブを渡してきた。

 近距離から軽い受け渡し、少しずつ離れていって、どうにか会話が届く程度の距離に。


「すみませんでした」

「何や?

「1戦目、落としちゃって」

「アホ。全員の責任や」

「せめて綾瀬さんが出られれば……」

「気にすんな。引退試合はさせてもらえたんやからな」


 1戦目はいわゆるルーズヴェルト・ゲームで負け。2戦目は負けの許されない状況で2点差でどうにか勝ち。3戦目も1点差のロースコア。一応ブルペンで準備してはいたけど、ロートルの俺に投げさせられるような余裕なんてなかった。


「来年からどうするんですか?」

「んー、まぁアメリカの方で留学でもしよかなって。いつか監督とかコーチもやりたいし」

「なら戻ってきてくれるんですよね?」

「おうよ。どんな形でも、また優勝して帝国一になりたいからな」

「させてみせますよ」

「……!」

「あの人達も、もう"ピエロ"じゃないみたいですし」

「どういう風の吹き回しや?」

「綾瀬さんが言ったんじゃないですか。『アタシは慎ましい』って。だから、もうちょっと贅沢するって決めたんです」

「……ええこっちゃ」

「これからも相談に乗ってもらえますか?」

「おう、いつでも来いや」

「……あ、それと」

「?」

「28年間、お疲れ様でした」

「……ありがとな」


 経営元の揉め事が表面化したり、アホみたいに負けまくったり、皮肉めいた終わり方をしたり、とにかく悔いの残る1年になってしもうたけど、妃房(コイツ)がちょっとでも変わり始めてきたのは大きな収穫かもしれんな。


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