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868回敬遠された月出里逢  作者: 夜半野椿
第二章 背番号25
483/1152

第七十五話 慎ましい奴(4/4)

******視点:綾瀬小次郎(あやせこじろう)******


 ジェネラルズとのゲーム差0.5、首位浮上の可能性もあった試合で妃房(きぼう)がノーノー。残念ながらジェネラルズも勝ったから順位は不動やったけど、この局面で最高の働きをしてくれた。

 そして次の8月10日もスティングレイ戦。試合前に円陣を組んで、監督からの訓示。


「HEYお前ら!よくここまで登り詰めたNA!オレはお前らの働きを誇りに思うZE!少しでも早く頂点(テッペン)を獲りたい所DAGA、あいにくとジェネラルズとの直接対決は2週間後までお預けDA!つまるところしばらくはお互いにどれだけ勝ち続けられるかの攻防戦(デッドヒート)となるわけDAGA、お前らならやれると信じてるZE!春先の苦境を乗り越えられたお前らなら絶対にNA!さぁ行こうZE!!」

「「「「「ウェーイ!!!」」」」」


 確かにあの大型連敗は今となっては糧になっとる。妃房のキッツイ指摘で選手達の深いところにあった甘さをある程度払拭できたし、『苦境を自力で乗り越える』という成功体験も得られた。

 今この順位におるのも、パチンコの勝ち負けの揺り戻しみたいなものじゃなく、実力あってのものであることは客観的に見ても間違いないことやと思う。


 が……


「レフト下がって……捕っ、ああっ!!?」


「「「「「ほあああああああ!!!!!(ヽ*´○`*)」」」」」


「打って、ショート飛びついて……抜けましたレフト前!」

「セーフ!」

千石(せんごく)ホームイン!綿津見(わだつみ)、タイムリー!これで4点目!」


「見たかポジサメども!」

「これがウチの責任追及打線じゃ!!」

「昨日の分、まだまだやり返したれ!」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「レフト下がって……入りましたツーラン!"怪童"猪戸(ししど)、26号!ペンギンズ、これで何と14点目ッ!!14-0!!!」


「「「「「…………(*^○^*)」」」」」

「ほんまつっかえ!」

「何が逆転優勝やこの猿ゥ!」


 ジェネラルズは尻に火がついたのかあれ以降勝ち進む中、ウチは最下位のペンギンズ相手に3タテを喰らった辺りからまたゲーム差を離されてしもうた。


「アウト!ゲームセット!」


「「「ッしゃあああッ!!!」」」

「ナイスやエース!」

「ここで投げ勝ててこそだよなぁ」

「横須賀にもこんなエースがいるんだ!(*^○^*)」


 待ちに待った直接対決。2年目の斉藤(さいとう)の勝ちで始まり、3戦目を長尾(ながお)で勝って勝ち越し。これでまた勢いがついて9月の頭には2ゲーム差まで詰め直せたんやけど……


(今度こそ競り勝つ、今度こそ競り勝つ……!)

(見てろや妃房、俺らは"ピエロ"じゃねぇ……!?)

「セカンド正面!」

「アウト!」

「一塁へ転送!」

「アウト!」


「「「のおおおおお!!!!!(*^○^*)」」」

「できれば無関係を装いたい拙攻ぶりですね……(ヽ*´○`*)」

「アホォ!何でそれダボハゼするんじゃ!?」

「点差考えろや点差!」


 今度は5位のサラマンダーズ相手に3タテを喰らって、またしても勢いを失う。

 そしてこのカードの直後……


「皆みな方!我々にはまだ勝機がある!私にできることはチームを負かさぬことと、野手陣の奮起を願うことのみ!21年ぶりの頂点は目の前にある!さぁ行こうぞ!!」

「「「「「ウェーイ!!!」」」」」


 9月10日から3日間。本拠地横須賀で、ジェネラルズとの直接対決。残り試合数から言っても絶対に落とせんカード。カード頭に長尾、ケツに妃房。当然こっちも本気の布陣。


「入った!ロボ、先制の一発!1-0!!」


「流石なんだ兄貴!(*^○^*)」

「長尾ならこれでいける!!」

「今度こそ首位浮上なんだ!(*^○^*)」


 エースの登板日に序盤で先制。幸先は良い。


「……ボール!フォアボール!」

「ああっ、外れました……菱事(ひしこと)、ツーアウトから粘って出塁!」

「4番サード、篠花(しのはな)。背番号25」


「ドンマイドンマイなんだ!(*^○^*)」

「力まなくてもいいんだ!(*^○^*)」






(……ッ!!しまっ……)

