第七十五話 慎ましい奴(3/4)
******視点:綾瀬小次郎******
これで少しは響いたやろか?
妃房は……コイツは真面目なのは真面目やし、反省もする。せやけど、根っこの部分が良くも悪くもぶれへん。必要に応じて表面的な部分をアップデートするだけ。コイツにとっちゃ、『投手ってのは打者と勝負するためのツールでしかない』ってのが深いところにあるんやろうからな。
そんなん、プロ入っても30年近く投手やってきた俺が許せるわけあらへん。誰よりも良い投手になり得るコイツが投手を一番ぞんざいに扱うなんて、許せるわけあらへん。
一人のプロとして、一定以上の成功者として、他人が自分を超えるのに全く思うところがないわけやない。せやけど今の俺はそういう奴を育てるのも仕事なんやし、そういう奴でこのチームを勝たせんとアカン。好条件のFAも蹴って、このチームにずっとおるって決めた以上な。
……最後の最後に、また優勝したいし。
「綾瀬さん」
「ん?」
「今度のオフ、時間ありますか?」
「おう、大丈夫や」
せやから、やる気がある限りは付き合ったるわ。コイツが少しでも投手に、エースになれるようにな。
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【超朗報】鮫さん、首位と0.5ゲーム差【横の球団】
1 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
1位 ジェネラルズ
2位 シャークス
3位 スティングレイ
4位 パンサーズ
5位 サラマンダーズ
6位 ペンギンズ
春先に18連敗した球団に
首位を明け渡しそうなリーグがあるらしい
2 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
交流戦の影響がモロに出てるな
スティングレイ4連覇待ったなしと思ってたのに
3 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
クイーンが微妙やったのにかなり勝てたからなぁ
日程的に真木とかやべーやつばっかりやったのに
4 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>3
18連敗の後のシャークスは伊賀瀬ボコったり
何故かエースキラーなんだよな
パワーピッチャーだらけのリプとは妙に噛み合った
5 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
まぁ元々普通に優勝争いできる戦力あるんやし
収まるところに収まった感じやろ
6 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
綾瀬も引退するんやしほんまに勝負の年になったな
7 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>6
こマ?
8 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>7
シャークスさん公式がPV出してるで
『逆転優勝 〜最後の頂点を〜』
ttps://www.sharks.co.jp/movie/2019/0719
9 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>8
2位浮上した途端こんなん出してたんか(困惑)
10 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>8
隙あらばプロモーション
11 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
長尾復活でクイーンも上がり調子
鴨川もルーキーの木内もええ感じやし
現状最強ローテやろ
12 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>11
鴨川は当たり外れがクイーン以上にデカいのがなぁ
こっから先の懸念材料でもある
13 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
何か唐須も冷えてへん?
14 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>13
ホームランも全然出ぇへんよなぁ
戸狩おるからまだええけど
15 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>13
代わりに小森とハンマーホッカホカや
16 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
矛崎もスタメンで使いたいけど
センターライン以外が渋滞しすぎや
17 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
>>16
天竺が来年メジャーやろうからそこからが勝負やな
18 : 風吹けばちょうちょ [] :2019/08/06 (水)
もう38年も待ちたくないんや
今年はマジで優勝してくれ
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******視点:妃房蜜溜******
「9回のマウンドにはやはり妃房蜜溜が向かいます!まさに今、我々は歴史的な場面を目撃しております!」
「「「クイーン!クイーン!クイーン!クイーン!(*^○^*)」」」
「あと1イニングなんだ!(*^○^*)」
「首位争いでこんな試合が観れるなんて……(*^○^*)」
「18連敗の時にファン辞めなくて良かったんだ!(*^○^*)」
「でも小森だけが心配なんだ……(ヽ*´○`*)」
8月7日。シャークスが首位ジェネラルズと0.5ゲーム差まで迫った直後の大一番が、奇しくもアタシの登板日となった。ジェネラルズとの直接対決ではなく、相手はスティングレイだけど、結果如何では首位もありうる大事な試合。
まぁアタシ自身は別にそれを意識したわけじゃない。チームがどうなっていようが、投げるからには勝ちにいく。そこのところは前までと変わっちゃいない。
「9回の裏、スティングレイの攻撃。8番ショート、柏。背番号2」
「柏ァ!死ぬ気で出ろや!」
「地元でこんな大恥許されんぞ!」
「たまには仕事せんとシゴウしたるぞ!」
去年まで不動の1番打者だったけど、今年は調子が上がらない柏さん。今日もノーヒットではあるけど……
「……ボール!フォアボール!」
「ああー、これは少し力んでしまいました……先頭打者出塁!」
「ええぞ!それでええんじゃ!」
イニングを挟みつつ、良いピッチングを継続すると言うのは言うほど簡単なことじゃない。向こうも元々選球眼が売りのリードオフヒッター。焦って早打ちなんてしてくれないよね。
……ま、それはそれで良い。
「ッ……!」
「セーフ!」
「ここで一塁牽制!」
「うぉっ!?速ッ!!?」
(やっぱ聞いてた通り、前までよりも牽制が鋭くなってやがる……!)
(それでええ。それでええで)
1点差……でもそれ以上に、勝負にケチはつけさせない。
「ストライク!バッターアウト!」
「アウト!」
「ストライク!バッターアウト!ゲームセット!!」
「三振ッ!!妃房蜜溜、プロ入りから3年連続のノーヒットノーラン達成ッ!!!9回無安打2四球14奪三振!1-0、シャークス、後半戦も勢いが止まりません!」
「「「「「おおおおおおおッッッ!!!!!(*^○^*)」」」」」
「「「「「クイーン!クイーン!クイーン!クイーン!(*^○^*)」」」」」
「やっぱりクイーンが最強エースなんだ(*^○^*)」
「これで今日ジェネラルズが負けてくれたら完璧なんだ(*^○^*)」
「そうじゃなくても優勝待ったなしなんだ(*^○^*)」
「よくやった、妃房」
「与儀さんも、今日もありがとうございました」
マウンドで与儀さんと労い合ってると、球団スタッフの人も来る。手渡されたのは、手の込んだプラカード。まさに今の状況にピッタリな、3年連続ノーノーを祝うもの。またEEGgの営業の人達がこの時に備えてたのかな……?本当、商魂逞しい人達。
まぁ今日は良いや。アタシだって、ノーノーは素直に嬉しいしね。空気を読んで、プラカードを掲げて観客席を見渡す。
「妃房、お疲れさん」
「綾瀬さん……」
「9回、最初はアレやったけど落ち着いて投げれたな。ええ感じや」
「はい。できれば刺したかったんですが……」
「あれで十分や。牽制がきちんとできるってだけでも気持ちに余裕ができる。その分をお前の好きな打者との勝負に注ぎ込んだらええねん。今日はホンマようやったな」
「ありがとうございます!」
小学生の頃、本当に純粋に投手をやってた頃を思い出した。あの頃は関西の子達にボコボコにされて、それが今のアタシになるきっかけになった。落ち込んだのも、打者との勝負だけに一生懸命になったのも、アタシにとっては必要な段階だったと思う。
今だってやっぱり一番の望みは『良い打者と勝負すること』。でも、だからと言ってそれだけやってても、アタシができないことや嫌なことがあるたびに、『アタシは打者に勝てれば良い』って言葉に逃げるしかなくなる。そうやって誤魔化しきれないモヤモヤを抱えたままじゃ、それこそ勝負にだって差し障る。
……『投手』ってやつを、もう少し贅沢に楽しんでみるのも悪くないのかもね。月出里逢に今度こそ勝つためにも。
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