第九話 あたし達が目指すべきは(9/9)
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
・
・
・
(白組で特に出塁に期待できる徳田、繋ぎのできる有川、そしてアベレージヒッターの松村。なるほど、単に左を並べたわけじゃないな)
(爆発力よりも確実性重視。投手陣を信じて、できれば距離を取りつつ逃げ切るって作戦ね)
お察しの通り、私に求められるのはこう言う状況でのワンヒット。バニーズは俊足の選手が多いのもあって外野の守備範囲は球界でもトップクラスですが、あまり強肩の外野手がいません。加えて徳田さんの脚なら、ワンナウトでのシングルでも十分生還の見込みがあります。
(そう簡単にはやらせないわよ!)
「ストライーク!」
「ファール!」
「ボール!」
「ファール!」
ここまではスライダーとツーシーム、横変化中心。
三波さんのツーシームは氷室さんのそれとは少し異なるナチュラルツーシームというもので、通常のツーシームよりも沈みが小さく横滑りが大きいのが特徴です。そして、スライダーも腕の横振りに比例して横変化に偏ってます。
この2つとフォーシームとカットボールでストライクゾーンの横幅いっぱいまで活用して攻め込むのが、三波さんの投球の基軸となっています。
(だが、これだけだと左打者には対抗しきれない。球速が遅めな上、右のサイドだと左打者にとっては球の出どころが見えやすく、しかも縦変化に欠けるから空振りも取りづらい。だから、右投げ左打ちの打者が増えた今の時代では右のサイドの先発は稀少な存在となった)
(だけど、お姉さんにはこの球があるのよ……!)
まるで海に潜るかのような深い身体の沈み込みと、大きめのテイクバックから水面を薙ぐようなスローイング。三波さんの特徴的な投球フォームから繰り出されたのは、リリースポイントから大きく上に逸れる暴投……
ではなく。
「ッ……!」
高めに大きく浮いた球が、ホームベース付近で弧を描き、低めいっぱいを掠めとらんばかりに急降下。速球系よりは遅いですし、予備知識もあったのでどうにか当てることはできましたが……
「アウト!」
「おおっ!遂に今年初お披露目だな、水面ちゃんの魔球!」
「水面ちゃーん!今年もキレてるよー!!」
「コラ!"水面お姉さん"と呼びなさい!!」
結果はショート相沢さん正面へのゴロ。これでは当然、二塁の徳田さんは進塁さえできません。
参りましたね、最低限の仕事さえさせてもらえないなんて。向こうはいつも通り、幼い見た目の三波さんをいじる若めのファンの方々と、それを母親のように嗜める三波さん。ツーアウトながらなおも得点圏というこの状況でも余裕綽々とは悔しいものです。
******視点:有川理世******
「話に聞いてたよりずっとすごいですね、三波さんの『シンカー』……」
そう言えば佳子ちゃんはリプの試合をあまり観ないと言ってましたね。
「でゅふっ、佳子ちゃん。あれは正確には『スクリュー』なんですよぉ。三波さん自身もそう明言してます」
「え?スクリューって、サウスポーしか投げれないんじゃなかったですか……?」
「いえいえ、それはゲームの話ですよぉ……でゅふっ、ちなみにスクリューを初めて投げた投手も、世の中に浸透させた投手もどちらも右投手なんですよぉ?」
右中間も知らなかったくらいですから、そこを勘違いしててもおかしくないですね。
「まぁピッチャーの球種って割と自己申告なことが多いのですし、そうじゃなくても分類の基準なんて突き詰めていくと人それぞれになっちゃうんですけど、一般的にはシンカーは直球の軌道から沈むようなもの、スクリューは逆方向のカーブみたいな変化をするものを指すことが多いですねぇ」
「確かに、縦のカーブみたいな感じでしたね」
「でゅふふ……そうなんですよぉ。サイドスローの球って基本は横に変化する傾向が強いんですけど、あの球は見ての通り大きく縦に割れるんですよぉ。幅広い横の変化に加えてあの魔球があるからこそ、三波さんは左打者にも対抗できて、先発の勝ち頭になれたんですよぉ」
残念ながら、続く4番の天野さんは外のスライダーを打ち上げてライトフライで、1回の攻撃は終了。伊達さんも言ってたように、これは一筋縄じゃいかないでしょうねぇ。