「打って……ああっ、レフトとセンター、脚を止めました……」

「入りましたねぇ……」

「入りました逆転ツーラン!27号!!篠花、この大一番、主砲の一発で逆転ッ!!!」


「「「「「ぎゃあああああ!!!!!(ヽ*´○`*)」」」」」

「ま、まだや!」

「1点差1点差!」

「まだまだ巻き返せるんだ!(*^○^*)」






「ッ……!」

「レフト……また入った!篠花、二打席連発ッ!!」


「「「「「…………(*;○;*)」」」」」


「ギャリック、俯いて顔を上げられません!」


 守備のミスで余計に進塁したランナーが犠牲フライで帰った直後。得点差はまだ3点。決して可能性がないわけや無いけど、この展開は……


「アウト!ゲームセット!!」


 天王山の一戦目は、あまりにも痛い逆転負け。


「入った!ハンマー、これでこの試合3発目!!2年連続40号にリーチをかけました!!!」


 2戦目は向こうの先発が微妙だったおかげで大差をつけて勝利。


「ふぅーっ……」

(妃房、焦るなよ……ッ!?)

「……抜けました!先制ッ!!」


 せやけど3戦目。妃房もシーズンの疲れが祟ったのか、元々苦手な立ち上がりを攻められて先制を許し……


「入りました25号!菱事(ひしこと)、これで今日3打点!!」


「「「「「もうダメだ……おしまいだぁ……(*;○;*)」」」」」


 中盤までに点差を付けられ……


「アウト!」


「おいィ!?もうちょっと粘れや!!」

「点差点差!」

「内野にゴロとフライだけ打ってりゃ勝てるわけじゃねーぞ!」


 焦りでミスショットを重ね……


「アウト!ゲームセット!!」


「「「「「…………」」」」」


 最終回にようやく打線に火が付いたものの、追いつかず。

 あまりにも痛い負け越し。チームの勢いを失わせるには十分すぎる結果。


 そして、9月21日。再び横須賀でジェネラルズとの直接対決2日目。


「まだ終わってない!終わってないんだ!(*;○;*)」

「今日から全部勝てばまだいけるんだ!(*;○;*)」






「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!!」


「「「「「「「おおおおおおおッッッ!!!!!」」」」」」」


「三振ッ!!!帝都桐凰(ていととうおう)ジェネラルズ、5年ぶり37度目のリーグ優勝!長く苦しい低迷を乗り越え、令和の1年目、再び頂点に君臨しましたッ!!!」


加山(かやま)!加山!加山!加山!」


 狂喜するジェネラルズナイン。監督コーチ陣もグラウンドに飛び出し、加山監督が宙に舞う。


(……屈辱ッ!!!)

(あの18連敗がなければ……)

(もっと早くから練習始めてたら……)


 その光景を、俺達はベンチで涙を堪えながら睨むしかなかった。1年間必死に戦ってきたのに、自分達の庭で、目の前で、王者の胴上げを許す。これほど耐え難いものはない。


「やっぱりジェネラルズの下請けじゃないか(呆れ)」

「まぁええ夢見せてもろたやんけ」

「どないすんねん来年から。天竺(てんじく)もおらんくなるんやろ?」

「また再建期かぁ……」

「いつになったら優勝してくれんねん……」


 確かにウチやって成長した。俺がずっと過ごしてきた暗黒時代と比べたら天と地ほどの差がある。2位も決して誇れないもんでもない。実力もジェネラルズと差はあらへん。

 せやけど、ウチはきっと勝ち慣れてなかったんやろうな。


 プロ野球選手の現役期間なんて長くても大体20年なんやから、『40年くらいに1回しか優勝できん』ってのも一見すれば選手個人個人にとっては無関係のようにも見える。それでも、チームを率いるのは大抵そのチームにおった人間。未来に受け継がれるのは有益な技術や知識だけやなく、連続する歴史もまた然り。

 このリコにおいて最も多く優勝してきたジェネラルズがこうやって頂点に立ったのもまた、その証明なんやろうな。0.5ゲーム差に迫った時期も、『勝ち続け合い』じゃなく『直接対決』だったとしても、おそらく同じような結果になってたと思う。


 『勝ったことがなければ勝ちきれない』というあまりにも重すぎる呪縛。それを解くには、ウチはまだまだ『とりあえずの勝ち』すらもまだ足りてないということ。そういう意味では、ウチの暗黒時代はまだ完全には終わっていないっちゅーことになる。

 つまりは妃房だけやなく、このチーム自体もまだまだ"慎ましい奴ら"ってことやな……

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