第九話 あたし達が目指すべきは(8/9)
○白組
[先発]
1二 徳田火織[右左]
2中 有川理世[右左]
3右 松村桐生[左左]
4一 天野千尋[右右]
5三 リリィ・オクスプリング[右両]
6捕 冬島幸貴[右右]
7指 伊達郁雄[右右]
8左 秋崎佳子[右右]
9遊 月出里逢[右右]
投 氷室篤斗[右右]
[控え]
雨田司記[右右]
山口恵人[左左]
夏樹神楽[左左]
●紅組
[先発]
1中 赤猫閑[右左]
2遊 相沢涼[右右]
3右 森本勝治[右左]
4左 金剛丁一[左左]
5一 グレッグ[右右]
6指 イースター[右左]
7三 ■■■■[右右]
8二 ■■■■[右左]
9捕 真壁哲三[右右]
投 三波水面[右右]
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******視点:松村桐生******
「秋崎さん、ナイスキャッチです!」
「ありがとうございます!松村さんと有川さんに教えてもらったおかげです!」
正直に言うと、まだちょっと追い方が危なっかしいし、細かいことを色々覚えたところでどうしても経験不足が祟る危険性はあります。それでも元々の運動神経が良いからか、成長率は1週間分とは思えないくらいですね。あの俊足強肩も相まって末恐ろしいものです。なので競争相手を自分自身で増やしてるような危機感も覚えてるのですが……
「それにしても松村さん、見ました!?やっぱり冬島さんが氷室さんを引っ張っていく感じですかねぇ……」
「もちろんそれもアリですが、逆に皆さんに頼られてる冬島さんが時々氷室さんにだけ弱みを見せて、というのもですね……」
秋崎さんはバニーズでは初めて巡り会えた同好の士ですからね。助け合うことはやぶさかではありません。
「うーん、氷室くん成長したわねぇ。お姉さん褒めてあげたくなっちゃう!」
「笑い事じゃないぞ三波。あまり考えたくはないが、あの調子だと5回まで零封もあり得る。ただでさえ3点のハンデがあるのに、その状況で失点を許すと確実に流れが悪くなる」
「もう、後ろ向きすぎますよ真壁さん。要は私も点を取られなきゃ良いんでしょ?」
伊達さんの予想通り、今日の相手先発は三波さん。
バニーズでは山口さんの次に背が低く、癖のあるショートヘアの可愛らしい方ですが、あの見た目で百々さんより1つ年上なんですよね。あの体格なので球速は最速でも143km/hですが、それをものともしない実力者です。
「1番セカンド徳田。背番号36」
「おっしゃあ!今年初の1番!!」
そんな好投手が今日の相手ですが、今年初めて、というかプロ入りしてからは数えるほどしかないクリーンナップ起用に応えるためにも、徳田さんと有川さんのチャンスメイクに期待したいですね。
(三波だからあまり左を気にする必要はないが、3人も並ぶのは流石に嫌だな……とりあえず、初球はこれでいこう)
通常より低めの右のサイドスローから繰り出される速球。内角打ちを得意とする徳田さんが相手だからか、速球はさらに外へと逃げていくツーシームですが……
「初球打ち!?」
これには私も意表を突かれました。三遊間を上空から抜ける、見事なレフト前ヒット。
「火織の初球打ちは珍しいな。しかも外角狙い……まぁ読みとしては見事やな。どっかの誰かさんにノックしまくったおかげで、流し打ちも上手くなったんやろうなぁ……」
「それは否定せんけど、ウチやってその礼に流し打ちのコツとか色々教えたっちゅーねん」
冬島さんとリリィさんも言うように、去年まであれだけ引っ張り一辺倒だった徳田さんのバッティングも、ここ最近本当に幅が広くなりましたね。
「へぇ、あの子スイング速いねぇ」
あの器用さに加えて、樹神さんも感心するスイングスピード、正直嫉妬すら覚えますね。
「2番センター有川。背番号0」
「有川ァ!最低限は果たせよォ!!」
「有川さん、打ち合わせ通りにお願いします」
「はぁいキャプテン。お任せください、でゅふふ」
(ランナー一塁で理世ちゃん。となると、ここは……)
初球は高め速球。
「ボール!」
モーションに入った段階でバントの構えを取ったものの、ボール球であると見切ってバットを引く。
(やっぱりそれよね)
有川さんは守備走塁が最大の武器ですが、バントをやらせてもチームトップクラスの名手。シンプルに打つこと以外は本当に何でもできる人なんですよねぇ。
(でもお姉さん、そういうの簡単には許さないわよ)
「うひゃぁ!?」
「ストラーイク!」
インコースギリギリのスライダー。これは厳しい。
(でゅふ……右サイドだからまるでボクシングの右フックみたいですねぇ……)
(競争相手だからと言ってぶつけるつもりはないが、タダでワンナウト貰うぞ)
「セーフ!」
そして、一塁への釘刺しも抜かりない。
(ワタクシメは本来、上位打線を任されるような実力はないですからねぇ。これもひとえに左打ちであることと、つなぎ役として期待されてのこと。だからせめて、最低限の期待は応えなきゃいけませんよねぇ……)
「むっ……!?」
インハイへのストレートをものともせず、勢いを殺した見事なバント。
「三波!セカンドは間に合わない!ファーストだ!」
「アウト!」
「ナイスバントです、有川さん」
「三波さんはいつも通り好投してますけど、松村さんならきっと打てますよぉ。事実上の先制点、お願いしますねぇ、でゅふふ」
ワンナウトランナー二塁。ここまでは理想的な流れですね。